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夢主の設定
・名前:天満咲蘭(てんま さくら)
・キメツ学園中等部
・時透ツインズと幼馴染み
・「空駆ける天馬」「パートナー」の続編です
卒業式と告白
今日はキメツ学園中等部の卒業式だ。高等部は3月の初めに、初等部は3月の半ばに。中等部は初等部より数日早く、卒業式が執り行われる。
「2人とも、準備できた?」
「うん。ばっちり 」
「俺も」
「ううぅ…、有一郎、無一郎…、2人ともこんなに立派になって…!」
父さんなんか、家を出る前から泣いている。
主役より先に泣いちゃうってどうなんだよ……。
「じゃあ、後でね」
「うん、また教室でね」
「有一郎も指揮頑張って」
「うん…!」
学校に着き、両親と別れて、俺と無一郎は一旦それぞれのクラスに入った。出欠確認をして、リボンの花を胸元につける。
「時透くん!第2ボタン、あたしにちょうだい!」
「ちょっと抜け駆けやめてよ!有一郎くん、私も欲しい!」
クラスの女子から取り囲まれる。
無理。第2ボタンを誰に渡すかは、もう俺の中で決まっているんだから。
「…ごめん、親戚にお譲りする予定があるからボタンはあげられないんだ」
「なーんだそっか〜。じゃあ仕方ないね」
「残念」
「うん、ごめん」
もちろん嘘だ。ボタンなんて、制服屋さんに行けば予備のがいくらでも買えるから。もし本当にお譲りに出すことになっても、“本命”にボタンをあげた後、そこでボタンを手に入れれば問題なくお譲りに出せる。
俺が第2ボタンを渡したい相手は、幼馴染みの咲蘭。1年の時は無一郎が、2年の時は俺が同じクラスだった彼女と、3年では2人とも違うクラスになってしまって、新学期は随分落ち込んだものだ。
そんな咲蘭と、俺は卒業式の重役を担っている。
卒業生の全員合唱で指揮と伴奏を務めるのだ。
中2の時の合唱コンクールでも指揮と伴奏のパートナーだった俺たち。指揮者のオーディションを勝ち抜いて、俺は晴れてまた咲蘭の伴奏と合唱の指揮を担うことになった。
キメツ学園は基本的にエスカレーター式だから、中等部から高等部に上がる際、顔ぶれが殆ど変わらない中、外部から高等部を受験して新しく仲間に加わる人たちもいる。そして、その逆でキメツから外部を受験して別の高校に進む生徒もいる。
その1人が咲蘭だった。秋頃、彼女から音楽科のある女子高を受験すると聞いた俺と無一郎はショックで晩ごはんも食べずに寝込んでしまったくらいだった。当たり前に、高校生活も咲蘭と一緒に送れるって信じていたから尚更。
だから今日は咲蘭と同じ学校に通える最後の日。そんな特別な日に、また指揮者と伴奏者という形でバッテリー?を組めた。授業でも、3年だけの練習でも、家に帰ってからもしっかり合わせをした。“仰げば尊し”と“旅立ちの日に”。今日が終われば、この2曲を歌うことはなくなる。寂しいけれど、咲蘭の伴奏で指揮を振れた思い出は俺の一生の宝物だ。
卒業証書の授与が終わった。
「在校生合唱・蛍の光」
ガタガタッ
キメツ学園の産屋敷理事長は伝統を重んじるようで、最近では歌わない学校も増えてきた中、我が校では卒業式で、“蛍の光”と“仰げば尊し”をそれぞれ歌うことになっていた。
中等部に残る1年生と2年生が在校生の伴奏に合わせて歌い出す。
♪蛍の光 窓の雪 文読む月日重ねつつ
いつしか歳も杉の戸を 開けてぞ今朝は別れゆく
止まるもゆくも限りとて かたみに思う千萬の
心のはしをひとことに 先くとばかり歌うなり
(作詞:稲垣千穎/原曲:スコットランド民謡)
「卒業生合唱・仰げば尊し。指揮・時透有一郎、伴奏・天満咲蘭」
「『はい!』」
「卒業生、起立」
ガタガタッ
俺と咲蘭がステージに上がる。揃って一礼して、俺はみんなのほうへ、咲蘭はピアノのほうを向く。
小さく合図をして、俺は指揮を振り始めた。
♪仰げば尊し 我が師の恩 教えの庭にも早いくとせ
思えばいと疾しこの歳月 今こそ別れめ いざさらば
互いに睦みし 日頃の恩 別るる後にもやよ忘るな
身を立て名を上げ やよ励めよ 今こそ別れめ いざさらば
朝夕慣れにし学びの窓 蛍の灯火 積む白雪
忘るる間ぞなきゆく歳月 今こそ別れめ いざさらば
(作詞・作曲:不詳)
曲が終わり、また揃って一礼してから一旦ステージ袖に待機。
在校生の送辞と卒業生の答辞が終わる。
「卒業生合唱・旅立ちの日に」
司会の先生のアナウンスで、再びステージに上がる俺と咲蘭。
これが最後だ。咲蘭と目を合わせながら合唱の指揮ができる、最後の時間。
前奏が始まる。咲蘭の繊細な指のタッチから紡ぎ出される、優しい音が体育館に響く。
♪白い光の中に山並は萌えて
遥かな空の果てまでも君は飛び立つ
限りなく青い空に心震わせ
自由を駆ける鳥よ 振り返ることもせず
勇気を翼に込めて希望の風に乗り
この広い大空に夢を託して
懐かしい友の声 ふと蘇る
意味のない諍いに泣いたあの時
心かよった嬉しさに抱き合った日よ
みんな過ぎたけれど思い出強く抱いて
勇気を翼に込めて希望の風に乗り
この広い大空に夢を託して
今 別れの時 飛び立とう 未来信じて
弾む 若い 力信じて
この広い この広い 大空に
今 別れの時 飛び立とう 未来信じて
弾む 若い 力信じて
この広い この広い 大空に
(作詞:小嶋登/作詞:坂本浩美)
指揮を振りながら、中学生活の出来事が脳内に蘇る。今までの思い出の中には、いつだって、小さい頃からずっと一緒だった咲蘭がいた。そんな彼女と、4月からは別々の学校だ。寂しくてじわりと涙が滲んでくる。
歌が終わり、後奏はピアノのほうを向いて指揮を振る。
咲蘭と目が合った。ほんの少し瞳を潤ませて、彼女がにっこり微笑んだ。
最後に合わせて一礼して、俺たちはそれぞれのクラスの列に戻っていった。
中学最後のホームルーム。担任の先生にクラス全員からの色紙を送ったり、1人ずつ順番にクラスメートへのメッセージを口にしたり、最後にみんなで記念写真を撮ったりして解散になった。
「有一郎!」
「あ、父さん、母さん」
「指揮、とっても格好よかったわよ」
「しっかり動画に収めたからな!」
「ありがとう。…無一郎はまだ?」
「ええ。女の子たちから第2ボタンを欲しがられてまだ逃げ回ってるみたい。モテるのも大変ね」
母さんが呑気に笑う。俺も弟と同じようになっていたと思うとぞっとする。
「父さん、母さん。俺、ちょっと話したい人がいるから先に帰ってていいよ」
「そうかい?じゃあ、気を付けて帰ってくるんだよ」
「今夜は焼き肉に行くから、寄り道でつまみ食いしないようにね」
「うん!」
両親と別れて、すぐさま目的の人物を探して駆け回る。その間、案の定、高等部の先輩や中等部の同級生や後輩の女子から第2ボタンを求めて追いかけ回された。やっとの思いでそれを撒きながら、目的の相手を探し出した。
「!…咲蘭っ!」
『あ、ゆうちゃん』
「ちょっと一緒に来て!」
『えっ、えっ?』
咲蘭の手を引いて、急いで屋上へと走る。
『はあ、はあっ…。もう…、どうしたの?』
運動があまり得意ではない咲蘭が息を弾ませながら聞いてくる。
「ごめん、走らせて。…咲蘭んちのお父さんとお母さんは?」
『先に帰ってもらったよ。まだみんなと色々お話したかったから。ゆうちゃんちは?』
「そっか。俺も同じ。……その…、咲蘭にどうしても伝えたいことがあって… 」
息を整えてから、咲蘭のほうに向き直る。
「これ、咲蘭に渡したくて」
取り外した制服の第2ボタンをそっと差し出すと、咲蘭が驚いたように目を見開いた。
『えっ、…ゆうちゃん、これって……』
「俺、咲蘭のことが好き。幼馴染みとしてじゃなくて、1人の女の子として好き。俺だけを見て欲しい。誰にも取られたくない。咲蘭、俺と付き合ってください!俺の彼女になってください!」
深く頭を下げる。心臓が大きく脈打っている。
『ゆうちゃん……』
咲蘭の声に、そっと頭を上げた。すると目の前には、耳まで真っ赤になった彼女の顔。
『嬉しい。私もゆうちゃんのことが好き。むいくんのことも大好きだけど、ゆうちゃんへの好きとは違うの。私を…、ゆうちゃんの彼女にしてください』
咲蘭がそっと俺の手を握った。華奢で、柔らかな女の子の手。
「ほ…、ほんとにいいの?」
『うん。ゆうちゃんが好き』
「ボタン、もらってくれる?」
『うん。嬉しい!大事にするね』
咲蘭が笑った。花が咲いたように、可愛らしい笑顔だった。
「咲蘭。高校生になってもちょこちょこ会える?」
『うん。寮には入らないし、通いだから会おうと思えばいつでも会えるよ』
「そっか、よかった。じゃあ、学校終わりに迎えに行くよ。それで一緒に帰ろ」
『わあ!いいの?嬉しい。放課後デートだね』
顔を見合わせて笑った。好きな人も自分を好きでいてくれた。想いが通じ合って恋が実った。こんなに嬉しくて幸せな気持ちは生まれて初めてだ。
「咲蘭…、ぎゅってしていい?」
『う、うんっ』
咲蘭の腕をそっと引っ張って抱き締める。痛くないかな?苦しくないかな?そう思いながら、俺は力を込められずにいた。
すると、俺の身体にも腕を回してくれていた咲蘭が口を開いた。
『ゆうちゃん、私、そんな壊れ物みたいにしてもらわなくて大丈夫だよ。もっと強くぎゅってして欲しい』
「そ、そっか」
安心して腕に力を込める。密着度が変わって、咲蘭の髪から柔らかないい匂いがした。
『えへへ。ゆうちゃん、大好き。これからもよろしくね』
「〜〜っ!……俺も大好き。こちらこそこれからもよろしく、咲蘭」
不意の“大好き”に心臓が激しく暴れ出す。可愛すぎて保たない。
「……咲蘭。…き、キスしていい?」
『!…う、うん!』
お互いを見つめる。ゆっくりと顔を近付けていって、そっと目を閉じる。
ちゅっ……
唇が重なった。プルプルの柔らかな咲蘭の唇。
顔を離すと、茹でダコみたいに真っ赤になった咲蘭。俺もつられて耳まで熱を帯びていく。
「嫌じゃなかった? 」
『ううん。嬉しかった』
そう言って、咲蘭はまたにっこり笑ってくれた。
『ゆうちゃん、一緒に帰ろ』
「うん!」
俺たちは手を繋いで、屋上からの階段を降りていった。
終わり