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君の彼氏に俺はなりたい







黒白︎︎ ♀











※下ネタ有り












黒視点








セフレ、と世間で呼ばれるであろう存在の人が、当時の俺にはいた。




最初から、そういう人に話せない関係だったわけじゃなかった。




もともとは高校のクラスメート。




同じクラスの奴らから「お前らほんとに仲良いよな」「付き合ってんのかよ」ってよくイジられるくらいには仲がよくて、ときにはからかいに近い表現をされることもあったけど、そんなことは笑って流せた。




だって、誓ってふたりの間には色恋沙汰なんてなくて、ただ誰よりも気の許せる友人だったから。




その仲のよさは高校を卒業しても続いた。




大学に入っても、月に二、三度はふたりでサシで飲みに行くくらいには。




「初兎もう顔赤くなってるやん」




「うちは顔に出るだけぇ。

ゆうくんよりは強いから!」




「口だけは昔から達者なんよなw 」




そんな軽口を、何度も酒で胃に流して込んできた。




今思い返しても、彼女と飲む酒はとびきりうまかったように思う。










彼女とサシ飲み。




定期的に行われる飲み会。




その飲み会のうちの1回、たった1回だけど、雰囲気に流されて彼女とワンナイトをしてしまったことがあった。




泥酔してたから、と酒のせいにしてしまえば簡単だったけど、まあお互いに満更でもなかったからというのが結論になるんだと思う。




色恋までには至らないけど、お互いに拒むほどじゃない。




そういう雰囲気になって身体を押し留められるほどの理性が当時の自分たちにはなくて、彼女もそこまで嫌じゃなかった。




ただそれだけのこと。




おそらく普通の男女ならそのままなんとなくわだかまりができるんだろう。




あんなにも仲がよかったのに、気づけば距離ができて、会わなくなって、疎遠になって。




なんてことには俺たちはならなかった。




なんせ、高校から続くなんでも話せる貴重な友達なわけで。




1回のセックスで疎遠になるだなんてお互いに望んでいたことじゃないだろうし、少なくとも俺はそうだった。




ワンナイトする前の関係に完璧に戻るのは無理でも、せめてルールを作ってこれからも会うのはどう?なんて、行為後のベッドの上であぐらをかいて話し合った。




なんて色気のないピロートークだろう、と思った。




それはそれで修学旅行の夜みたいで、これから過ごす彼女との時間に内心気分が浮ついたのを覚えている。




まず、ルールのひとつ目は、どちらかに恋人ができたらこの曖昧な関係はやめることだった。




彼女いわく、「恋人がいるのにセフレを作るような奴が1番嫌い」とのことで、まあ、彼女ならそう言うだろうなと疑問は持たなかった。




彼女は高校の頃から曲がったことが嫌いで、浮気された友達の相談に乗って、自分のことのように怒ってくれるような、優しくて、それでいて芯の強い子だった。




そして、ルールのふたつ目が、お互いに好意を持たないこと、だった。




「好きになったら、これまでみたいに気軽に話せる関係じゃなくなっちゃうでしょ?」




おお、確かに。




彼女の提案が妙に腑に落ちた。




もし俺が彼女のことを好きになったら、かなり気まずい感じになると思う。




それこそ、高校の頃のような心地よい空気感は消えてしまうに違いない。




ふかふかの枕の上で頬杖をつきながら、

「うちのこと好きにならんといてよ?」とおどける彼女に、俺は「努力はする」とだけ答えた。




彼女の横顔は、なんだかいつもより楽しそうに見えた。











ワンナイトの後、僕たちは今まで以上の回数で顔を合わせるようになった。




そもそも、お互いに友達としての相性はかなりよかったのだ。




それに加えて身体の関係を持つようになり、そちらの相性もまた悪くないとなれば、自ずと一緒にいる時間が増えていくのは自然なことだった。








「こういうことよくするん?」



なんとなく気になって、それとなく彼女に聞いたことがあった。



こういうこと、というのはセックス、セフレ、ワンナイト、その辺りの曖昧な部分を漠然と聞いたつもりだった。



「えー言わなあかん?

……アプリとかですることはあるけど、」



目を合わせずに、彼女はぽつりと呟いた。



ふーん、そういうもんか、と気のない返事をしてから、彼女が他の男に抱かれる姿を想像してみた。



高校の頃から知っている彼女の生真面目さ、快活さ。



その印象からどうにも彼女が俺以外に身体を許すのが想像できなくて、だくん、と異様に胃の奥が脈打つ感じがして、それ以上は考えるのをやめた。






彼女の他の男の存在について妄想を巡らす以外、彼女と一緒に過ごすことは、これ以上ないくらい居心地がよくて、安心感があった。



暇(というか、文系の学生なんて講義以外やることがない)な日は、引かれても仕方がないくらい常に一緒にいた。



他人とこんなに長い時間を積み重ねても不快じゃないんだ、というのは自分にとって新しい発見だった。



朝はバターのいい匂いで目が覚める。



濃い茶色に焼けたトーストを大きく口に頬張りながら、なんとなく点けたテレビにはNetflixのおすすめされた映画が自動で流れる。



苦手なくせにいつも見ているからか、時間には見合わないホラーばかりが表示される。



食べ終われば皿も片付けずにそのままベッドに再度ダイブして、流し見ていた映画が見終われば、どちらからともなく身体へ触れる。



行為が終わり、ふと眠気に襲われてどちらからともなく昼寝をしたら、カーテンの隙間から優しい夕日が差し込んでいる。



ごそごそと、彼女が台所の戸棚の奥に眠っていたたこやき器を取り出してくる。



よし来た、と近くのスーパーで具材を調達する。



刻み海苔を買うかどうかで軽く揉める。



結局買ってから帰路につき、何でもない日に唐突にたこやきパーティが始まる。



当たり前のように冷蔵庫からストロング缶を取り出して、打ちつけ合う。



いい感じに酔えば、ふたりで最近あったどうでもいい話をここぞとばかりに消費する。



「この前ゼミで初めて飲み会あったんやけど、びっくりするほど面白くなかってん。」




「なにがそんなに面白くなかったん?」




「だってさ、初対面で面白くもない下ネタ身内ネタ言ってくるんやで?普通になくない?」




「あーそういう男おるよなぁ、そういうやつに限って童貞なんよなw」




「そう!ほんとにそんな感じやった!でもゆうくんも最近まで童貞やったやん?」




「それは言わへん約束やろ?」



___そしてまたセックス。



ただそれだけ。



それだけだけど、一緒にいることをお互いに疑うことはなく、日々もまた過ぎた。






ふと、これって彼女やん、と思った。



きっかけはないけど、何をしていても楽しくて、一緒にいて気が休まって、何でも愚痴でも話せて、逆になんで付き合ってないんだろう、俺たちは。



今の関係の方が、不純やないか。



高校の友達に、当時からかわれた言葉を思い出す。



そうだ、「お前ら付き合ってんのかよ」。



確かにそう言われたんだ。



そう言われるくらい、あの頃から俺たちは仲が良かった。



今になっては、あのからかいの言葉さえ誇りにすら思えた。



俺と彼女なら付き合ってもうまくいく。



恋人という特別な関係になっても今までと変わらないでいられる。



そんな自信があった。



問題はもう、いつ彼女にこの気持ちを伝えるか。



ただそれだけだった。





結論からすると、彼女に振られることはなかった。



ただ、俺の気持ちが彼女に伝わることも、なかった。






カーテン越しに雪が降ってるのが分かるくらいシンと静まる朝だった。



俺の両腕にすっぽりと収まりながら、顔を背けて、彼女はしぼり出すように口を開く。



「あのさ、うち彼氏できたから」



嫌なくらい静まり返った朝、時間が止まったような気がした。



止まった時間を無理やり動かすかのように、だからもうこれからは会えへん、ずっと伝えられへんくてごめん、そう彼女は言葉を続けた。



いつも話すときは顔を覗き込んでくるくらいなのに、全く目を合わせてくれなかった。



そのくせ、俺の腕の中から出ようとはしなかった。



まるで最後の時間を慈しむように、30分か、いやもっと長い時間だったかもしれない、俺たちはベッドの上で過ごした。



頭の中はぐちゃぐちゃで、別れ際、何を話したのか、何を伝えたのかはよく覚えていない。



少なくとも、好きだとは伝えられていない。



それから、彼女とは距離を置いた。



ルールのひとつ目は、「どちらかに恋人ができたら別れる」だったから、あの日した約束の通りに、俺たちは離れた。



彼女に、いい感じの人がいるだなんて全く気付けなかった。



彼女がマッチングアプリをしていたとしても、一番仲がよくて、彼女の隣にいるべきなのは、自分だと思っていた。



これだけ一緒にいて、高校の頃から一番の仲だなんて自負しておきながら、その存在に気付くことさえできなかった。



俺とセックスをしながら、腕に抱かれながら、唇を重ねながら、髪の毛を撫でられながら、ずっと想っている人が別にいたのだろうか。



君はそんな人だっただろうか。



好きな人がいながら、他の男に抱かれるような人だったのだろうか。



「彼氏ができた」と言いながら、他の男の両腕に包まれるような人だったんだろうか。






その後すぐに嵐のような就活の時期が来て、忙しさと共に君との時間も色褪せて、それぞれまた新しい人間関係ができて、気付けば物理的にも会えない距離に君が就職してしまったと、風の噂で聞いた。



彼女は元気にしているだろうか。



例の彼氏と上手くやっているのだろうか。



あの爛れたようでいて何よりも澄んでいた時期は、紛れもなく俺の青春だった。



願わくはまたいつかどこかで会えたら、仲のいい同級生でもなくて、親友なんかじゃなくて、セフレなんかでもなくて、君の彼氏に、俺はなりたい。















君の彼氏に俺はなりたい

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𝑒𝑛𝑑






























‎白ちゃん視点も書きます!

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コメント

7

ユーザー
ユーザー

白ちゃん視点が楽しみすぎるー!! 最近このお話が頭でリピートしまくってるw

ユーザー

白ちゃんの彼氏に立候補!

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