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かくよ
文化祭前日。
放課後の校舎はいつも以上に騒がしかった。
廊下には段ボールや飾り付けが並び、生徒たちは慌ただしく行き来している。
そんな中、僕――湊は写真部の展示準備をしていた。
「先輩!」
聞き慣れた声。
振り返ると蓮が大きなパネルを抱えて立っていた。
「これどこに置けばいいですか?」
「そこ、窓際かな」
「了解です!」
元気よく返事をして走っていく。
相変わらず人懐っこい。
初めて会った頃より距離も近くなった気がする。
「湊」
今度は別の声。
振り返ると悠真がいた。
サッカー部の練習帰りらしく、首にタオルをかけている。
「見に来た」
「まだ準備中だけど」
「別にいい」
そう言って展示写真を眺め始める。
悠真は写真に詳しいわけじゃない。
でもなぜか、僕の撮った写真はよく見てくれる。
「これ好き」
一枚の写真を指差した。
夕焼けのグラウンド。
サッカー部の練習風景。
もちろんモデルは悠真だ。
「これか」
「うん」
悠真は少し照れくさそうに笑った。
「なんか俺じゃないみたい」
「ちゃんと悠真だよ」
「そうか?」
「うん」
僕が答えると、悠真は少しだけ嬉しそうだった。
その時。
「先輩ー!」
蓮が戻ってきた。
そして当然のように僕の隣に立つ。
「全部終わりました!」
「ありがとう」
「先輩の写真、絶対人気出ますよ!」
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蓮が笑う。
悠真の眉が少し動いた。
「……随分詳しいな」
「毎日見てますから!」
「毎日?」
「はい!」
蓮は悪気なく答える。
悠真の表情がさらに微妙になる。
僕は嫌な予感がした。
「へえ」
「?」
「湊のこと好きなんだな」
ぶふっ。
思わず飲んでいたお茶を吹きそうになった。
「ゆ、悠真!?」
蓮は一瞬固まった。
そして。
「好きですよ?」
さらっと答えた。
僕の心臓が止まりかけた。
「え?」
「尊敬してますし!」
「ああ」
悠真が少しだけ安心した顔をする。
その反応に今度は蓮が気づいた。
「あれ?」
にやり。
嫌な笑み。
とても嫌な笑み。
「もしかして悠真先輩、焦りました?」
「は?」
「焦りました?」
「焦ってない」
「焦りましたね」
「焦ってない」
「顔赤いですよ」
「赤くない」
完全に遊ばれていた。
僕は頭を抱えた。
どうしてこうなるんだ。
◇
展示準備が終わった頃には、外はすっかり暗くなっていた。
窓の向こうには夜の校庭。
文化祭前夜特有の静けさが広がっている。
生徒たちもほとんど帰ってしまった。
僕が最後の写真を確認していると。
「先輩」
蓮が隣に立った。
珍しく静かな声だった。
「ん?」
「明日、楽しみですね」
「そうだね」
「先輩の写真、みんなに見てもらえます」
蓮は展示を見つめる。
そして少しだけ笑った。
「俺、先輩の写真好きなんです」
「ありがとう」
「でも」
蓮がこちらを見る。
「負ける気はないです」
その目は真っ直ぐだった。
後輩の顔じゃない。
同じ写真を撮る人間の目。
ライバルの目。
僕は少し笑った。
「僕も負けないよ」
「ですよね」
蓮も笑う。
その瞬間。
「何してる」
また声がした。
振り返ると悠真だった。
なぜまだいるんだ。
「悠真?」
「帰るぞ」
「え?」
「遅い」
「いや、まだ片付けが――」
「終わってる」
確かに終わっていた。
悠真は当然のように僕の荷物を持つ。
蓮が不満そうな顔をした。
「先輩は俺が送ります」
「俺が送る」
「俺です」
「俺」
二人とも譲らない。
なんなんだ。
僕は深いため息をついた。
文化祭前夜。
展示の準備は終わった。
だけど。
僕の周りだけは、どうやらまだ騒がしいままらしい。
コメント
3件
文化祭前夜の準備、いいですね。湊くんを巡る蓮くんと悠真くんの空気感が絶妙でした。「負ける気はないです」の蓮くんの目、あのライバル心と好意が混ざった真っすぐな視線が印象的。最後の「俺が送る」押し問合せは思わず苦笑い。騒がしいくらいが湊くんにはぴったりだなって思いました。明日の本番、読んでる私も楽しみです🍀