テラーノベル
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そのシェアハウスは、町の外れに建っていた。
二階建ての建物には、六人の若者が暮らしている。一階には広いリビングとキッチン、風呂、トイレ。裏手には小さな庭があり、その隣には車庫もあった。
二階には六人分の個室と、防音室がひとつ。
防音室の中では、今日も練習が行われていた。
「春とピラミッド~、恋する採掘~♪」
カキがエレキギターをかき鳴らしながら歌う。声は元気だが、音程は最初の一音から迷子になっていた。
隣では、ピラミッドの被り物をしたミステーがギターを弾いている。
「春とピラミッド~、花粉の神殿~♪」
「ミステーちゃん、歌詞が増えてる!」
「神殿には、必ず物語がある」
「音程も物語も自由すぎるよ!」
メバルがアコースティックギターを抱えたまま、二人にツッコんだ。
ドラムの前では、K-Tが無言でリズムを刻んでいる。防弾チョッキの上から黒いシャツを着ており、短い黒髪の隙間から紫色の瞳だけが静かに光っていた。
カキとミステーの歌がどれだけ外れても、K-Tのドラムだけは一定だった。
「Kさん、二人の歌、気にならないの?」
「問題ない」
「いや、問題あるよ!」
メバルが叫ぶと、K-Tは何事もなかったようにスティックを動かし続けた。
部屋の隅では、アオノがキーボードの配線を確認していた。複数のケーブルを一本ずつ抜き差しし、画面に表示された数値を見ている。
その隣に、レイカが腰を下ろしていた。
「アオノは昔から、機械を触ると急に無口になるよね」
「普段から無口だ」
「そういうところだよ」
レイカが笑う。
アオノは返事をしなかったが、口元がほんの少しだけ緩んだ。
その様子を、メバルは少し離れた場所から見ていた。
レイカとアオノは幼なじみだ。二人にとっては自然な距離でも、他の人間から見ると、ずいぶん近い。
レイカはアオノの肩越しに画面を覗き込み、アオノはそれを避けようともしない。
メバルの視線に気づいたのか、K-Tが一度だけこちらを見た。
「メバル」
「なに、Kさん?」
「ギター」
「え?」
「止まっている」
「あっ」
メバルの指は、弦の上で止まっていた。
「もう、Kさんは変なところだけよく見てるんだから」
「見ている」
「そこは否定しないんだ……」
練習が終わったのは、夜の十時を過ぎた頃だった。
カキは腹を空かせ、マサカゲに夕食の残りを要求していた。
「マサカゲちゃん、冷蔵庫にプリンなかったか?」
「昨日、カキが食べただろ」
「俺が? 記憶にない!」
「容器を洗わずに置いたのもカキだ」
「それは俺じゃない。鉱石の精霊だ」
「精霊に罪を着せるな!」
メバルがキッチンから声を飛ばす。
ミステーは冷蔵庫の前で、空になったプリンの容器をじっと見つめていた。
「この容器には、甘かった過去がある」
「捨てて!」
アオノは食事にも参加せず、キーボードの調整データを確認していた。レイカはその横で、昔の練習の話をしている。
「昔、アオノが作った音源、全部機械音だけだったよね」
「仕様だ」
「歌の伴奏を頼んだのに、途中から電子音の実験になった」
「その方が検証しやすかった」
「私たちは検証対象だったんだ」
レイカが楽しそうに笑う。
アオノも、わずかに目を細めた。
メバルはその様子を見ながら、手にしたコップを洗った。
胸の奥に、理由のわからない小さな引っかかりがあった。
嫉妬、と呼ぶにはまだ弱い。
けれど、レイカとアオノが昔から積み重ねてきた時間に、自分は入れない。その事実が、少しだけ寂しかった。
深夜。
家の中が静かになったあと、アオノは自分の個室へ戻った。
机の上には、見覚えのない白い封筒が置かれていた。
差出人の名前はない。
アオノは封筒を裏返し、表面を眺めた。紙は普通のものだが、折り目が一度もついていない。誰かが丁寧に置いたらしい。
中の便箋には、短い文章が書かれていた。
『今日もレイカさんと楽しそうに話していましたね』
アオノはしばらく文字を見つめた。
「……誰だ」
独り言を言いながら、アオノは便箋を机の端へ置いた。
内容に怒りや恐怖を覚えたわけではない。ただ、文章の意味を考えていた。
レイカと話していたことを知っている人物。つまり、防音室にいた誰かか、食事の場にいた誰か。
アオノは部屋の監視カメラを確認しようとしたが、すぐにやめた。
「明日でいい」
機械の不具合ではない。急ぐ必要はなかった。
その頃、廊下の端では、誰かの足音が止まっていた。
足音の主は、アオノの部屋の前に立っている。
しかし、扉の向こうから聞こえたのは、椅子を引く音と、机の引き出しを閉じる音だけだった。
しばらくして、足音は消えた。
アオノは何も知らず、電気を消した。
白い便箋だけが、月明かりの中に残されていた。
K-Takasaka
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#K-T
#スクラッチャーズ
#異世界転生
コメント
1件
第1話お疲れ様です!六人のキャラクターが一気に立ち上がってて、それぞれの個性が伝わる導入になってるのがいいですね。カキとミステーの自由な歌にメバルがツッコむやりとりとか、無口なK-Tやアオノの存在感もちゃんとあるし、アオノとレイカの距離感にメバルが感じる微妙な寂しさとか……日常パートだけで十分に世界観が広がる。そこへ最後の白い封筒、めっちゃ不穏で続きが気になります!この先どうなるんだろう。