独立直後のフィンランドが喫煙大国だったと聞いて
ここでのフィンランドはロシアと兄弟設定です。父親はソ連。
※作中に喫煙描写がありますが、喫煙を推奨及び批判する意図はございません
真上にいる太陽が照らす会社のビルの裏
誰もいない静寂の空間
口元から出ていく煙が空に向かって伸びている
「……暇だな」
何か面白いことでも起きないだろうか
例えば、雷が落ちるとか
…雲ひとつない空でそんなことあるはずないけど
なんてくだらない脳内会話を繰り広げながら、色が消えゆく煙の先をぼんやりと眺めていた時、小さな足音が聞こえた
その方角へ目を凝らすと、白い人影が近づいてくるのが見える
こちらに気づいたらしいそれが満面の笑みを浮かべた
「あ、フィンランドさん!こんにちは!」
大きく手を振って駆け寄ってくる日本
応答するように手元で小さく手を振った
「Moi.久しぶり」
ここで会ったのは、多分半月ぶり
今日は休憩取れたんだねと労うと、いい加減休めと言われてしまったので…と苦笑いをする
細められた目元は一目見て分かるほど青い
うん、俺もさすがに休んだ方がいいと思うよそれは
とはいっても、日本と話せる機会はあまりない
本当は寝かせてあげるべきなのだろうが、少し俺の我儘に付き合ってもらおう
そう思い、仕事の話や家での話、今日のお昼ご飯の話など他愛もない話をダラダラと語らった
同僚の面白い行動の話に笑っていた時、ふと、日本は何かを思い出した様子を見せる
前を向いていた視線がくるりとこちらを向いた
「フィンランドさんってロシアさんと兄弟なんですよね?」
「うん、そうだけど…」
あんなやつ兄とは認めなくないけど、一応兄弟だ
だけど、それがどうかしたのか
上目遣い気味の無垢な瞳がこちらをじっと見つめる
なにかまずいことを言っただろうかと焦る俺を見かねて、日本が気まずそうに尋ねた
「こんなこと聞いていいのか分かりませんが…ロシアさんって甘えたがりなんですか?」
まさに青天の霹靂
絶対に出会わないと思っていた言葉の組み合わせに思わず体が強ばる
やべ煙が変なところに入った
激しく咳き込む俺の背中を日本が心配しながらさすってくれた。優しい。
ようやく落ち着いた俺は先程の言葉を頭の中で反芻する
彼奴が甘えたがりだって?いくら日本の冗談だとしても、こりゃ笑えないな
親父なら大爆笑するだろうけど
「それは無いと思うよ…アイツが甘えてるところなんて見たことないし」
というか想像しただけでも吐き気がする
威圧的で他人に微塵も興味を示さない彼奴がそう思われるなんて一体何をしでかしたんだ
「そうですか…じゃあなんでだろ」
考えあぐねるように視線をさまよわせる
その仕草に、なんだかすごく嫌な予感がした
「アイツがどうかしたの?」
もし、彼奴が日本に手を出すようなことをしていたら、俺が責任をもって撃ち殺そう
そんな物騒な考えを持っていることもつゆ知らず、日本は淡々と事情を説明しだした
「ロシアさんに限った話じゃないんですけど、他の国から抱きつかれることが増えたんですよね」
…………は?
「前はアメリカさんだけだったんですけど、最近ロシアさんや中国さんも来るようになりまして…」
よし決めた、全員まとめて撃ち殺す
実物を出すわけにはいかないので、頭の中で愛用のライフルを握る
何してくれてんだ彼奴…ていうかお前ら反日じゃなかったか?
親日の俺でもできてないのに…という嫉妬は胸の奥に留めておく
「仲良くなれたみたいで嬉しいんですけど、四六時中となると仕事が出来ないのでどうしたものかと思っていたんですよ」
僕何かしたっけな…となんの心当たりも無い様子で過去を探る
高嶺の花は人や虫を惹き付けるとは言うけれど、敵国まで惹き付けてしまうとは…日本もなかなか恐ろしいな
いやいや、感心している場合ではない。日本が困っているんだ
俺の付け入る隙を作るためにも何か対策を考えないと…
ふと目に入る手元の煙草
吸われることなく垂れ流されるか細い煙が空気中へと消えていく
そうだ、いいこと思いついた
「ねえ日本、その悩み俺が解決してあげる」
本当ですか!と目を輝かせる日本
眩しいほどの眼差しに、頼りにされてる感じがして心が浮き立つ
「ぜひ、お願いします!」
「OK。じゃあ、目つぶっててもらえる?」
「は、はい」
言われるがままに目を瞑る日本
そういう無防備な所よくないと思うな
このままキスしてしまいたい所だが、まだ嫌われたくないので、衝動をぐっと抑えて優しく囁く
「ちょっと臭いかもだけど我慢してね」
手に持っていた煙草を咥えて大きく吸い込む
そして、顔や首に向かって温い煙を吹きかけた
主流煙を吸い込ませないよう、口元を抑えて
白煙が日本を包み込んで、ゆっくりと霧散する
そろそろいいかな
煙が完全に消え、定着した頃を見計らい手を退けた
「…よし、目開けていいよ」
固く閉じた目を開け、何故か照れた様子でおずおずと頭を上げる
「えっと…フィンランドさん?なんでこんなことを…」
頬を赤く染めながら上目遣いで困惑しているのがとても可愛い。
顔を近づけてにんまりと笑みを浮かべる
「おまじない、悪い虫がつかないための」
「悪い虫って…」
「消臭しちゃダメだよ?効果が無くなっちゃうからね」
念押しとばかりにその小さな体を抱きしめ、全身に自分の匂いを移す
確かに、柔らかな温もりを欲してしまう気持ちは分からなくもないな
確認のためジャケットを嗅いでみると、清涼な匂いの中に混じりけを感じる
うん、これで完璧だ
離してしまうのは名残惜しいが、長いことくっつくと自分まで避けられそうなのでゆっくりと距離を戻す
ふと腕時計を確認すると、短針が北北東を指していた
「もうこんな時間。そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
「本当だ!これからまた仕事か…」
やだなぁ…と言いたげな表情をする日本
仕事が嫌って事なんだろうけど、俺との時間が続いて欲しいと言われているようで、顔がニヤけそうだ
「俺は日本ほど仕事ないからさ、疲れたら俺の所来なよ。励ますくらいはしてあげる」
励ましの意で肩をポンと叩いてやると、嬉しそうな表情を見せてくれた
「ありがとうございます!では失礼します!」
一礼してバタバタと仕事場へ戻る日本
Moi moi.と走り去る彼の背に手を振った
独りに戻った空間に、静寂が蘇る
数十分前と似ているようで違う雰囲気
幾分か解された表情筋が僅かに収縮する
「いやー楽しみだな、日本に会った時のアイツらの反応」
この香りは俺が愛用している銘柄特有のもの
俺が吸ってる銘柄を知ってる奴なら、すぐにわかるだろう
想いを寄せる奴から俺の匂いが香ってきたらさぞかし焦るだろうな
想像するだけでワクワクする
箱から最後の一本を取り出して冷静を取り戻す
残り少ない煙を味わうように吸い込んで、虚空に向かってフッと吐き出した
「Minä rakastan sinua. Enemmän kuin ketään muuta.」
(愛してるよ、他の誰にも負けないくらいに。)
煙とともに吐き出されたこの想いをいつか君に伝えられる日がくるのだろうか
薄れゆくスクリーンに幻想の映像が映る
幸せそうな顔をする、彼奴と日本の姿
………いや、待ってるだけじゃ駄目だ
燻るそれを掻き消して、陽の下へ一歩足を踏み出す
さて、そろそろ俺も頑張るとしよう
楽しみと戦いが待つ会社へと歩みを進めた
補足ですが、煙草の煙を相手に吹きかけるのには「今夜お前を抱く」という意味があるそうですよ。フィンランドくんは知らなかったみたいですが。日本は知ってたんでしょうかね……
皆さんは煙を人にかけるようなことはしないでください。健康被害が出ますし犯罪になるケースもあります
コメント
4件
フヘフヘ…今回も神でした😇この続き…想像できる
もう何から 感想言っていけばいいのかわかんないぐらいに 好きです 。でも1番 印象だった 🇫🇮 が 🇯🇵 の 至る所に 煙 を 吹きかける ところ .. 凄く えっちですた .. そして 最後の 意味よ .. これは まぢめに 死にました 。えっちすぎる 。どんな食べ物食べたら そんな しこ な 小説書けるのよ 、ずるい 🙄