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クソッ!
仙蔵は顔を真っ青にした伝七を抱えて学園に走っていた。
「立花先輩!これから実習に行ってきます!」
そう言って元気に手を振ってでかけていった姿とは程遠い伝七の体はどんどん冷たくなっていく。
もっと早く見つけていれば、伝七はあんな混乱することもなかったかもしれない。自分の腹に苦無を刺すことも。
己の未熟さに腹がたつ。
「絶対に、絶対に死ぬなよ伝七!」
勢い良く地面を蹴った仙蔵は学園へと急いだ。
「じゃぁ、僕は先に戻って仙蔵の方に行くよ。」
「あぁ。」
去っていく伊作を見送ると、文次郎は腕におさまっている左吉に目を向けた。
殴られた頬、ヒビの入ってるらしい右手。おまけに発見が遅れたせいで発熱したらしい。
「すまない‥‥。左吉。」
文次郎は左吉を抱きしめた。
「ん‥‥。」
「左吉!?」
「しおえせんぱ‥‥。」
「もう大丈夫だ!」
そう言うと、左吉は弱々しく笑った。
「せんぱいだ。きてくれたんですね。」
「当たり前だ!お前は俺の大切な後輩だ!」
「フフッ。ぼく、センパイはきてくれないんじゃないかなっておもってたんです。」
「え?」
「ぼくだけじゃないんですよ。ひこしろうも。いっぺいも。そういってたんです。」
その場にいる全員が左吉の言葉に耳を傾ける。
「ぼくたちいぐみは、なまいきで、すなおじゃないから、いちねんせんはたくさんいるから、ぼくたちがいなくなったってだれもきずつかないんじゃないかなって。いぐみなんてどうでもいいんだって。」
「そんなこと!」
八左ヱ門がそう言うと、左吉は今まで見たことないような笑みで俺たちを見渡した。
「あるんです。だって、せんぱいたち、ぼくたちいぐみのこと、なんにもしらないじゃないじゃないですか。」
左吉は八左ヱ門と三郎の腕の中で眠っている一平と彦四郎を見た。
「しってますか?いっぺいは、たけやせんぱいのやくにたちたくてせいぶつについてたくさんべんきょうしてるんですよ。ひこしろうは、いつもはちやせんぱいとおはませんぱいのじまんばかりするんです。ぼくも、しおえせんぱいのやくにたちたくてちょうぼをはやくおわらせてなるべくたくさんのちょうぼをするようにしてるんです。ここにはいないけど、でんしちはせんぱいたちみたいにとくいなことがないっておちこんでへやでないたりしてるんです。しらなかったでしょ?」
今まで見たこともないようなことを左吉は暴露した。
「ぼく、まだすこしねむいので‥‥ね、ます‥‥。」
再び寝てしまった左吉を見ながら、文次郎は立ち上がった。
「潮江先輩?」
三郎が恐る恐る声をかけると、
「俺は、知っているつもりだった。」
文次郎は悔しそうな顔をしていた。
「面倒事をよくおこすは組ばかりに目がいって、こいつとの時間をおろそかにしていた。先輩失格だ。」
「‥‥じゃぁ、これから大事にすればいい。」
留三郎が静かにいった。
「まだ間に合う。」
「‥‥あぁ。」
文次郎は小さな声でいった。
「学園に戻ろう。命にべつじょうがないとはいえこの怪我だ。それに、先生方も心配してるだろう。」
「はい!」
文次郎達も学園へと足を進めた。