テラーノベル
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世間のお盆休みも終わり、街が再びいつもの慌ただしさを取り戻すのと入れ替わる様に、正源は逆に以前よりは多少ヒマになった。
寺の名義の預金通帳の残高がまた心細くなり始めた頃を見計らったかのように、八月も終わろうとする頃、その電話はかかってきた。
声の感じから、四十代ぐらいの知的そうな男性かな、と正源は思った。その相手は、流暢な口調で言った。
「そちらのお寺では、廃棄処分になるロボットの供養をして下さると聞いたのですが。世田谷の方までご足労いただく事はできますでしょうか?」
「お受けするかどうかは場合によりますが、確かに拙僧がロボットの供養を承った事はございます。もし差し支えなければ、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
「はあ。供養していただきたいのは子守り型のロボットなのですよ。四年前に発売された北欧製の。ご存じでしょうか?」
「はい。そういう事なら検討はつきます」
ロボットの供養の問い合わせが舞い込むようになって以来、正源は今まで日本で発売されたアンドロイド型ロボットの事を多少は勉強していた。
相手の男は、まるで企業の商談のように、なんの気負いもなく続けて言った。
「ご住職さん。お布施の方なんですが……」
その金額を聞いた瞬間、正源は思わず「えっ!」と大声を上げそうになった。あわててもう片方の手で自分の口を覆い、一度深呼吸をして、さらに軽く一回咳払いをし、それからはやる心臓の鼓動を相手に悟られまいと、ゆっくり固定電話の送話口に向けて言った。
「はい、充分でございます。それで日取りは……はい、はい。ああ、大丈夫です。都合はつきます。お宅へ直接お伺いするという事で……承知いたしました。はい、はい、それでは。失礼」
電話を切った後、正源はたっぷり数分間、その場に立ち尽くしていた。ぶるっと頭を横に振り、思わずつぶやいた。
「壊れたロボットの供養にそんな大金を出すとはね。時代が変わったと言うべきか、世の中が変わったと言うべきか……」
月が変わって九月の第一日曜日、正源は電車で最寄駅まで行き、そこでタクシーを拾った。
今回の依頼主からは、道が分かりにくいだろうからタクシーで来た方がよいと言われていたからだ。
乗り場でタクシーに乗り込むと、運転手はサイドミラー越しに正源の袈裟姿を見て、あからさまに面倒そうな顔をし、不愛想に訊いた。
「どちらまで?」
正源は依頼主から聞いていた住所の書かれたメモ用紙を、透明なプラスチック板の隙間から運転手に渡し、そこまで行ってほしいと告げた。
運転手はカーナビに番地を入力し、画面に位置が表示されると一瞬はっと息を呑んだ。メモ用紙を正源に返す時、運転手の顔は別人のようににこやかな笑みを浮かべていた。
「はい、かしこまりました」
口調までさっきとはガラッと変わっていた。正源は今回の依頼主が、この近辺では有名な金持ちか名家なのだろうと察した。タクシーは駅を離れ、十分ほどで住宅街に入って行った。
高層マンション群から離れたその場所には、東京には珍しく、一戸建ての住宅がずらりと並んでいた。正源の寺の近くにも、一戸建ては多い。だが、いまどきトタン張りの外壁がある下町の一戸建てとはわけが違うのは、一目で分かった。
どの家も敷地がとんでもなく広く、高い塀に囲まれ、洒落た形の金属の飾りがあちこちについていた。そしてそれぞれの家の玄関口に、防犯カメラがこれ見よがしに設置してある。
いわゆる高級住宅街というやつだな、と車中で正源は思った。
コメント
1件
あー、このエピソードめっちゃ好きだわ。ロボットの供養っていう新しいテーマに、寺の経済事情が絡んでくるのがリアルでいい。正源が電話で大金聞いて「えっ!」ってなりかけるとことか、タクシーの運転手が住所見た瞬間に態度一変させる描写とか、細かい人間くささが光ってた。高級住宅街の描写も、ちゃんと「下町の一戸建てとはわけが違う」って正源の視点で語らせてて、世界観がしっかりしてる。続き気になる!