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アディと夜に添い寝をするようになってからの日々、エメラは記憶がハッキリしない夜がある。
「ねぇ、エメ姉……」
目の前にはアディの金の瞳と、白く逞しい素肌。その美しさに見とれていると、ふいに口を塞がれて声が出せなくなる。
やっと呼吸ができるようになっても、熱に浮かされたように意識が遠くなっていく。
自分とアディが、どこかで寝ているのは分かるのだが、記憶が曖昧で状況が理解できない。
「見てよ、あいつの顔。いい気味だよね」
アディが視線を横に向けたので、エメラもその視線の先の方へと少し首を動かす。その時ようやく、ここがベッドの上である事を思い出した。
そして、その視線の先には、手首を縛られて壁にもたれかかり、こちらを凝視している青年の姿が見えた。
(え……!? クルスさん!?)
だが、なぜかエメラは声を上げられない。その間にもアディは一糸纏わないエメラの身体を侵食し続けていく。……クルスの目の前で。
「ふふ……クルスくん。ほら、しっかり見て。絶望に落ちるがいいよ」
(アディ様、なんでクルスさんに、こんな仕打ちを……)
こんな事をしなくても、貴方を愛していますと、そう伝えたいのに。
なんとか両手でアディの肌に触れるが、押し返す力が出ない。エメラの仕草は、まるで彼の身体を愛でているような行為にも見えてしまう。
抗う術なくアディの背徳な行いを全て受け入れる事しかできない。
「あ、アディ様……」
ようやく出せた声は、背徳な愛を注ぎ続ける彼の名前だけだった。
「はやく身籠りなよ。エメ姉」
その時、エメラは目を覚ました。
目の前には、あどけない寝顔の愛しい王子が寄り添っている。先ほどと同一人物とは思えない。
(また、夢……でしたの?)
全てが夢だったのか、どこまでが現実なのか分からない。そんな虚ろな朝の日々が続いている。
添い寝のはずが少し寒く感じるのは、服を着ていないから……そこは夢と同じ。衣服は纏わずとも、婚約ペンダントの青い宝石が素肌の上で存在感を際立たせている。
少し首を動かして壁際を見るが、拘束されたクルスの姿はない。やはり夢だったのだと、息を吐いて安堵する。
起き上がろうとして少し動いたが、すぐに後ろからアディがその腰に両腕を絡めて抱きついてきた。
「エメ姉……行かないでよ」
甘えるような声で引き止めてくるアディの方を振り向く。彼は上半身に何も纏っていない。
ベッドの上に座っているエメラの後ろから、アディが密着して抱きしめる。
エメラの腰を捕らえていた両手は、いつの間にか下腹部に触れていた。そして大切なものを扱うような手つきで優しく撫で回す。
「……っ」
その愛撫に反応してエメラの身体が震える。アディは何度もエメラの腹部を確認するように触れながら、耳に唇を近付けて囁く。
「うーん……まだ感じないや」
アディが確かめようとしているもの、それは……命の息吹。
もしエメラが胎内に命を宿せば、魔力の反応で感じ取る事ができる。……アディの血と魔力を受け継いだ、確かな生命反応を。
「でも安心してよ。もうすぐだから」
アディは片手でエメラの顎に触れると、自分の方へと向かせる。
そのまま深く唇を重ねて熱を共有させる。まるで花の甘い蜜を吸いながら味わうように。
目を閉じて受け入れるエメラの意識は、再び甘美な闇へと落とされていく。
「はやく身籠りなよ。エメ姉」
それは、夢と同じ言葉だった。
そんな朝を過ぎれば、いつもの日常が訪れる。
執務室のデスクに着席するなり、アディは腕を組んで何かを考え出した。
「思ったんだけどさ。仕事もいいけど、魔法の勉強もしたいな」
デスクの側に控えていた側近のエメラとクルスは、何事かと黙って見守る。
「という訳でさ、エメ姉。魔獣王として学ぶのに相応しい魔法書を持ってきてよ」
魔法書とは、魔法の使い方が書かれている本である。
アディは魔界の高校を卒業して基本的な魔法は使えるが、王のみが扱える高度な魔法は習得していない。本来は魔法を学んでから王に就くべきで、順序としては逆である。
しかしエメラは感激して、胸の前で両手を合わせて瞳を輝かせた。
「まぁ! 自ら進んでお勉強をなさるなんて偉いですわ、アディ様!」
寝起きの時の憂鬱はどこへ飛んだのか、テンションの差が激しい。さすがのクルスも少し引いている。
今のエメラは婚約者ではなく、アディを幼い頃から見守り続けてきた親心の目をしている。
それに側近としても、いずれ正式な王となるアディが自覚を持って勉学に励もうとする姿勢が嬉しい。
これは気が変わらないうちに背中を押すべきだろう。
正直言えば、アディはまだ魔獣王を名乗らずに勉強に専念してほしい。仕事なら今まで通りエメラが全て引き受ける。その方が魔獣界は安泰だろう。
「それではさっそく、図書館へ行って魔法書を選んできますわね!」
アディは、チラっと横目でクルスを見た。
「あ、エメ姉。クルスくんも一緒に連れて行って、図書館を案内してあげなよ」
「はい、承知致しましたわ」
まだ側近となって日が浅いクルスは図書館に行った事がない。日々、何かとエメラに城内を案内してもらいながら、側近としての仕事をこなしている。
エメラとクルスが執務室を出て、並んで城の長い廊下を歩いていく。
エメラは、すっかりクルスを警戒する事を忘れている。普通に城で仕事をしている分には、クルスは至って問題はない。本性を出していないだけだと知ってはいるが。
今もクルスは純粋な瞳を輝かせてエメラを見ている。エメラと一緒に歩いているだけでも嬉しいのだ。
「図書館って、どこにあるんですか?」
「城内にありますわ」
「あ、なんだ、そうなんですか……」
なぜかクルスはがっかりと声を落とした。エメラと二人きりで外出するチャンスとでも思ったのだろう。