転送魔法が遮断され、ルティたちはグライスエンドに戻れないと思っていた。しかしどうなっているのか、ルティが地面から現れた。おれは足首を掴まれて咄嗟に雷を放ってしまい、ルティは言葉がままならない状態に。
「はへぇぇぇ……な、なじぇぇぇ~アアア、アッグハバァァ……」
「わ、悪い。まさかルティだと思わず……」
いきなりのことだったとはいえやりすぎたか?
「し、した、じたををを~」
「舌? 舌をどうするって?」
「か、かかか、感覚をを~……、アッグザバの指でえぇぇ~」
「指を入れればいいんだな? 分かった、そのまま口を開けていろよ?」
今のところ近くにはルティの姿しか見えず、シーニャたちの気配は感じられない。それよりも今のうちにルティを回復させておいた方がいいだろう。
普段ならそんなことは絶対やらないが、ルティを痺れさせた原因はおれにある。そういう後ろめたさがあるのでここは黙ってルティの言う通りにした。
「い、入れるからな?」
「ひゃひぃぃ~」
どうやら相当な痺れが残っているらしく、ルティの舌の部分に自分の指を入れてみた。彼女の舌が触れてこないところをみると、痺れはまだ続いているようだ。
「……ど、どうだ? まだ動かせないのか?」
「ほへほへ……ろうすこひれす」
「赤毛に土がかぶってるな。ルティはいつも驚かせてくれるよ、全く」
「ふふぃまへぇん~」
「無理しないで、痺れが取れるまで頷くだけでいいぞ」
土の中から出てきたせいで彼女の髪は土だらけだ。しかし着用エプロンはさほど汚れていないので、地下の空洞を通って来た可能性が高い。
「もごもご~。アッグざば~」
「――! よ、よせっ!? こ、こら!」
「アッグざばの指は、はぶらひみたいれす」
「いや、さすがに歯は磨けないぞ……く、くぅっ――」
時間が経つにつれルティの痺れが取れてきたようで、彼女の舌の上でおれの指が転がされている。何だかいけないことをしている気がするが、もう少し辛抱するしか無さそうだ。
おれの指先がとてつもなく熱くなっていて、それをルティに舐められている。意識していないが知らずに炎属性でも発動させてしまっているのだろうか。
ルティの頬が赤らんでいるが、それが原因だとしたら大変なことになる。
「んむっ……。アック様、もう大丈夫ですっっ!!」
「お、おぉ」
「はふぅぅ~。治りましたっ!」
「急に立ち上がったら危な――」
「――わたたたっ!? っととと……」
地面に座り込んだままのルティが急に立ち上がった――かと思えば案の定、バランスを崩しておれの所に倒れ込む。
「しっかりしろよ、全く……」
「あ、ありがとうございます。アック様、あのぅ……」
ルティと顔が近いまま、抱きしめて支えた姿勢になった。
非常によろしくない雰囲気に近づいているのでは?
「ル、ルティ……ど、どうし――」
「アック様。いつもありがとうございます。アック様の為に、わたしはまだまだ努力を重ねますです。ですので、アック様と誓いを立てたいです」
「いや、おれの方こそお礼というか謝罪を……」
「いいえ、ルティシア・テクスはアック様に全てを委ねました。これから生涯に懸けて、ずっとずっとお傍で尽くします!」
いつものルティならここまで改まらないのに急にどうしたのだろうか。
まさかと思うが、無意識に何か授けてしまったとかじゃないよな?
「全てを委ねた……? まさかと思うが、ルティの舌に何かやらかしたか?」
「炎の印をくださりました」
「えぇっ!? 炎の印って、アグニの印だよな?」
「はい~! これでアック様とは一心同体のようなもので、とても嬉しいですっっ!!」
「は、ははは……そ、そうか~」
そんなつもりは無かったが、ルティは炎に長けているし間違ってはいないかもしれない。
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