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廊下の掲示板に、テスト結果の順位表が張り出される。
生徒たちが群がり、上位者たちの名前を見て様々に声をあげる。
美希や瀬戸の名前は勿論、そこにあった。
「………」
群がる生徒たちの中に、目立つ赤髪の少女。
雪乃もその順位表を見つめていた。
そして手元にある小さな短冊の紙に視線を落とす。
「………」
「うわ、200位とかアホすぎん?」
耳元で聞こえた声に、ハッと体ごと飛び退く。
そこにいたのは、チーノだった。
「な、おま、勝手に覗き見るな!」
「お前がチビすぎて上から見えたんや。見たくて見たんちゃう」
飄々とした態度でチーノは雪乃を見る。
その腕の中にはチラーミィがいた。
確かに背は低い方なので何も言い返せない。
雪乃はクシャリと短冊の成績表を握りしめた。
「しかも、200位じゃないし!198位だし!」
「変わらんやろ」
「そういうお前はどうなんだよ!」
「100位以内には入っとるわ」
ムキーッと雪乃は青筋を立てチーノを睨みつける。
しかし言い返せない。
「草凪先輩の妹ともあろう者がそんな成績で情けない。なぁ、チミィ」
「チラァ」
チラーミィの尻尾が揺れる。
そして次に放たれた言葉で、雪乃の表情が変わった。
「お前、ほんまに草凪先輩の妹か?」
ピクリと指先が動く。
雪乃は自分に言い聞かせる。
落ち着け、と。
ざわつく心を必死に抑え込もうとする。
でないと、目の前のこいつをどうにかしてしまいそうになる。
それに、今は春翔のことを考えたくない。
「…私は春翔の妹だ」
絞り出した、静かに地を這うような声。
雪乃は短冊ごと握りしめた拳を見つめた。
まるで自分に言い聞かせているみたいだ、と少し眉を下げる。
「なら勝負しようや」
チーノが口を開く。
「次の期末テスト、どっちの方が上か」
その表情は薄っすらと笑みを浮かべていた。
雪乃は不愉快そうに、その表情を睨みつける。
「…負けたらどうなるの」
ニィ…と、チーノの口角が三日月のように歪み上がる。
「風紀を辞める」
ざわざわと騒がしい廊下の端っこで、チーノの声が鮮明に耳に届いた。
こんな勝負、しない方がいい。
というか、乗ったら負けだ。
相手が仕掛けてくるのは、勝てる勝負のみ。
勝算があって挑んできている。
勝てる見込みはない。
順位を聞いても100位以上の差がある。
確実に負ける。
しかし、
「いいよ」
雪乃の口はそう開かれた。
「ええんか?負けたら風紀辞めるんやで?」
「あんたが負けたら辞めてくれるんでしょ?」
「もちろん」
「だったらいいよ。受けて立つ」
「ふーん、自信満々やな」
雪乃はフンと鼻を鳴らし、背を向ける。
「負けて泣きついてきても知らないから」
べーっと舌を出して睨みつけた後、雪乃は早足でその場を立ち去る。
「それはこっちのセリフや」
雪乃の去り行く背中を見つめながら、チーノは呟く。
しかし…。
『お前、ほんまに草凪先輩の妹か?』
あの言葉を放った瞬間、一瞬感じた殺意のようなものは何だったのか。
「チラァ?」
疑念を拭うように、チラーミィがふわふわの尻尾でチーノの頬を撫でる。
チラーミィの頭を撫でた後、チーノもその場を離れた。