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――格納庫――
シラヌイは、
静かに横たわっていた。
白い装甲には、
修復しきれない焦げ跡と細かな歪みが残っている。
「……正直、
状態は万全じゃない」
整備班の声は、淡々としていた。
「右脚アクチュエータに遅延。
胸部フレームも負荷が残ってる」
朝倉恒一は、
黙ってそれを聞いていた。
「元々、
この機体は射撃武装を想定していない」
整備士が続ける。
「今回は——」
視線が、
シラヌイの腰部に固定された。
「ビームサーベル一本だ」
それだけ。
近づいて、
斬る。
この機体は、
最初からそういう思想で作られている。
「それと……」
整備士は、
一瞬だけ言葉を選んだ。
「リミッター解除」
空気が、
わずかに張り詰める。
「前の戦闘で、
神経系への負荷は相当だ」
「解除すれば、
機体は応えるが——」
言葉を濁す。
「身体のほうは、
保証できない」
恒一は、
シラヌイを見上げた。
白い装甲は、
何も語らない。
「……やります」
声は、
小さかった。
だが、
迷いはなかった。
「それしか、
ないですよね」
誰も、
否定しなかった。
⸻
出撃まで、
あとわずか。
格納庫の音が、
遠く感じる。
恒一は、
コックピットの前で立ち尽くしていた。
手が、
わずかに震えている。
自覚している。
——怖い。
——焦っている。
——逃げたい。
全部、
本当だ。
歯を噛みしめ、
呼吸を整える。
胸の奥から、
重たい圧が押し寄せてくる。
命令。
期待。
責任。
身体が、
勝手に震える。
「……大丈夫か」
背後から、
低い声。
振り返ると、
指揮官が立っていた。
「……はい」
反射的な返事。
だが、
声は少し掠れていた。
「緊張しているな」
「……はい」
否定できなかった。
「怖いか」
「……怖いです」
正直な言葉だった。
指揮官は、
少しだけ頷いた。
「それでいい」
「恐怖を感じない者は、
長くは生き残れん」
恒一は、
視線を落とす。
「……俺、
ちゃんと動けますか」
指揮官は、
少し考えてから答えた。
「分からん」
「だが——
動かす必要はある」
逃げ場のない言葉。
⸻
「それと、
もう一つ伝えておく」
指揮官は、
話題を変えた。
「上からの命令で、
この基地の指揮は
私が引き継ぐことになった」
「……?」
恒一は、
すぐに意味を理解できなかった。
「艦長を任された」
その言葉が、
遅れて胸に落ちる。
「……そう、なんですか」
「不安そうだな」
「いえ……」
どう答えていいか、
分からなかった。
指揮官は、
小さく息を吐く。
「そういえば」
少し困ったように笑う。
「私は、
まだ名を名乗っていなかったな」
恒一は、
はっとする。
確かに。
ずっと“指揮官”だった。
「神崎(かんざき)だ」
静かな声。
「朝倉恒一」
フルネームで呼ばれ、
背筋が伸びる。
「これからは、
正式にこの艦を預かる」
「だが——」
一歩、
距離を詰める。
「お前を、
使い捨てるつもりはない」
その言葉に、
恒一の胸がわずかに揺れた。
「……はい」
短い返事。
だが、
震えは少しだけ収まっていた。
⸻
警報が、
格納庫に響く。
出撃まで、
残りわずか。
神崎は、
背を向ける。
「行け」
「命令だ」
恒一は、
シラヌイを見上げる。
近接戦のみ。
ビームサーベル一本。
そして、
リミッター解除。
怖い。
それでも。
「……了解」
朝倉恒一は、
コックピットへ向かった。
戦いの時間が、
すぐそこまで迫っていた。