そして待ちに待った約束の日。
ようやく部屋のチャイムが鳴る音。
「はい」
「どうも」
玄関に行き、顔を出して確認すると、そこには待ち焦がれていた人。
「いらっしゃい。どうぞ」
「お邪魔します」
オレはそんな今までの自分を気付かれないように、何事もない素振りで彼女を部屋に招き入れる。
「キッチン見せてもらうね」
「どうぞ~」
食料らしき袋を持参して、慣れた雰囲気でキッチンを確認する彼女。
すぐキッチンを確認するとか、ホント普段からこういうの慣れてる感じ。
だけど、何の緊張もなくオレとの会話もなく速攻キッチンに向かうってどうよ?
ホントに料理する目的だけでしかこの部屋に来てないってワケ?
仮にも男の部屋に入って二人きりになるワケだし。
ちょっと意識してくれてもいいのにさ・・・。
「ねぇ。調理道具と食器ってこれだけ?」
「あぁ。うん」
元々自分でもそんな料理もしないし、外で食べることのが多いから、必要最低限の物しか揃えてない。
やっぱ見てもそんなんすぐわかるんだ。
「ね~普段料理しないの?」
「しない」
「今までの彼女たちは家で作ってなかったの?」
そこ気になるんだ?
「この家では作ってない。他人に家でいろいろされるの好きじゃないし」
外で適当に一緒に食べることが多かったし、彼女を好きになってからは当然この家にもそういう関係の存在は呼ばなかった。
てか、今までは正直そういうのも求めてなかった。
「そこまでの仲にもなってないし」
そこまでしてほしいと思える相手は誰一人いなかった。
自分一人の居心地いいスペースに誰も入ってほしくなかった。
「あのさ~、私の家で作ってもいいかな~」
だけど彼女は料理作る事しか頭になくて。
オレを意識しているのかしてないのか、今度は自分の家で作りたいとか言ってくる。
「自分家のが色々揃っててやりやすそうなんだよね」
今までの男にもこんな風にリクエストされたら作ってやってたんだろうな。
彼女はどれだけその手料理をオレ以外の男に食べさせたのだろう。
どれだけその男の為に手料理を作って来たのだろう。
「ちょっと自分家戻って作ってる間、時間かかるから家で待っててもらっていい?出来たら呼ぶね」
いやいや、そんなの意味ないから。
あなたと一緒にいれる時間全部、今日は一秒も無駄にしたくない。
「そっちの家で出来るまで待ってていい?」
「いいけど・・。時間かかるから暇だよ?」
「別にいいよ」
暇とかそういうことじゃないんだよ。
オレはあなたと一秒でも多く一緒にいたい。
「隣だし出来るまで自分家でゆっくりしてる方がよくない?」
あなたはただ料理を作る目的だけだとしても、オレは違うから。
「作ってるの見たいし」
どんな風にあなたが料理作るのか見たい。
「いいけど・・・そんなの興味あるんだ?」
「透子が作ってるのに興味ある」
「大丈夫!ちゃんと作るから!」
「オレの為に作る姿が見たい」
ずっと憧れだった人がオレの為に料理作ってくれるそんな最高の時間を見ないとかありえないでしょ。
「じゃあ、私先戻るから適当に来て」
そう彼女はオレに伝えて部屋を出て自分の家に戻って行った。
やっぱり彼女はこんな時でもカッコイイな。
やばいな。これまた惚れ直しちゃうやつだな絶対。
それから少しして、隣の彼女の部屋へと移動。
「お邪魔します」
「どうぞ~」
自分が言い出して、成り行きとはいえ、まさか彼女の部屋に来れると思ってなくて、なんか緊張。
別に今まで女の家なんて行き慣れてたのに。
相手が違うだけで、こんなにも気持ちが変わるもんなんだ。
「適当に座っといて~」
そう言われて目に入ったソファーに腰掛ける。
彼女の部屋は、彼女のイメージ通りと言ってもいいほどの、大人なオシャレな女性の雰囲気で。
だけど所々、オレの部屋にはない女性らしい可愛さも感じられるようなそんな部屋で。
ついどんな部屋か気になってこっそり辺りを見回してしまう。
「好き嫌い何かある?」
「特にない」
「なら何でも大丈夫だね。あっ、コーヒー飲む?」
「あっ、うん」
「インスタントだけどいい?」
「うん」
そしてそんなオレにコーヒーを勧めてくれる彼女。
正直流れでこんな簡単に男を家に上げるのかと余計な心配をしたくもなり。
キッチンで手際よくコーヒーと料理の準備を同時にこなしている姿を見て、嬉しくもなり、その反面こんな姿を他の男が見ていたのかもしれないなんて、一人無意味にモヤモヤしてしまう。
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