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満足気なコユキと反比例する様に声を落とし神妙な感じで運ちゃんは話し始めたのであった。
「山を登っている時に言いましたよね、半生を振り返ってみろって…… 半生って訳でもないんですが、自分の最後と復活した時の事を考えてみたんですけどね…… 聞いて頂いても?」
ここまで二人のやり取りを黙って聞いていたフューチャーが興味深そうな声を出した。
「復活? 是非聞きたいな? やはり悪魔なんだろう、それとも神なのかな?」
「ふむふむ、聞いてあげるわよ、やってちょうだい」
「ええ、実は私はインカ帝国で信仰されていた創造神でして、その頃はビラコチャと呼ばれていましてね――――」
運ちゃんは自分をビラコチャだと告げた後、神としての信仰を失った日、そして五百年の時を越えて復活を果たした日の事までを二人に一気に話して聞かせた。
内容としては、五百年ほど前フランシスコ・ピサロがインカ帝国の実質上の最後の皇帝アタワルパを処刑する時、火あぶりを恐れた皇帝がキリスト教に帰依した時に神格が完全に失われたらしくそれ以降の記憶が無いという事であった。
それより遥か以前に、ともに創造をした四人の友、プルンパチャ、カリャクパチャ、ラカプティン、トナパも、若く新たな活力に溢れた海の創造神パチャカマックとその兄である死の神スーパイもかの地を去っていた為、南米の原初の神は全て消え去ってしまったのだそうだ。
ビラコチャ一人だけが人々や他の生命を愛でる為に残り、他の神達は新たに降臨した偉大なる天使に仕える為、ユーラシアに向けて旅立って行ったと言う。
永い眠りを経て、次に意識を取り戻したのは今から十五年前、ペルーのカランカス村に隕石が衝突した後の事だったそうだ。
小さな隕石では有ったが、命の内包量が多く新たな天使の一人として復活を果たしたらしい。
不思議な事に過去のビラコチャ時代の記憶をすべて覚えていたと言う。
それ所かさらに古い、信仰を得る前の悪魔時代の記憶まですべて鮮明に思い出したそうだ。
神としてインカの人々に崇められていた時には忘れ去っていた古い古い記憶、本来の名前もその時思い出せたのだと言う。
隕石がかつて帝国の中心で祈りを受けていた偶像を直撃したからだろうか?
幾ら考えても詳細を知る事が出来ずに、只、昔馴染みの住むこの極東の島へと移り住んで来たのだと言った。
そこまで話した後、運ちゃんのビラコチャはルームミラー越しにフューチャーを見つめて黙り込むのであった。
「ビラコチャ、だったのか…… 消えたと伝え聞いてはいたが……」
「ああ、久しぶりだね、カリャクパチャ…… 今はフューチャーか、良い名前だね」
「ほう、二人は昔馴染みな訳ねん、顔は違うの?」
「ええ、お互い全く違いますね」
「しかし、良いのか? 確かお前は言っていただろう? あの地に残って自分の仕事を全うするんじゃなかったのか? ビラコチャ」
運ちゃんもとい、創造神ビラコチャは運転を続けながら肩を竦(すく)めて答える。
「良いも何もかの地に私の仕事なんてもう残っていないさ、それよりも何故かこの地に惹かれた理由が分かった気がするよ、さあ、伊予西条の駅に着いた…… 名残惜しいですが、ここでお別れです」
深い霧の中、タクシーを停車したビラコチャの言葉に促されて、車を降りたコユキとフューチャーの前に歩み出たビラコチャは笑顔を向けて言った。
「改めましてビラコチャです、悪魔時代の名はガミュギュン、『復活』の悪魔でございます、ワルファレという名に聞き覚えは無いですか? ガッライ陛下?」
「あ、サルガタナスちゃんの所の奇麗な子! 何、ガミュギュン君となんか関係ある訳? 情婦とか?」
「ふふふ、妹ですよ、戻ってパチャカマックとスーパイに伝えて下さい、依頼は受諾した、と…… あ、いや今はアスタロトとバアルでしたね」
「アスタとバアルちゃん! そうかあの子たちもペルーに居たのねー! 伝えとけば良いのね分かったわ! んで妹が情婦なの? まあ萌えるっちゃぁ萌えるんだろうけど人を選ぶわね、頑張ってアタシは味方よ」
「いや、只の妹で情婦では無いですよ、私一言も言っていませんよね? 情婦とか、ガッライ陛下?」
「なはは、それもそうだったわね、ところでアタシの事ならコユキで良いわよ! 陛下とか言ったら右サイドの方々から襲われるかもしれないし、アタシがガッライだと善悪がガッロスになる訳でしょ? 混乱しちゃうわよ! んで受諾した依頼って何なのん?」
「ではコユキと呼ばせて頂きますね、依頼の内容はズバリ、コユキ、貴女と善悪さんの復活です」
「へ? アタシ達の復活? だけどアタシ達って只死ぬんじゃないのよ? サタンの魔力に組み込まれて存在自体が消滅するんだって聞いてるんだけど…… 消滅しちゃってから復活とか? 出来るの?」
「どうでしょう? 今の所、見当もつきませんが…… 挑戦して必ず復活させて見せます、受けた仕事ですからね、ガッツで突き抜けて見せます、ふふふ」
「そう…… んまあ期待して待ってるわね♪ 正解が見つかるのを消滅しながら、ね」
「貴女達の挑戦の正解も楽しみです」
「それか無駄か、ね、なはは」
「無駄はもっと楽しみですね、復活した貴女のガッカリした顔が見れる、ふふふ」
笑顔を交わし合う二人にフューチャーが声を掛けた。
「ビラコチャ、いやガミュギュンだったな…… では良いのか? 聞いているんだろう、我々がこれからコユキと善悪に強いる事を……」
ガミュギュンはフューチャーの目を真っ直ぐ見つめて言う。
「良いも悪いも無い、お前達はお前達の仕事をしっかりやれ、俺は俺の仕事をするだけだ、健闘を祈る」
「そ、そうか…… わかった、君も頑張ってくれ、幸運を祈る」
「運は信じない、お前ら四人は嘘つくからな」
「は、はは……」
「ではコユキ、恐らくもう会えないと思うが…… また」
「またね」
コユキが答えた瞬間、周囲を包んでいた濃霧が搔き消え、タクシーの車体もガミュギュンも消え去っていた。
駅を利用する人々が足早にそれぞれの目的地に急ぐ喧噪の中、コユキの耳には走り去る馬の蹄の音が響き続けるのであった。