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ポピュラー音楽から声を奪ったのも、彼らである。今やボーカル入りの曲は下火となり、「ビートの弱い電子音ポップスで歌なしBGM=ミューズ系」が主流であるのは、先刻承知の通りである。
「失礼ですが、どうして、あんな音楽産んだんですか」
当然、「あんな」で力を込めた。
さっきまでミューズ批判に盛んだった、弘子ら下級生までもが、口をあたふたパクパクさせている。
「俺にそういう質問をする人は、そうそういない」と社長は言った。
「僕が学生だからって、笑ってごまかすつもりですか」
米子社長はん、んんと小さな咳払いをした。
「君はどう思うかは別だけど、多くの人は喜んでくれてるよ」
語り口には、広い余白がある。対照的に、俺の口調は尖ってて無駄がないのだ。
「やっぱり、リスナーに迎合しないと、食ってけないものですか」
そうだそうだ、という野次がようやく入った。
「君はリスナーって、世界中で自分ひとりだけだと思っていないかい」と社長は言った「俺も昔はそうだったけどね」
「いけないですか?」
「いけない? 馬鹿を言っちゃいけないな。世の中にいけないことなどない」
社長はそこで、グラスを手に取った。ミューズ社に就職が決まった4年生が、すかさずビールを注ごうとする。
数人いたからビンどうしがぶつかる。遅れてビンを出した先輩が栄光をものにした。
泡が立つ。
社長は彼に「ありがとう」と言いながら、来春の新入社員になんと頭をさげた。