前回の続きです。先に第2話を読むことを推奨します。
ロシアさん、今日は来ないのかな
中国さんのデスクで淡々と会話をしている彼に視線を向ける
彼はアメリカさんのライバルで、アメリカさんと連むことの多い僕は彼にとっていわば敵国だ
だからといって別に嫌われていた訳ではないが、今まで会議や業務連絡以外で話すことはほぼ無かった
なんなら彼は中国さんといることが多く、取っ付き難い人であったので僕の方から避けていた
なのに数ヶ月前から急に、お昼ごはんに誘ってくれ、仕事中の差し入れをくれるようになり、仕事を手伝ってくれるようにまでなった
全てアメリカさんの前でだけという条件付きだけど
しかし、それもまた、ある日から様子が変わった
アメリカさんのいる所以外でも対応も優しくなったし、さり気ないスキンシップが増えた
滅多に人の来ない資料室で2人きりで談笑するようにもなり、漫画のような甘い雰囲気になることだってもはや日常茶飯事である
あの”塩対応でスキンシップなどほぼしないぶっきらぼうなロシアさん”が、だ
なりより、明らかに見つめる瞳に”熱”が含まれている
以上から導くに、大方、『アメリカさんへの当てつけに僕に構ったら何かしらの理由で惚れてしまった』といったところだろう
傍から見れば実に滑稽な話だと思うかもしれない。でも僕は彼を馬鹿にすることが出来ないのだ
僕も彼を好きになってしまったのだから
ぶっきらぼうながらも僕を気遣ってくれる優しい所、人前では滅多に見せない柔らかい笑顔に惹かれてしまった
でも、彼に想いを伝えることはまだしない
両思いと分かっているのに酷いやつだと思ったかもしれない
でもこれには理由がある
それは、僕を惚れさせようと必死なロシアさんをずっと見ていたいからだ
言い慣れてない甘いセリフを言おうと頑張るのが可愛い!
アメリカさんと談笑している時の複雑そうな表情が最高に可愛い!
僕の前といつものクールな姿とのギャップが萌でしかない!
こんなの拝めるうちにいくらでも拝んでおきたいではないか!!
僕を争いに巻き込んだのだから、これくらい許してくれるだろう
そう思い、悲しげな表情を浮かべる彼に胸を苦しめながらも見て見ぬフリし、得意の演技でシラを切り続けていた
だけど、転機は突然訪れた
先程まで話し込んでいたロシアさんが、僕の肩を優しく叩く
思考に耽っている間にこちらに来ていたのか
「こんにちは、ロシアさん。何か御用ですか?」
いつもの笑顔を浮かべて、見下ろす彼の方を向く
暫く黙り込んだ後、なあ、と尋ねた
「今日の夜空いてるか?」
「話したいことがあるんだ」
精悍な目つきをした彼が、ただじっと、僕の答えを待っている
いつものラフな雰囲気とは明らかに違うこの空気
お遊びの時間もここまでかな
「……わかりました。予定が入らないよう頑張りますね」
肯定の返事に、喜びの色を見せる
ひとまず安心した様子の彼は上機嫌で耳元へと近づいた
「ああ、また後でな」
“例の部屋”で待ってる、と内緒話のように囁いて部屋を後にする
とりあえず、今日の仕事を片付けよう。考え事は後回しだ
いつの間にかスリープ状態になっていたパソコンを開き、目の前の作業に集中することにした
誰もいない、人工照明だけが部屋を照らす作業室
結局ギリギリまで仕事が残ってしまった
保存したことを確認して、シャットダウンする
そろそろ約束の時間だ
……怖くなってきたけど、行くしかない
重たく感じるドアを、みなぎるケツイで勢いよく開けた
何度も二人で通った、薄暗い道
この道をひとりで通るのは何気に初めてかもしれない
たどり着いたのは、人気が殆どないいつもの資料室
先客がいるはずなのに、照明はつけられていなかった
なんとなく明かりをつけてはいけないような気がして、暗いままの部屋を進む
定位置であった窓側のスペースにたどり着くと、そこには神聖な場が作り出されていた
窓から射し込む月明かりがスポットライトのように彼を照らす
澄み渡った冬の空で輝く北極星の様な美しい姿に、思わず近づくのを躊躇ってしまった
「……日本。やっと来たか」
「仕事が終わらなくて…遅くなってすみません」
「大丈夫だ、全然待ってない」
微笑んだつもりだろう彼の顔
初デートのような甘くも感じる会話
その雰囲気とは真反対の緊張がピリピリと体に伝わってくる
ぎこちない笑みがその理由を雄弁に物語っていた
腕を引いて、ステージ上へと誘われる僕の体
目を合わせた彼が、意を決したような面持ちで口を開いた
「単刀直入に聞こう」
「日本、お前の伴侶は俺では駄目か?」
突如訪れた、時が止まったかと錯覚する静寂
思わぬ方向の告白に開いた口が塞がらない
「………へっ?」
は、伴侶?話が飛びすぎじゃないか?こういうのってまず恋人になるところからじゃないのか?
固まっている僕を気にもせず再び口を開く
「これまで俺なりにアピールはしてきたつもりだ。察しのいいお前なら、俺の好意くらい気づいていてもおかしくない」
「でも、お前はあくまで他国と同じ対応をしている」
まさにその通りだ
言い当てられた驚きで、悪戯がバレた子供のように心臓が跳ねる
「そりゃそうだよな。好きな奴への嫌がらせに巻き込まれた上に、好きでも無い奴から惚れられるなんて不快に思わないはずがない」
「その件に関しては申し訳ないと思っているし、反省している」
震えるほどに強く握られる彼の拳
一瞬目を背け、一呼吸置いたあと、懇願の目が力強く私を見つめた
「こんなことしておいてと思うかもしれない。だが…お願いだ。少しだけでいい。お前の視界に、未来に、俺も入れてはくれないか?」
瞬きも忘れるほどの、驚きの感情
正直、こんなにも罪悪感を背負いながらアプローチしていただなんて、思いもしていなかった
気持ちを知っていながらもあしらっていた僕の軽率な行動に今更ながら申し訳なさを感じる
このままでは、彼が可哀想だ
まずは僕への罪の意識を無くさせよう
バツが悪そうに俯くロシアさんを覗き込むように見上げ、震える両手をそっと包み込んだ
「口下手な貴方がこんな熱烈に想いを伝えてくれるだなんて思ってもみませんでした」
嬉しいです、と微笑むと手の中が急激に暑くなる
しかし、それとこれとは別関係。此方は被害者なのだから、謝罪はしてもらわないとね
「貴方達の喧嘩に巻き込まれた事実に関しては謝罪して欲しいと思っています」
いくら僕が惚れているといっても、面倒くさい事に巻き込まれるのはごめんだ
反省しているようだが、ここで謝らせておかないと、また同じことをしでかすだろう
「………すまなかった」と叱られた子供のようにしょげた顔をする彼
ひとまずはこれで許してあげよう
次は、私が応える番だ
「ですが、貴方は一つ思い違いをしているようですね」
「私はあの方に恋慕の情を向けてはいませんよ」
俯けていた頭が、勢いよくあげられる
予想外の返答に思考が止まった様子の彼はなんとも間抜けな顔をしていた
追い打ちをかけるように、言葉を紡ぐ
「だから、貴方が謝るべきは好意を持ったことではありません。私の心を奪ったことです」
それって…と気づいたらしい様子の彼
それを肯定するため、とびきりの笑顔を見せた
「貴方の事しか考えられなくなった責任、きっちり取ってもらいますからね」
これが現実だと教え込むよう、より強く彼の手を握る
見開かれた目が、事実を受け入れ、だんだんと閉じていく
噛み締めるようつぶっていた目をゆっくり開け、彼はふにゃりと笑った
「…………ああ、勿論だ!」
二つの影がゆっくりと重なる
窓に浮かぶ満月が、祝福するように優しく彼らを照らしていた
おまけ(告白日の帰路にて)
街灯だけが目立つ暗い帰り道を、2人並んで歩く
歩幅が違うはずなのに横並びなのは、きっと彼が気を使ってくれているからだろう
無表情ながらも幸せそうな様子で手を繋ぐ彼
その幸せをもっと早く与えることができたのかと考えると、物凄い罪悪感が蘇ってきた
僕は…自分の楽しみの為に彼に我慢をさせてしまった。その時間を取り戻すことは出来ないけれど、謝罪ならできる
やるなら、今しかない!
「ロシアさん!」
「な、なんだ日本…大声出して…」
「あ、すみません」
思ったより大きな声が出てしまった。落ち着かせるために深呼吸をする。
もう一度彼の顔をみて、小さく口を開いた
「先程の件ですが、私も謝らないといけないことがあるんです」
急にどうした、という様子で首を傾ける彼
くっ、なんてあざとかわいいんだ
「実は…貴方の気持ちに気づいていながら素っ気ない態度をとってました…」
「必死な貴方があまりに可愛かったので…つい意地悪してしまいました。ごめんなさい…」
嫌われたらどうしよう
懺悔をしながらそんな考えが浮かんできて、尻すぼみになる言葉
判決を待つ僕を暫く眺めた彼は、口元に手を当て、意地悪そうに微笑んだ
「日本……誠実な奴だと思っていたが、人の心を弄ぶような事するんだな」
握っていた手を徐に離し、距離を縮めた思うと、腰に手を回される
街灯の逆光に照らされた彼の顔に、根拠の無い恐怖を感じた
「よし、決めた。お前に遠慮するのはやめにする」
「初めては優しくしてやろうと思ってたのになぁ…泣き叫んでも止めてやらねえ」
覚悟するんだな、と暗くともわかる悪い顔で脅される
あ。僕、想像以上にやらかしていたのかもしれない
腰を掴む手の力強さから伝わる、確実に訪れるだろう苦悩の未来
逃げられない僕は青ざめた顔で命乞いをするしか出来なかった
「それだけは勘弁してください!!!」
ここまで読んでいただきありがとうございました。長い割に展開が急で読みにくい所があったと思います。申し訳ございません。本当は書きたい場面が沢山あったのですが、とんでもなく長くなってしまうので諦めました。また今度その部分だけ書いて投稿しようと思います。
コメント
4件
ウホォ(?) これがまたいいですねぇ…☆ニチャァ( ◜ω◝ )
お幸せになった ~ !!!! 😭😭😭 ✨✨✨ まぢで 好きです .. 🥹🫶🏻️💓 🇷🇺 ちゃん の 🇯🇵 にしか見せない 特別な 表情とか 仕草とか もう 全部 愛おしかった .. 🤦🏻♀️💕 さすがに神作品すぎました 。責任とってくださいね ♡♡