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「……ん、んぅ……」
ふわりとまぶたが持ち上がる。
まだ頭はぼんやりしていて、身体も少し重たい。けれど、あたたかくて柔らかい何かに抱かれている感覚だけは、はっきりと分かった。
「……初兎ちゃん……?」
名前を呼ぶと、すぐそばから小さな反応が返ってきた。
「……あ、起きた?」
初兎の声。やっぱり本物だ。
視線を上げると、彼が自分の腕の中にいて、ほんのり赤い顔でこちらを見下ろしていた。腕のぬくもり。少し乱れた髪。朝の光の中で、やけに綺麗に見えた。
「……なんで……俺、初兎ちゃんに抱きついてんの……?」
「……いや、それ俺が聞きたいわ。昨夜、お前めっちゃ酔ってて、いきなり甘えてきて、……キスまでして……」
「……えっ」
りうらの顔から一気に血の気が引いた。
「……え、ちょ……ウソ……マジで……した……?」
「……した。……俺の、頬に」
「…………うわああああああ!!」
りうらが顔を覆って丸まる。
耳まで真っ赤になって、声にならない悲鳴が漏れる。
「ムリムリムリ、なんで!? なんで俺そんなことしてんの!? 酔ってただけ!? えっ、ちょっと死にたい!!」
「おい、落ち着けって……!」
初兎が慌てて背中をさする。
その手の温かさに、りうらはびくっとしながらも、ふと顔をのぞかせた。
「……でも、俺さ……多分、酔ってたけど……酔ってたからって、初兎ちゃんに甘えるの、あれ、無意識じゃできないっていうか……」
「……は?」
「……あれ、たぶん……本音だった、気がする」
小さな声。でも、しっかり聞こえた。
「初兎ちゃんが優しくしてくれるの、ずっと嬉しくて……でも、素直になれなかったから、……ごめん」
静かな間。
初兎は、りうらの頭にぽんと手を乗せた。
「……バカ。そんなの、謝らなくていいんよ」
「……えっ」
「お前が好きかどうかなんて、もう昨日の時点でとっくにバレてたから」
りうらの目が、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
そして、こくんと小さく頷いたあと、照れくさそうに微笑んだ。
「じゃあ……さ、また酔わなくても……甘えてもいい?」
「……は? なに急に」
「……ちょっとだけ」
「……ほんと、お前って……」
そう言いながらも、初兎はりうらを引き寄せて、もう一度そっと頭を撫でた。
静かな朝の光の中、ささやかな鼓動だけが、ふたりの間を温めていた。