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……風の音がする。わたし、部屋で寝ていたはず…。今、わたしはどこにいるんだろう…?
目を覚ますと、少女は見知らぬ場所にいた。まばらに草が生えただけの地面、どんよりと曇った空に、しけったい風。どことなく漂う嫌な空気。
「早く、帰らなきゃ…」
周りを見渡してみても、扉などはなく、後ろにはどこまでも続いていそうな穴がある。前に進むほかないようだ。何もない空間を、ひたすらに歩き続けるのは苦痛だ。
「あれは…公園…?」
しばらく歩いていると、少しだけひらけた場所に出た。銅像があったような建物が一つだけあるこの場所を、なぜ彼女は公園だと思ったのか。それは、彼女自身にもわからない。石板に、何かが刻まれている。
『逃げられなイ』
全くもって意味がわからない。視界がくらみ、目眩のような症状が現れる。
「…早く離れなきゃ」
これ以上ここにいるのは危険だと判断した少女は、足早に次へと足を向けた。そして、彼女の目の前には不自然に取り付けられた、少し歪んだ木製の扉。取っ手を引けると、少し鈍い音を立てながらも開いた。
扉を潜った先は、一気に雰囲気が変わる。見覚えのある装飾がされた壁。殺風景なのには変わらない。
「…おうちにかえろう」
また、殺風景な何もない一本道をひたすらに歩く。変わり映えのない風景に、少女は少し飽き飽きしていた。
「疲れた…」
休みたい。そう思ったところで、視界が開けた。そこのは、人が使うには小さすぎる東屋と、小さな壊れかけのメリーゴーラウンドの玩具。東屋のすぐ側には、カラスが2羽止まっている。
「遊園地、かな…」
情報量が少ない中で、彼女はポツリと呟いた。
「よく、しってる、けど…どこ、だっけ…?」
必死に記憶を遡ろうとするが、何かに阻まれるように途中で途絶えてしまう。ここにも、石板が一枚。
『置いていかないデ』
「なんなの、この石板は…!」
狂信を抱いたのか、少女の瞳には恐怖と焦りの色が浮かんでいる。
「はやく、いかなきゃ…」
少女は焦りが募り、慌てて立ち去った。再び現れた歪んだ扉を機にすることもなく、開けて次へと進む。
次の空間は、ぼろぼろになったコンクリート作りの壁で覆われている。
「なつかしい、な…」
みたことがないにも関わらず、少女は懐かしさを感じたようだ。特に何かあるというわけでもない一本道を進んでいく。最初は湿っぽかったかぜも、今はすっかり乾いている。
「…暗号機だ」
しばらく歩いていると、古くなった機械が出てきた。タイプライターを大きくしたような、そんな印象だ。幼い頃に遊んでいたものによく似ている。
「…懐かしいもの、ばっかり…」
今までの扉とは違い、今回はゲートのようになっている。装置のボタンには、数字が並んでいる。自然に手が動き、自分の生年月日を入力する。がたん、と扉が開いた。
「…なんで、わかったんだろう…」
これこそ、みたことのないゲートの番号。なぜ、自分の生年月日だと分かったのだろうか。わからないことに、時間は割かない。かつて、中学校教諭だった母がそう教えてくれたことだ。足元に、一枚の石板が落ちている。
『みぃつけタ♪』
少女は、その文章を読んだ途端体全体に寒気が走るのを感じた。
-早くいかなきゃ、殺される-
直感的にそう感じ、慌ててゲートをくぐる。そこは、周りが壊れかけのフェンスに囲われた一本道。前には、一つの滑り台。
「…はやくいこう」
この先、何が起こるかもわからない。もし、死んだとしても………。死んだところで、悔いはない。そう意を決して滑り台を滑る。風を切る感覚に、少女は少しだけ笑みを浮かべた。滑り台の先には、子供が登って遊べるような岩山。
「あぁ、そうだ…。昔、ここで転んで怪我したっけ…」
少しだけ、登ってみる。転んで怪我をしたのが、遠い昔のように感じた。
「…もう行こう」
昔の思い出に浸っている場合ではない。しばらく歩くと、また木製の扉が現れた。
「また、扉…」
まだ続くのか、と思わずため息をついた瞬間、声が響く。
『ほら、早く起きなさい!』
少女の、母親の声だ。
「ママだ!早く行かなきゃ!」
少女は駆け寄り、扉を開ける。すぐ目の前に、石板があることにも気づかずに。石板には、『ヨウコソ』と不気味な字体で書かれていた。
「ん……」
「おはよう、リゼ。よく眠れたかしら?」
見慣れた、自分の部屋。優しい母親。すべて、いつも通りのはずなのに…。違和感を覚えるのは、どうしてだろう…?