テラーノベル
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静かな雨が降る日の午後、図書室の片隅にある閲覧席で、LANといるまは向かい合って座っていた。
定期試験を間近に控え、勉強が苦手なLANのために、いるまがノートを広げて勉強を教えている。しかし、LANの視線は教科書ではなく、先ほどからずっと、真剣な表情でシャーペンを動かしているいるまの横顔に注がれていた。
「……おい、LAN。ここ、さっきも間違えただろ」
いるまが呆れたようにため息をつき、トントンと人差し指でノートを叩く。眼鏡の奥の鋭い瞳がLANを捉えた。
「あー……ごめん。ちょっと集中切れてさ」
LANは苦笑いしながら、わざとらしく背伸びをした。
本当は、集中が切れたわけではない。ただ、普段はぶっきらぼうで容赦ないいるまが、自分のために時間を割いて、こんなに近くにいてくれるという事実に、胸の奥がずっと甘く痺れているだけだった。
「お前なぁ、赤点取ったら補習で次の休み潰れるんだぞ。分かってんのか?」
「分かってるって。……じゃあさ、いるま。もし俺が次のテストで平均点以上取れたら、ご褒美ちょうだい」
からかうような口調で、LANは少しだけ身を乗り出した。
いつもなら「は? 起きてから言え」と一蹴されるか、小突かれるかのどちらかだ。
しかし、いるまはペンを止めると、じっとLANの目を見つめ返してきた。
静まり返った図書室に、窓を叩く雨の音だけが小さく響いている。
「……いいよ」
低く、どこか湿り気を帯びた声だった。
「え、マジ?」
「嘘は言わない。平均点、絶対超えろよ。そしたら……お前のしたいこと、何でもさせてやる」
いるまの耳の先端が、ほんのりと赤く染まっているのを、LANは見逃さなかった。
いつも冷静な彼が見せた、明らかな動揺と、拒まないという合図。
LANの心臓が、ドクンと大きく跳ね上がる。先ほどまでの余裕の笑みは消え、代わりに熱い独占欲が視線に混ざった。
「……何でも、いいんだな?」
声を潜め、今度は本気のトーンで問いかける。
いるまは小さく視線を外しながらも、逃げることなく、コクンと一度だけ首を縦に振った。
残された時間は、テストまであと3日。
LANの瞳の奥に、いつもとは違う真剣な炎が灯った。
あれから、LANといるまの放課後テスト対策は、毎日の日課になった。
場所は図書室だけでなく、時にはファミレス、時にはどちらかの部屋。
「おいLAN、そこプラスとマイナス逆」「あ、またやっちゃった……」
いるまの厳しい指導にへこたれそうになりながらも、LANは必死に机に向かった。すべては、あの雨の日に交わした「何でもさせてやる」という約束を果たすためだ。毎日ヘトヘトになるまでペンを握るLANの姿に、いるまも呆れつつ、どこか愛おしそうな視線を注いでいた。
そして迎えた、テスト当日。
「……よし」
問題用紙を開いた瞬間、LANは心の中で小さくガッツポーズをした。昨日、いるまに叩き込まれた数式がそのまま目の前にある。いるまの熱心な教えを無駄にしたくないという思いと、彼への強い独占欲が、LANの集中力を極限まで高めていた。
数日後、ついに結果が返ってくる日がやってきた。
廊下の張り出しで平均点を確認したLANは、自分の解答用紙を握りしめ、放課後の誰もいない教室へと駆け込んだ。窓際で夕日に照らされながら待っていたいるまが、ゆっくりと振り返る。
「……どうだった?」
いるまの声は少し緊張で硬い。LANは無言のまま、自分の点数が書かれた紙を差し出した。
そこには、平均点を大きく15点も上回る数字が、真っ赤なペンで刻まれていた。
「やったな、LAN」
いるまがホッとしたように、柔らかく目を細めて微笑む。
「うん。約束、覚えてるよね?」
LANが一歩踏み込み、いるまの机に両手を突いて顔を近づけた。夕方の教室が一気に狭く、熱く感じられる。
いるまの端正な顔が、夕日のせいだけではない赤さに染まっていく。
「……あぁ。何でも、好きにしろよ」
覚悟を決めたように視線を逸らすいるまの腕を、LANは引き寄せるように強く掴んだ。
LANは、掴んだいるまの腕をそっと引き寄せ、そのまま彼の細い身体を包み込むように強く抱きしめた。
「え……? LAN……?」
もっと強引なことをされると身構えていたいるまは、予想外の優しい抱擁に驚き、目を見開く。
LANはいるまの肩口に顔を埋めたまま、深く息を吐いた。トントンと、いるまの背中でLANの心臓が激しく脈打っているのが伝わってくる。
「……こうしてみたかった。ずっと、いるまの匂いを近くで感じたかったんだ」
耳元で囁かれた低く甘い声に、いるまの体温が跳ね上がる。
毎日必死に勉強を頑張っていたLANの、一番の原動力。それが、ただ自分に触れたいという、あまりにも純粋で真っ直ぐな想いだったことに気づかされ、いるまの胸が締め付けられるように愛おしさで満たされていく。
「お前……そんなことのために、あんなに死に物狂いで勉強したのかよ」
「そんなことじゃない。俺にとっては、何よりも大事なこと」
LANは少しだけ身体を離すと、いるまの頬を両手で優しく包み込み、じっとその瞳を見つめた。
夕日に照らされたいるまの瞳が、潤んで揺れている。
「いるま、大好きだよ。頑張ったから……褒めて」
子供のように甘えるLANの濡れた視線に、いるまはもう降伏するしかなかった。
ため息混じりにふっと微笑むと、いるまは自らLANの首に腕を回し、その耳元にそっと唇を寄せた。
「……よく頑張ったな。合格」
#タイムスリップ
紫桜。@低浮上
417
1,770
たこ焼き
67
小さく囁いた後、いるまは真っ赤になった顔を隠すように、今度は自分からLANの胸にぎゅっと顔を埋めた。
誰もいない放課後の教室で、ふたりの幸せな鼓動だけが、静かに重なり合っていた。
その日LANの家で泊まることにした。
LANといるまは、どちらからともなく集まってLANの部屋で映画を見ていた。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋。ベッドの上に2人で並び、1つの毛布を一緒にひざに掛けている。
画面の中では派手なアクション映画が流れていたが、LANの意識は完全に隣のいるまへと向いていた。
(……めちゃくちゃ集中してんな)
いるまは膝を抱え、真剣な目で画面を見つめている。部屋の寒さのせいか、それとも無意識に人肌恋しいのか、いるまの肩がほんの少しだけLANの肩に触れていた。
LANはそっと手を伸ばし、毛布の中で、いるまの白くて冷えた手を包み込むように握った。
「っ……、何だよ、急に」
いるまが驚いて肩を跳ね上げ、画面からLANへと視線を移す。暗がりの中でも、彼が少し耳を赤くしたのが分かった。手を振り払おうとする微かな抵抗。しかし、LANはそれを許さずに、指を絡めてしっかりと恋人繋ぎにした。
「いや、いるまの手、冷たいなと思って。温めてあげようかと」
「余計なお世話。……映画、集中しろよ」
ぶっきらぼうに言いながらも、いるまは繋がれた手をそれ以上離そうとはしなかった。それどころか、少しだけLANの手を握り返してくる。
LANの胸の奥に、じわじわと愛おしさが広がっていく。
言葉では素直になれなくても、こうして体温を分け合うことを拒まない。その不器用な優しさが、LANにとってはたまらなく愛おしかった。
LANは握った手を引き寄せ、いるまの指先にそっと自分の唇を寄せた。
「……ッ!」
いるまが息を呑む。
「映画、全然頭に入ってこない。いるまが可愛すぎるから」
「……バカ。静かにしろって」
照れ隠しに毛布に顔を半分埋めるいるまを、LANは愛おしそうに見つめながら、さらにその距離を縮めていった。映画の音だけが響く静かな部屋で、ふたりの距離はもう、息が触れ合うほどに近かった。
映画が終わると、すっかり外は暗くなっていた。
「お腹空いたな。いるま、何か作ってよ」というLANの甘えに、「仕方ねぇな」と呆れつつも、いるまはキッチンに立ってくれた。
冷蔵庫にあるものでパパッと手際よくオムライスを作ることになり、LANも「俺も手伝う!」と意気込んで横に並ぶ。
「じゃあLAN、玉ねぎみじん切りにして」
「お任せあれ!」
自信満々に包丁を握ったLANだったが、トントンとぎこちない音が響く。
「危なっかしいな……。おい、左手は猫の手だろ」
見かねているまが、LANの背後から包丁を持つ手にそっと自分の手を重ねた。
背中に感じるいるまの胸の鼓動と、包み込まれた手のぬくもり。不意打ちのバックハグ状態に、LANの心臓が跳ね上がる。
「こう。ゆっくり引くように切るんだよ」
真剣な顔で手元を見つめるいるまの横顔が、すぐ目の前にある。
「……いるま」
「ん? なに……わっ!」
LANが不意に振り返ったせいで、ふたりの鼻先が触れ合いそうなほど至近距離で目が合った。いるまが驚いて顔を赤くし、一歩身を引こうとする。しかし、LANは空いた方の手で素早くいるまの腰を抱き寄せ、逃がさなかった。
「手伝うの、やめ。いるまの料理してるとこ、特等席で見てる方がいい」
「はぁ!? お前が手伝うって言ったんだろ……!」
文句を言いつつも、腰に回されたLANの腕を強引に振り払おうとはしないいるま。
結局、LANに後ろからぎゅっと抱きつかれたまま、いるまは少し動きづらそうにフライパンを振ることになった。
「……なぁ、これじゃケチャップ綺麗に書けないんだけど」
「いいよ、俺が書く」
出来上がったふたつ並んだオムライス。
LANはケチャップを手に取ると、迷わず大きなハートマークを描き、その中に「いるま命」と不器用な文字で書き込んだ。
「何これ、恥ずかしすぎるだろ!」と顔を真っ赤にして怒るいるまと、それを嬉しそうに眺めるLAN。
湯気の立ち上るキッチンは、オムライスよりもずっと甘い空気で満たされていた。
甘い夕食を終えた後、どちらからともなく一緒に入ったお風呂は、ただ肌を寄せ合っているだけでどこか気恥ずかしく、心地よい熱がずっと身体に残っていた。
パジャマに着替え、部屋の明かりを落としたベッドの中。
先ほどまでの賑やかな空気は消え去り、シーツが擦れる微かな音と、ふたりの吐息だけが暗闇に溶けていく。
「……いるま、こっち向いて?」
LANが隣で横たわるいるまの肩を優しく引き寄せると、いるまは素直に寝返りを打ち、LANと視線を合わせた。お風呂上がりの火照った肌と、シャンプーの甘い香りがふたりの間でふわりと弾ける。
「……何だよ」
少し掠れた声で呟くいるまの頬は、薄暗い部屋の中でも赤くなっているのが分かった。その潤んだ瞳が、LANの胸を優しく、そして激しく締め付ける。
LANはそっと手を伸ばし、いるまの頬に触れた。指先から伝わる熱に、いるまが愛おしそうに目を細める。
「今日、ずっと幸せだった。映画の時も、ご飯作ってるときも。……今はもっと幸せ」
真っ直ぐな言葉と一緒に、LANはゆっくりと顔を近づけ、いるまの唇に自分の唇を重ねた。
触れるだけの優しいキス。しかし、一度離れてからいるまの表情を見ると、彼はもっと欲しそうな目をしてLANのシャツの胸元をぎゅっと掴んできた。
「……バカ、言葉攻めすんな。……もっと、して」
その不器用で、けれど最大限に甘えたおねだりに、LANの理性がぷつりと音を立てて弾けた。
「……もう離さないからね」
LANは掴まれた手を優しく解いてベッドに組み伏せると、今度は深く、熱いキスを何度も交わした。シーツの波に溺れるように、ふたりの身体はぴったりと重なり合い、夜が更けるまでお互いの体温を確かめ合った。
コメント
3件
**はる。だわ!** わ〜〜〜、青春BLの王道を丁寧にやってくれてる感じ、めっちゃ刺さるわこれ🔥 いるまが「何でもさせてやる」って言った時の耳の赤さで、もう読者側も心臓跳ねたよね。 それでテスト頑張って、結果出して、いざご褒美!ってなったら……まさかの「抱きしめてほしかった」っていうLANのピュアさ、ここで一気に心持ってかれたわ。 「頑張ったから褒めて」は反則やろ、ずるい可愛い。 いるまが最後に自ら首に腕回して「合格」って囁くシーン、悶絶しました。 布団の中で手を繋いで指先にキスするところも、不器用なりに距離詰めてく感じが良かった〜! 続き、ぜひ読みたい!✨