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ゆき.
56
ーーーー大変なことになった。
時を戻したい。もしくは消え去りたい。いや、まだ人生でやりたいことはたくさんあるのだから、消えるべきなのは自分ではなく自分以外の記憶だ。神様。
先日放送された番組で、俺と勇斗の二人きりの様子が隠し撮りされていた。
グループ活動に不要ないざこざを持ち込まないため、勇斗と付き合っていることはメンバーにすら内緒にしていたはずだった。
普段、どれだけのファンからさのじん結婚!などと騒がれても、勇斗のスキンシップが激しくても、「キショい!」と突っぱねていた俺の努力……それが自ら甘えに行くという真逆な行動によって全て無駄になったのだ。
言い訳をすると、あの日は疲れすぎていて、家ではないのに油断してしまった。
でも流石に…いや、あんな放送事故みたいな映像が……
「全部使われるとは思わないだろーーー!!!!!!」
「うわっ、ちょっと何、仁ちゃんうるさっ」
突如レッスン室に響いた叫び声に、周りのメンバーから抗議の声が上がった。
思い詰めすぎて一瞬トリップしていたが、今はダンスレッスンの休憩中だったのだ。
「あぁ、ごめん……いきなり大声出して。」
感情が制御できず声に出してしまったことは、俺の否でしかないので素直に謝っておく。
「仁ちゃん、最近変だよ。まだこの間の放送のこと悩んでんの?」
柔太朗に言われたことが図星すぎて言葉に詰まっていると、舜太からも追い打ちをかけられる。
「ええやん。結果的にめちゃくちゃ好評やったよ?」
そう。それも俺を複雑な気持ちにさせる要因だった。
普段あまりSNSを見ない俺の目にも、番組の反響は恐ろしいほど届いていた。
『まずはありがとう』
『さのじんはガチだった…この時代を生きてて良かった…』
『結婚式はファンも参加できますか?』
『ご祝儀の振込先事務所でいい?』
『甘えん坊吉田さん可愛すぎて滅』
『勇ちゃんの愛がだだ溢れすぎて怖い』
『よく知らん女と熱愛出る心配なくて安心して推せる』
など、驚くほど好意的な反応ばかりでむしろ怖かった。なんで?多様性の時代だから?
メンバーにはさすがに付き合っていることを伝えたが、世間に正式にカミングアウトすることはもちろんない。
つまり、このまま熱が下がるまで待つしかないのだが、この先のインライや特典会でも永遠にいじられる未来が想像できすぎて、やりづらいことこの上ないというわけだ。叫びたくもなるだろ。
悶々とした気持ちのままレッスンが終わると、帰り際に勇斗に話しかけられた。
「お疲れー今日家来るっしょ?」
「………うん。」
いや、行くけど。もともと行くつもりだったけど!
なんでこいつこんな普通なん?
放送直後から俺はずーっと頭を抱えていたのに、勇斗はまるで他人事のように堂々としていた。
メンバーに改めて話した時も「俺と仁人付き合ってるけど、これからも5人の時は公私混同しないようにするし、よろしくな〜」とあっさりしていて拍子抜けというか。
帰り道、ご飯を買って勇斗の家に着くまでも俺はそんなことばかりをずっと考えていた。
「……で、仁人さん。なんか俺に聞きたいことあるんでしょ?」
「…え?」
「お前顔に出すぎ。」
ご飯を食べてソファでぼーっとしていたら、クツクツと笑いながら勇斗がこっちを見ていた。
「いや、あの、うん…そうね、ある。」
「あの番組のこと?」
分かってるのかよ。一発で考えを読まれた気がして心臓が跳ねる。
「勇斗、番組として放送されちゃってても全然気にしてないよなーって。なんで?」
「んー、別に何も悪いことしてないからなあ。」
当たり前、という顔で返されると言葉に詰まる。
それは、そう。禁止されているようなことをしていたわけではない。
「っでもさ、実は撮られてましたってバラされた時もあんまり驚いてなかったよね?」
「あーーー、それはね、俺カメラあるの気づいてたから。」
「…………は?」
気 づ い て た……????
思考が停止する。どうして、なんで、聞きたいことが一向にまとまらない。
「実はさ、あの日の楽屋、最近別の仕事でも使ってて。なんか新しい観葉植物置かれてんなーってよく見てたらカメラ仕込まれてた。」
「……っっ言えよ!!!」
思わず語気が強くなる。事情は分かったが、なぜそれを俺に伝えない。分かっていれば、あんな、あんな痴態を晒さずにすんだのに…!
「んーだって有名番組のドッキリとかだったら台無しにしたくないし、気づいてすぐに仁人が甘えてきたから。
分かってると思うけど、俺は基本的にいつも恋人を甘やかしていたいタイプなの。疲れてる仁人のこと拒否する選択肢はないよ。」
「……っっ」
こいつ…言ってることはめちゃくちゃだが何も反論できない。かっこいい顔するな。絆されるな、俺。
「…もしスタッフさんが入ってこなかったら、どうしてた?そのままキスする雰囲気出してただろ…」
思わず小声になってしまう。だって、いつもああやって顔上げさせて、そのまま唇に…
「もちろん、あれ以上はしないよ。」
「えっ……っん、ふ、ぁ…」
突然唇が触れたと思ったら、ぬるりとした感触と漏れる水音が耳から脳へ駆け巡る。心地良さに力が抜けてしまうと、予想していたかのように腰と頭を支えられ、もっと強く引き寄せられてしまう。
「……仁人のこんな蕩けた顔、絶対俺以外には見せたくないからね。」
………俺だって、俺に向ける勇斗の顔は、キスする時以外も全部独り占めしたかったのになあ。
「はやと、もっと…」
おれを甘やかしたいんでしょ、もう誰も見てないから、ね。
コメント
3件

わーーーーめちゃくちゃ好きです!! フォローさせていただきました! これからも楽しみにしています!

最高な作品読ませていただきました、、、本当にありがとうございます!!理想的なさのじんでとっても癒されました♡♡これからの作品、楽しみにしています!!ご無理なさらず投稿していただけると泣いて喜びます!!!