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〜7日目〜


愛莉と弓道の大会会場に向かいながら、話しかける。


「誘ってくれて本当にありがとう。愛莉」

「こちらこそ、突然だったのにありがとう。実は一人だとちょっと暇になっちゃうから……。そういえば、雫も喜んでたわよ、絵名ちゃんが来るなら頑張らないとって」

「あ、ほんと?」


まふゆは、どうだろうか。

実のところ、今日大会を見に行くなんてこれっぽっちも言っていない。昨日あんな風に押し付けて今になって恥ずかしくなったのがあったりする。

また、愛莉と雫にもまふゆが知り合いだと伝えていない。どうやってまふゆと知り合ったのかって疑問になるし、勝手に作詞担当だと伝えたら怒られそうな気がするからだ。

それにしても、まふゆと雫が同じ部活なのは本当に驚いたなぁ。まふゆが作詞担当だと知ったら、二人も同じ反応をしそうだ。



***



二階の観覧席から様子を見る。

的を射る音。そしたら上がる声。初めてこのような場所に来たから分からないが、意外と静かだ。並ぶのは白と黒の、シンプルながらに決まった道着と袴。自分では着たいと思うほど憧れはないが、思う。


「袴ってかっこいいなぁ……」

「あっ、あれ雫じゃない?」

「え、どこどこ?」

「ほら、右奥にいる」

「ほんとだ」


遠目からでもその存在感に圧倒される。相変わらず整った容姿とプロポーションに少し苦笑。予想はついていたが、袴姿は似合う。

しかし、その隣にいる朝比奈まふゆも負けていなかった。


「……意外と似合ってるじゃん」

「ふふ、何それ、気持ちは分かるけど」

「え……。っあ、違くて」


愛莉はこちらを見て笑って、顔をまた雫に戻した。

この言葉はまふゆに向けた言葉であって、決して雫に対して言った言葉ではないんだ。

そんな言い訳をしたかったけれど、つい言葉を溢してしまった私が悪い。なんならまふゆのせいだし。

相変わらず外では愛想はいいので、人気はあるみたいだ。ここからでも何となく分かる。周りに誰か必ずいるし。アイドルか。


「え」

「どうしたの?」

「いや、何でもない……」

「あ、次宮女がやるっぽいわよ。みんながんばれー、なんて」


心臓が少し煩くて、愛莉の声も入ってこない。

今、一瞬目があったような。流石にこんなに距離もあるし気が付かれてないと思うんだけど。まさか。

まふゆは、弓を打つポジションについた。それから足を開いて、弓を構える。

ルールなんて、矢を打って当てるだけだろうだから、見てない。作法なんて以ての外。でも、その一挙一動が整っていて、美しくて。何も知らない私でも分かる。まふゆは、凄い。

今の私はただまふゆに注目していた。洗練された動き。弓を引く動作、タイミング、それから的にしっかりと当てるその実力。瞳がいつもより澄んで見えて、つい唾を飲んだ。


「……綺麗」


ようやく口にできたのはそんな言葉。こちらを伺うように見たまふゆに、ただ見つめ返すことしかできなくて、ただまふゆしか見れなくて。

こういうのって、なんて言うんだっけ──



***



「雫、かっこよかったわよ」

「ほんと、その格好もよく似合ってるし」


休憩時間になり、少し会う時間ができたので観覧席から離れて話しに行った。

しかし、そこにいたのは二人。雫がいるのは別にいいんだ、問題はその隣にいるまふゆ。口を開けようとしたまふゆに急いで割って入る。


「──絵」

「と、ところで雫、その人は誰?」

「…………」

「ああ。朝比奈まふゆさんって言ってね」


裏返る声にも気にせず、ちょっとした紹介をしてくれる雫。

様子を見ようと思って横目で見るが、笑顔でいるまふゆに私は目を逸してしまった。


「私がお友達に会いに行くって言ったら、是非会いたいって」

「へぇ〜そっか。いい人そうな人ね〜」

「朝比奈まふゆです。お二人は?」

「私は雫の友達の桃井愛莉で、」

「初めまして、東雲絵名って言います」


笑顔で答えるとまふゆも笑顔で返してきた。

顔を見るのに躊躇してしまう。目はもう合わせられない。見れないのだ、気まずさもある。怖さもある。でもそれ以外に何か、違う何かがある気がした。


「東雲さん?」

「は、はいっ」


名前を呼ばれて、反射的に顔を見る。


「珍しい名字なんだね」


少しだけ笑顔を崩したまふゆ。その姿を見ると、あの時の姿を思い出して、私はすぐに目を逸らしてしまった。

──ああ、そうだ。“見惚れて”しまっていたんだ。

100日後に付き合うまふえな

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