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「もっと早くに言うべきだったのに、なかなか言うことができなくて、君には辛い思いをさせただろう?」
低く抑え気味なトーンで気づかうように語りかけられて、黙って首を振った。
「……言えなかったんだ。前にも、私は意外と臆病なのかもしれないと話したと思うが、いざ君に気持ちを打ち明けようとしても、不安ばかりが先走って言い出せなかった。
……私は、妻を亡くしてから、誰かを好きになるようなことができないでいた。恋愛を諦めたわけでもないと言いながら、またもし思いを寄せた相手を失うことになればと、恐れて踏み出すようなこともしなかった。
だが、失うのを恐れる気持ちは、その人を何より愛おしいと思っていることに気づかされたんだ……。だから、もう逃げずに想いを告げなければならないと、君へ……」
涙が止めどなく流れて、一言も声には出せなかった。
黙ったままで、何度も頷くことしかできないでいる私の頬を、温かな両方の手の平で包み込むと、
「私は、君を、失いたくはない」
彼が口にして、そっと口づけた──。