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夜の舞踏会──というより、わたしにとっては「第1ルート分岐イベント」。
中央のホールは、煌びやかなシャンデリアに照らされている。
貴族たちが行き交うその隙間を、私は意図的に王子の隣へ近づいていく。
(好感度は十分。謁見での第一印象も良好。ここで“あの女”と鉢合わせすれば、イベント発生条件は完璧)
そして現れた、真紅のドレスを着た少女。
黒髪、涼しげな眼差し、完璧に整った立ち居振る舞い。
──クロエ・オルディア。
シナリオ通りの登場。
(ふふ、こっちから絡んであげる)
わたしは軽く会釈して、にっこりと笑いかける。
「まぁ、オルディア様。素敵なお召し物ですね」
一見、聖女らしい褒め言葉。
でも、そのまま続ける。
「……まるでこの場の主役みたい」
瞬間、周囲の空気がぴりりと張り詰めた。
クロエがわずかに目を細めたのを、見逃さない。
(はい、これで第一衝突イベント、発生確定)
“あの女”の反応を、わたしは知っている。
ここで耐えれば、王子の好感度が上がる。
感情を露わにすれば、“嫉妬深い令嬢”として噂が立つ。
つまり、どっちに転んでも、わたしの勝ち。
「……あなたこそ、お似合いですわ」
クロエが丁寧に返す。
(ああ、可愛いな。知らないんだ、これがもうゲームだってこと)
わたしは、ひとつひとつのフラグを回収していく。
この世界のすべてを知っている“プレイヤー”として。
……もう、動き始めた。
わたしの“完璧な断罪ルート”が。