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6 ◇スマホの中の女たち
結局あれから私はうじうじと独りで悩むことしかできず、半年が過ぎようとしている。
そしてはっきりと夫が身体の浮気をしているという証拠を掴むこともできずにいる。
興信所などに依頼するとはっきりするのかもしれないが、まだそこまでの
勇気もなく、グタグタで半年が経過してしまったのだ。
ただ分かっていることがひとつだけあった。
最近夫が不携帯で近所の書店に出かけることがあり、またスマホを覗くチャンスがあったのだ。
でも、悲しいことに──
やはり夫はそれぞれの女性たちと相変わらずの交流をしていた。
もし今回スマホを見て、夫が彼女たちとの交流をやめてくれていたら──
私はこのまま黙って、少しの悲しみや苦しみは自分の胸の中に収めて夫と最初の予定通り
共に白髪になるまで添い遂げることができたかもしれない。
けれど、見てしまった彼らの遊びに、ヘタレなだけのメンタルの弱い私は、またまた
途方に暮れ、気づけば弱腰な思考へと引き戻されそうになった。
病気の時はもちろんのこと、普段もいつだって私にやさしく接してくれて
私の両親にもやさしくしてくれる出来た夫なのだから……彼が外で息抜きするぐらいの
ことを裏切りと捉えて、それを嫌がり苦悩する私は狭量なつまらない女なのだろうかと。
そしてこのネガティブな思考は、私が彼の奥さんをやめたら──
やめたほうが、夫はそのほうが幸せなのかもしれないと考えるようになっていった。
自分の最愛の夫が、遊びといえども余所の女性たちと言葉を交わし、
もしかしたら身体の関係も持っているかもしれない。
けれど、どうしても私にはそのような現実はあまりに辛すぎて、受け入れられない。
それでついつい私はそんなふ風な考え方に辿り着いたのかもしれない。
7 ◇僧侶との出会い
このままでは余りに自分がかわいそ過ぎる。
まだ35才なんだよ?
会社の帰り道、久しぶりに昨日覗き見た夫の送ったLINEの内容を思い出してしまい、
私は商店街を抜け少し坂道を上った場所にあるお寺に差し掛かると、脚を早め人気のない
境内のほうに向かった。
境内に入るまでの間に、すでに私の眦からは涙が零れていた。
次からつぎへと湧き出るかのように止まらない涙の粒。
そんな私は──
涙を零しながら大声を出せる場所はないかとキョロキョロ探した。
見つけた!
どうしてこんな場所にって思うような大きな土管が、境内の入り口から少し後方にある
木のすぐ側に転がっていた。
何という、まるで私を待っていたかのようじゃないか。
足早に近くまで行くとスラっと伸びた木も目に入ってきてよく見ると楠。
だけどこんな楠見たの初めてだった。
木も枝葉も高く高く延びていて、とてもスマートな楠なんだもの。
思わず──流れ落ちる涙を頬に貼り付けたまま、私は空に向けて聳え立つ
木を目で辿りその先の天を仰いだ。
普通は、もっと葉がたくさんついていて、もっこりさんだよ。
けど単に、私が鬱蒼とたわわに枝葉の茂ってるのしか知らないだけかも。
──なんて、泣きそうになりながらも、自然の木に感嘆できる冷静な自分もいた。
楠としばし対面し、彷彿とさせられたけれど、そのあと即刻その土管の中に入り、
「馬鹿っ瑛士のバカ」と叫んだ。
「いつもはやさくして私だけの瑛士なのに、どうしてこんなに私を苦しめるの?
どうして知らない女性と仲良くして盛りあがったりできるの?」
そう呟くと声に出して私は号泣した。
きっともう私のことなんて愛してないんだ、だから平気で余所の女と
仲良くできるのね。
幾ら考えてみても……
良いように考えたいと思っても……
行きつくのは今回もそうだった。
幾ら考えても夫の一番愛しているのが自分であるという結論には、
悲しいけれど辿り着けなかった。
最愛の夫の側で暮らしているというのに半年前のあの日から
私はちっとも幸せじゃない。
それこそ不幸ど真ん中の女だ。
自分だけを見てくれていると信じて12年間世界一の幸せ者と思っていた
自分はとんだピエロだったってわけ。
そう思うと更に涙は止まらなくなっていった。
だめだ鼻水が……確かティッシュが鞄の中に……。
眞奈は鞄の中、ティッシュを求めて探した。
あった。ティッシュを見つけた眞奈は思い切り洟をかんだ。
さぁ鼻の中もすっきりしたし、ハンカチで涙を拭い元気な振りの自分で夫の居る
我が家へ今日も帰らなきゃとそう思い、ヨイショと土管の外へ出た。
そんな外に一歩踏み出した眞奈の前に、1人の僧侶が立っていた。
8 ◇出会い
「あっ、あのっ……」
「何か叫んでたようだけど、もしかして泣いてた?」
眞奈は恥ずかしかったけれど知らない相手だ、旅の恥はかき捨てじゃ
ないけど──
この先会わずに済ますことの出来る相手だと思うと、正直にコックリと頷くことができた。
「私は僧侶だ。まぁ、教会で言えば神父のようなものだな。
ほら教会といえば懺悔をする部屋があって見えないところで神父が懺悔を聞くだろ?
あれと同じだと思ってよければ私に悩みを相談すればいい。
泣きたい時はまたその土管を使ってくれていい」
「どうしてこんな所に土管なんてあるんですか?」
自分が泣くために入ったとはいえ、不思議だった。
「さぁ? どうしてだろう、私がここに来た時にはすでにあったものでね。
今度住職に聞いておくよ。
懺悔とかしなくても気が向いた時に寄ってみてください。
実は大抵ここには私ひとりで、退屈してますから。
私の下手なお経や説法、あっ、掃除なんかも手伝ってくれると有難い」
彼はそう言って、まるで遊びに来てという気楽さで誘ってくれた。
彼は神崎 蓮と言ってこのお寺の僧侶だと名乗り私の相談に
乗ってくれるという。
彼は私が思っていたより少し若かった 。
私はもう50才前後だと思っていたのだけど、私より8才上の43才
だという。
僧侶だから? とても落ち着いた感じがする。
だけど話を聞いていると、最初の印象よりも若いなと思った。
『もう来ないわよ』……そう思いながら私は帰路についた。
だが強がってもう行かないって思ってたのに、その後私は、
引き寄せられるようにそのお寺をちょくちょく訪ねるようになった。
コメント
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第3話、読みました。主人公が「狭量なつまらない女なのか」と自分を責める心情、すごくリアルで胸が痛みました。優しい夫の裏の顔に苦しみながらも、愛しているからこそ離れられないもどかしさが伝わってきます。土管で叫んだ後に現れた僧侶・蓮さんの、押し付けがましくない優しさが救いのように感じられて、眞奈がまたあの寺に足を運びたくなる気持ち、よく分かります。続きが気になります。