テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゴォン……
ゴォン……
鐘の音が、鬼の里全体を揺らしていた。
湊は子供の寝顔を見つめる。
残された息子は、不安そうに小さな手で湊の服を握っていた。
娘を助けなければ。
もう時間がない。
朧は立ち上がる。
その瞬間、部屋の空気が変わった。
鬼としての本能。
怒り。
殺意。
全部が剥き出しになっている。
「行くぞ」
低い声だった。
湊は頷く。
すると老人鬼が前へ出た。
「試験場への道は既に開かれております」
襖の向こう。
そこには、真っ黒な穴が広がっていた。
まるで空間そのものが裂けているみたいだった。
冷たい風が吹いてくる。
あの廃校の臭い。
血。
水。
腐った空気。
湊の身体が震える。
思い出したくない記憶が蘇る。
赤い扉。
落ちていった人達。
糸へぶら下がった絶望。
そして司会者の笑い声。
朧はそんな湊の手を強く握った。
「今度は一人じゃない」
その言葉に、少しだけ震えが止まる。
湊は小さく頷いた。
そして二人は、黒い穴の中へ足を踏み入れる。
瞬間――。
世界が歪んだ。
耳鳴り。
浮遊感。
視界が真っ赤に染まる。
次に目を開けた時。
そこは、あの廃校だった。
湿った空気。
壊れた窓。
水浸しの廊下。
天井から垂れる赤黒いシミ。
湊の呼吸が浅くなる。
だがその時。
パチ……パチ……パチ……
拍手が聞こえた。
廊下の奥。
そこに、白いスーツ姿の男が立っていた。
細い身体。
張り付いた笑顔。
そして異常なほど楽しそうな目。
司会者だった。
『いやぁ〜!! お待ちしてました!!』
甲高い声が校内へ響く。
『家族愛!! 素晴らしいですねぇ!!』
湊の背筋に嫌悪感が走る。
朧は無言のまま司会者を睨んでいた。
その鬼気だけで、床がミシミシ軋む。
だが司会者は笑う。
まるで全く怖がっていない。
『でも困りますねぇ』
ニタァ、と口角が吊り上がる。
『試験開始前に来られるなんて』
その瞬間。
ガコンッ!!
廊下の床が突然開いた。
湊の身体が傾く。
「っ!?」
落ちる――。
だが次の瞬間、朧が湊を抱き寄せた。
二人はギリギリで床へ着地する。
その下では、無数の手が蠢いていた。
人間の腕。
骨だけの腕。
腐った手。
全部がこちらを掴もうとしている。
湊の顔が青ざめる。
司会者は腹を抱えて笑った。
『あはははは!! いいですねぇ!!』
『やっぱり貴方達、最高ですよ!!』
朧の瞳が完全に鬼の色へ染まる。
次の瞬間。
ドンッ!!!
鬼気が爆発した。
校舎全体が揺れる。
窓ガラスが一斉に割れた。
司会者の笑みが、初めて少しだけ歪む。
朧は低く呟いた。
「……娘はどこだ」
その声は、怒りそのものだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!