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爱 . @ 新垢
声が届くなら
夜の空気は、少しひんやりしていた。
「今日さ、なんか静かじゃね?」
ニキはスマホを片手に、ゆるく歩く。
いつも通りの雑談配信。コメントがゆるく流れていく。
「こういうの、嫌いじゃねぇんだよな〜」
そう笑った、その時。
背後で、足音。
「……ん?」
振り返ろうとした瞬間――
強く、腕を掴まれた。
「っ!?」
想像以上の力に、体が引き寄せられる。
壁に押し付けられて、息が詰まる。
スマホが揺れて、画面がぐらぐらとブレる。
「やめろって…!」
必死に振りほどこうとするけど、びくともしない。
手首を押さえつけられて、逃げ場がない。
距離が近い。知らない気配。
「……っ」
怖い。
逃げなきゃいけないのに、体が動かない。
服を掴まれる感覚に、全身が強張る。
「や、め……っ」
呼吸が浅くなる。
視界が揺れる。
何されるか分からない恐怖で、思考が止まる。
その時――
遠くから、走る音。
そして。
「ニキ!!」
その声を聞いた瞬間。
体の力が一気に抜けた。
「……ボビー…」
かすれた声で名前を呼ぶ。
次の瞬間、強く腕を引かれる。
さっきと同じくらい強いのに、全然違う。
怖くない。
「離れろや」
低く、怒りを押さえた声。
空気が一変する。
「ニキ、こっち来い」
支えられた瞬間、足の力が抜ける。
ボビーがすぐに抱きとめる。
「大丈夫や、もうええ」
その声が近くにあるだけで、少しずつ呼吸が戻る。
「遅なってごめんな」
低く言って、しっかり支える。
ニキは無意識に、その服を掴んだ。
ぎゅっと。
「……ボビー…」
離れたくない。
その気持ちだけが、はっきりしていた。
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それから、しばらく。
部屋の中は静かだった。
「……ごめん」
ぽつりと、ニキが呟く。
ソファの端で、小さくなったまま。
「は?なんで謝んねん」
ボビーはすぐに返す。
「悪いん全部あっちやろ」
少し強めの口調。でも、その奥は心配だった。
「……こわい」
ニキの声が震える。
「さっきの、思い出すと……」
「ニキ」
ボビーがすぐ近くで言う。
「大丈夫、俺がおる」
その言葉に、少しだけ視線が上がる。
「……ボビー…」
「そうや。大丈夫やから」
背中に手が添えられる。
「無理せんでええ。俺がおったらええ」
当然みたいに言う。
「……離れんなよ」
「離れへんて」
即答だった。
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数日後。
「……ほんまに大丈夫なん?」
ボビーの部屋の前。
女子研究大学のメンバーが集まっていた。
「無理そうやったらすぐ言えよ」
ニキは小さく頷く。
ドアが開く。
「ニキニキ、大丈夫?」
その声を聞いた瞬間――
体がびくっと跳ねた。
「……っ」
一歩、近づかれる。
それだけで、体が強張る。
「来んな…!」
反射的に声が出る。
「ニキ!」
ボビーがすぐに間に入る。
「今はあかん、下がって」
メンバーたちは距離を取る。
「……ごめんね」
離れた場所からの声。
優しいのに、まだ怖い。
ニキはボビーの服を掴む。
「……ボビー」
「ここおる」
すぐ返ってくる。
その声だけで、少し安心する。
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それでも。
少しずつ、変わっていく。
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「ほな、ちょっと顔出してくるわ」
ある日、ボビーが言う。
「女研のやつら来てるし、すぐ戻る」
「……うん」
ちゃんと頷く。
送り出す。
ドアが閉まる。
静かになる。
――少しして。
外から、笑い声。
楽しそうな会話。
自然な空気。
「……いいな」
ぽつりと漏れる。
羨ましい、と思った。
「……俺も、ああいうのやりたい」
ボビーと。
同じテンションで笑って。
何でもないことで笑い合って。
「……俺といる時も、あんな風に笑ってほしい」
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ドアが開く。
「ニキ?」
ボビーが戻ってくる。
「なんや、その顔」
「……楽しかった?」
「まあ普通に話してただけやけど」
「……そっか」
少し間。
それから。
「……なあ」
「ん?」
「俺ともさ」
言葉を探す。
「……もっと話してよ」
ボビーが少し止まる。
「話してるやろ」
「そうじゃなくて」
首を振る。
「……ああいう感じで」
沈黙。
「楽しそうにしてるじゃん」
ぽつり。
「俺といる時も、あんな風に笑ってほしい」
ボビーの表情が少し変わる。
「俺といるとさ」
続ける。
「なんか、気ぃ使ってる感じする」
「は?」
低い声。
「優しいけど、なんか違う」
その瞬間。
距離が少し詰まる。
「それ、本気で言うてる?」
少し強い声。
「俺が気ぃ使ってるように見えんの?」
「……だって」
「お前とおる時が一番楽やわ」
即答だった。
「無理してるように見えたんなら、それはお前が壁作ってるからやろ」
その言葉に、胸が揺れる。
「俺ばっか見てるやん」
少し強く言う。
「お前の顔色も、ちょっとした変化も」
「それで笑えってか?」
言葉が詰まる。
それでも。
「……でも」
「俺もさ」
声が少し震える。
「ボビーと、普通に笑いたい」
まっすぐ言う。
「隣で、同じテンションで」
「一緒にバカみたいな話してさ」
小さく笑う。
「俺も、そっち行きたい」
少しの沈黙。
そして。
「ほな来いや」
短く言う。
「来たらええやん」
まっすぐ。
「無理でもええから、隣おったらええやろ」
一歩、ゆっくり近づく。
「俺がおるやろ」
その一言が、落ちる。
「引っ張ったるわ」
少しだけ柔らかく言う。
ニキは、少し迷って。
「……でも怖い」
正直に言う。
「……そらそうやろな」
あっさり返す。
否定しない。
「でもそれでええやん」
肩をすくめる。
「怖いまま来たらええ」
その言葉に、少しだけ息が抜ける。
「逃げんと、横おれ」
手を差し出される。
無理にじゃない距離。
「……」
少しだけ見つめて。
ゆっくり、その手を掴む。
「……ボビー」
「ん?」
「……ちゃんと、笑えるようになるかな」
ボビーは少しだけ笑って。
「なるやろ」
軽く言う。
「俺がおるんやし」
その言葉に。
ニキは少しだけ、笑った。
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怖さは、まだ消えない。
不安も、全部なくなったわけじゃない。
でも。
隣にこの人がいるなら。
少しずつでも。
前に進める気がした。