「だ、だめ!」
顔を近づけ先生の唇にキスを しようとした俺は口元を手で塞がれて動きを止めた。
「なんで?両想いじゃないの?」
「そうだけど、まだ僕は先生で若井くんは生徒でしょ···?」
ここまで来ておいてまだそんなことを言うのか、じゃあ昨日のキスはどうなるのかと先生を見つめる。
「あんなことしておいてごめん、けど卒業まではそういうことはしない」
「まじ?昨日先生があんなキスしたせいで何回ひとりでしたと思ってるの?思い出すだけでもまたヤバいのに!」
「ちょっと、なっ、そんなこと言わないでっ!」
手で顔を押さえて、足をバタつかせる先生は俺よりよっぽどそういう耐性がなさそうで、そんなところも可愛く思える俺はもう先生の言うことを受け入れるしかないんだろう。
「はいはい、わかりました···あと卒業までもう少し、藤澤先生に付き合いますよ」
先生の出会った頃より伸びた柔らかな金髪を撫でて唇を寄せる。
爽やかな、石けんのような匂いを嗅いで先生を抱きしめる。
「···これくらいは、許して」
「うん···」
顔を押さえてた手はゆっくりと、遠慮がちに俺の背中に回される。
キスはお預けをくらったけど、ようやく先生を掴まえたような満足感で俺は今、幸せだった。
「あー、好き···」
「僕も、好き···だよ」
ただ静かに2人抱きしめ合うだけの時間が幸せで愛おしくてしばらくただただ抱き合っていた。
それから先生の言う通りにあくまでも先生と生徒···という関係を保ったまま過ごし、 俺は希望の大学への入学が、先生はこのまま今の高校で教師でいられることが決まって卒業式を迎えた。
「若井も来るだろ?打ち上げ」
「後で行く!」
誘ってくれた元貴をあとに、そして式に来てくれた両親には先に帰ってもらって、俺は手紙で呼び出された場所へ向かう。
遠くで微かに盛り上がっている声が聞こえるだけで校舎の裏は人けもなく静かでもうすでに懐かしさを感じた。
「···お待たせ」
「卒業、おめでとう。呼び出してごめんね、ご両親も居たのに」
差出人のない手紙、呼び出したその人は今日は式だからか、髪を1つに纏めていて、ハラリと落ちた横髪が風に靡いていた。 黒いスーツに金髪が映えて、本当に綺麗だ、と思う。
「ありがとう。親は、しばらくは、こっちにいるみたいだから···それより、先生の方が大切でしょ」
大学のことも電話で伝えただけで特に何も言わなかった両親が卒業にそろって出席する、と聞いて俺はびっくりしたけど先生はわかってたように伝えた俺に頷くだけだった。
「手紙、僕からって気づいてた?」
「どれだけこの文字を見てきたと思ってんの」
意外と男らしい、綺麗な文字。
宿題がわからないと嘘をついて先生に教えてとお願いしたあの同居生活が懐かしい。
「そうだったね、若井くんはずっと僕のことを想ってくれてた」
「そうだよ、誰かさんのおかげで随分我慢したけどね。それも今日でおしまいだろ?」
先生ははにかんだような表情で手に持っていた花束を俺に俺に差し出した。
「待たせてごめん。若井くんのことが大好きです、僕とお付き合いしてください」
「俺も···大好き、よろしくお願いします」
花束ごと先生を引き寄せ抱きしめる。
先生と出会って、救われて、好きになって。俺の人生は確実に変わったと思う。
「先生、もう許して貰える?」
「···もう、いいよね」
俺たちは恋人としてキスをした。
何度か軽くキスしてから手を繋いで裏門からそっと出て行く。
「先生、親がまた仕事に戻ったら、その時は泊まりに行っていい?」
「···もちろん、いつでも待ってる。僕が言おうとしたこと、わかってくれるんだね 」
本音はいますぐにでも先生と2人きりの時間を過ごしたい。
けどきっと先生は最後だからと友人たちと出かけるように勧め、そして親との時間を過ごすように俺にいうだろう。
「俺を誰だと思ってんの」
「そうでした、とっても賢い僕の生徒だったね。これからは···大切な恋人になってくれるひと」
先生と出会ってもうすぐ1年、これからもきっと先生となら辛いことも乗り越えていけるだろう。
まだまだ、時間はたくさんある。
少し冷たい先生の手を強く握った。
握り返してくれる感覚が嬉しい。
「先生ありがとう、俺と出会ってくれて」
「···こちらこそ、ありがとう。僕を好きになってくれて」
手を繋いだまま今までの思い出を話しながらゆっくりゆっくりと家に帰る。
先生と出会って、救われて、好きになって。片思いに苦しんで···けど両想いになれて幸せで、今はその全てが愛おしい。
それが俺と先生の日々。
コメント
9件
今使えるのはブラウザ版アカだけだから、♡顔に連打できない!!めっちゃ好きなのにもどかしい😭
きゃーーーー!!!!もう発狂したくなるくらい愛おしい作品でした!!完結?しちゃうの寂しい😔
タイトル回収来た!完結?かな?おめでとうございます!1話のときの若井からは想像もできないほど涼ちゃんにゾッコンですねw