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柊トワ
2,825
#サレ妻
都築七美
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.。 .:・.。. .。.:・
「本当にここであってるの?」
「ああ!」
竜馬のハーレーの後ろに乗っていたジャスティンがピョンッと飛び降りて、大きな看板を見上げた
竜馬とジャスティンが来たのはカジノから少し外れた場所にある映画館だった、午後十一時も回ったこの辺りは、さすがに人通りも少なく、映画館も閉まっていた
大きな看板には今上映している人気映画のポスターと、上映スケジュールが貼り出されていた
「ねぇ、閉まってるよ、ジャスティン「ナイター上演」なんかやってないよ?」
竜馬は看板を指さしてジャスティンに言った
「いいから、こっちこいよ」
ジャスティンは竜馬を連れて映画館の正面玄関ではなく、裏口の関係者出口に回った、そこでジャスティンはインターフォンを押した、竜馬は慌てた
「ちょっ・・・ちょっとジャスティン!迷惑だよ!もう十一時になるのに」
竜馬が諫めてもジャスティンは何も言わず鼻歌を歌っている、ほどなく関係者入り口の玄関ポーチの電気が付き、デニムシャツにオーバーオールを着た、頭頂部が剥げた老人が出て来た
「こんばんは、クーパーさん」
「よぉ!!兄弟、入れよ!!」
二人を中に入れたこの老人が、映画館のオーナーだと後でジャスティンが教えてくれた、やがてジャスティンと竜馬は誰もいない劇場のど真ん中の席についた
ワーオ・・・「もしかして、貸し切り?」
驚いた竜馬は、感動して大きな口を開けて、もの珍しくあたりをキョロキョロ見回した・・・
シンとした劇場の観覧席は、キチンと折りたたまれた椅子が軍隊のように整列している、そして日本にいた頃に嗅いだ経験のある、映画館独特の匂いがした・・・
「クーパーさんとは、共通の知り合いがいるんだ」
「こんな時間に、わざわざ僕達だけのために上映って・・・何だか申し訳ない気がするけど・・・」
そう言いながらも竜馬の瞳は、今から楽しいことが起こる期待で、キラキラしている
ハハッ「そんなの気にすんなって、お前、この映画観たいって言ってただろ?」
「うんっ!僕アメリカ来て映画観るの初めて!すっごい嬉しい」
竜馬が真ん中に座って、ワクワクして両手を太ももの裏に挟み、足をばたつかせる
「ああっ!こんなことならなんか食べ物買って来ればよかったね!」
「持って来てくれるんじゃないか?」
ほどなくして劇場店員の女性が、Lサイズのペプシコ―ラ二つと、バケツ型容器に入った、作り立てのポップコーンの乗ったトレー持って来てくれた
「俺、始まる前にトイレ行ってくるわ、お前は?」
「僕はいい」
そう言うとすっかり竜馬は予告のアニメに夢中になった、手は忙しくポップコーンを口に運んでいる
劇場を後にしたジャスティンは、トイレの方には行かず、二階の映写室に行くとクーパーが大きな映写機を回していた、ジャスティンがクーパーの後ろからそっと囁いた
「すいません、ありがとうございます、クーパーさん」
「いいってことよ!兄弟!楽しんでくれや、しかし先日の儀式はよかったな、俺、感動して泣いちまったよ!」
クーパーがイタリア訛りの英語でジャスティンに言った、クーパーの手首の裏には小さな赤い薔薇のタトゥーが入っていた
「コンチネンタル一の色男が入って来たってさぁ、幹部ではもっぱら噂だぜ、ゴッドファーザーはお前がお気に入りみたいだな」
ハハハとクーパーは笑って、歯の隙間に刺しているタバコを吹かした、ジャスティンは暫くクーパーと談笑をして、再び竜馬の隣の席に着いた
.。 .:・.。. .。
竜馬が見たがっていた映画の内容は、難病に侵された小さな少女の物語だった、少女は生まれつき難病で、何度も入退院を繰り返し、辛い治療を続けるにも関わらず、一度も弱音を吐くこともなく、常に周囲を笑わそうと奮闘する物語だった
ジャスティンと竜馬も、難病にも関わらずユーモアたっぷりの主人公の性格にすぐに魅了された、そして彼女を取り巻く看護師や医師まで彼女の明るさで彼らの悩みを救っていくのだった
そしていよいよクライマックス・・・彼女が天国に旅立つ時・・・母や家族、医師や関係者に囲まれて、今までの感謝を一人一人に伝えるシーンの山場が来た
―ジワ・・・あっ・・・ダメだ・・・―
.。 .:・.。.
案の定、竜馬の泣き虫が発動した、なんとか泣かないように、こらえた目をパチパチして必死に涙をひっこめる
―こんなだからジャスティンにバカにされるんだ、絶対に泣かないぞ―
.。 .:・.。.
なにげなく竜馬が隣のジャスティンの様子を見ると、ギョッとして目を見開いた、ジャスティンが顔をくしゃくしゃにしてボロボロ涙を流して泣いていた
誰もいない映画館・・・
流れているのは自分達だけのために上映されている物語・・・
横には無言でハラハラ涙を流して泣く、男らしい大切な親友・・・
「グスッ・・・ヒック・・・」
ジャステインは忙しくこぼれる涙を手の甲で拭いているし、涙がついた手でさらに鼻水も拭いている・・・そしてまたその手で涙を拭くものだから顔中涙と鼻水だらけだ
―えっと・・・―
.。 .:・.。. .。.:・
竜馬は尻のポケットをゴソゴソして、バーで「拝借」してきたグラスを拭く用の布巾を、ジャスティンに「ん!」とばかりにかざした、すかさずジャスティンがサッとそれをひったくって自分の鼻に押し当てた
彼があんまり泣くものだから・・・それから竜馬は彼の右手をそっとジャスティンの胸の前に出した
しばらくジャスティンは「なんだ?」とばかりにじっと竜馬の手のひらを見た、竜馬は「ほらっ」とばかりに指をヒラヒラした
意味がわかったのか、そっとジャスティンは竜馬の手を握ってきたので竜馬はギュッと強く握り返してやった
もし他の誰かがいたら、竜馬はこんなことは絶対しなかっただろう、そこにはいやらしい感情などなにもなかった、ただ子供のように泣くジャスティンに、ささやかな慰めを与えてあげたかった
やがてジャスティンも竜馬の手をギュッと握りかえし、繋いだ手を自分の膝の上に置いた
そして二人はそのまま映画が終わるまで
手を繋いだまま泣いた
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コメント
1件
わあ、もうもう…っ、このエピソード、心がぎゅっとなりました!ジャスティンがまさかあんなにボロボロ泣くとは思わなくて、そのギャップにやられました。そして竜馬がハンカチ代わりの布巾を差し出して、手を握るシーン…。何の衒いもない、ただの優しさで繋いだ手、最高でした!泣きながら手を繋いで映画を見終わる二人の姿が目に浮かんで、私まであったかい気持ちになりました。お二人の距離がまた一歩縮まった大切な時間ですね。