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なんだか、いきなりフィーレがオーパーツを渡したような気がするのは気のせいなのかな?というか、地球の技術で出来るんだ?
「理論で行き詰まっていただけだし、答えをあげただけ。技術の世界じゃ珍しくもない」
「そうなのかー」
いや、それしか言えない。ドクターも固まってるし。
「……なるほど、我々のアプローチは惜しいところまで行っていたのか」
「そうだよ、やっぱり地球の技術力は高い。ティナ姉ぇ、下地も十分にあるし本格的な技術支援をして良いなら地球の技術力を二百年くらいは進められるよ?」
「ちょっと待った!幾らなんでも早すぎる!」
技術革新に地球人の皆さんが置いていかれちゃうよ!
「私も同意見だ。技術協力は歓迎するが、あまりに革新的な技術を貰うと扱いに困る。古今東西、地球人は好奇心が旺盛だからね。アードの技術を悪用する輩が現れても不思議ではないよ」
「その辺りは地球人にお任せするしかないよ。倫理は専門外だし、そこまで面倒見きれないし」
「ふむ、道理だな。技術を教えるがどう使うかまでは責任を取らないか」
「それだと無責任にならない?フィーレ」
「いや、ティナ君。無責任にはならんよ。極端な例えだが、包丁の使い方を教えた相手が殺人を起こしたとして、教えた者の罪にはならんだろう。フィーレ君が革新的な技術を教えてくれたとして、それをどう使うかは我々地球人の責任だ」
「それに、アードの法にも触れないよ☆教えてあげるけど、それをどう使うかは技術を求めた側の責任だしね☆」
うーん。よくあるSF作品だと、原始的な文明に革新的な技術を教えてはならないなんてルールがあるけどアードには存在しない。どんどん教えてあげようって精神だ。
教えた相手がその技術をどう使うか、それは教えられた側の責任だって考え方なんだ。これを無責任と取るか相手の理性が未熟であると取るか。
もちろん提供する際は悪用すればどうなるか説明はするみたいだけどね。現にフィーレも注意する文書を一緒に送っているみたいだし。
「ティナ、ティナ」
「ん?ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていたよ」
フェルに呼ばれて我に返った。考えても仕方ない。ジョンさん達を信じよう。
私の名前は……いや、名前など不要なものだな。ただ神に仕え、神を信奉する一人の信者に過ぎない。別に誰かを勧誘したり信仰を強要したりはしていない。信仰心とは自分自身の内に宿るものであり、それを他者に強要するなどそれこそ神への冒涜だ。私自身が敬虔な信徒であれば良い。それだけだ。
こんな平凡な私だが、最近は日々世界が歪んでいく様に強い恐怖を抱いている。数ヵ月前から世界を惑わせている宇宙人の存在だ。奴らは可憐な少女の身形をしているが、私の信仰心は誤魔化せぬ。奴らは悪魔だ。甘言にて人々を惑わせ、破滅へと導く災悪そのものだ。
クサーイモン=ニフーターなる活動家が垂れ流す胡散臭い陰謀論ではない。私は確信をもって奴らが悪魔であると断言できる。
残念ながらそれを立証する術を持たない。或いは私は狂人として断罪されるかもしれないが、私はこれまで自分の信仰心に従って生きてきた。ならば、今回も信仰心に従うまでだ。
しかし相手は遥か彼方の宇宙からやって来たのだ。当然ながら我々との技術力の差は如何ともし難く、更に翼を持つ奴らは空を飛ぶことが出来る。地球人より優れた種族であることに疑いの余地はない。
嗚呼、神よ。あなたは常に我々に試練をお与えになるのですね。ならば、私は神の尖兵として必ずや試練を乗り越えて見せましょう。
私は悪魔について出来る限りの情報を集めることにした。幸い世界中のメディアが挙って報道しているのだ。情報には事欠かない。嘘を振り撒く無能なメディアもたまには役立つと言うものだ。
数ヵ月の間宇宙人の情報を注視していたが、特に目ぼしいものは見当たらない。どれも我々より遥かに格上であることを示すものばかりだ。今回の試練は中々キツいものがあるな。しかし、信仰心に向き合えばならず神は微笑んでくださる。
そんな日々の中、ある記事に注目すべきものが見つかった。それは、極東の国日本で起きた事故に関する記事だ。トラックを止める際に怪我を負ったとの事だ。写真を見るに、確かに足を怪我していて赤い血が流れている。
ふむ、血の色は同じか。いや、騙されてはならん。やつは悪魔だ。ここで重要なのは、宇宙人と言えど怪我をして血を流すと言う事実だ。すなわち奴も生物であり、生物である以上死から逃れることなど出来ない。私はこの事実を知った時、全身に稲妻が走ったのを確かに感じた。嗚呼、神よ。今こそ悪魔を討てと仰有るのですね。
それから私は密かに準備を進めた。これまでのやり口から、ネットワークを介した行動は全て筒抜けだ。アナログな手法を使うため時間と手間は掛かるが、神の意思を果たすためだ。苦にはならん。それに、周囲に怪しまれては意味がない。私は一月かけてじっくりと準備を整えた。
そして、奴は新たな仲間を従えて再び合衆国へ降り立った。もはや一刻の猶予もない。悪魔の軍団が世界に災いを振り撒くのは時間の問題だ。
……かつてない危険が伴うだろう。私自身の命を失うかもしれない。だが、恐れることはない。世界の平穏を護るためならば、私は喜んでこの身を捧げよう。そして神の身元へ召されるのだ。
霊薬を飲み、祈りを捧げて私は愛車に飛び乗りワシントンD.C.へ向かった。
残念ながら合衆国政府は既に悪魔の手先となっている。いや違うな、騙されているだけだ。警備も厳重だ。悪魔は途中ファッションセンターへ寄ったが、警備は手厚い。焦るな、慎重に時期を待つのだ。
そしてその時は来た。異星人対策室の本部ビルの前にリムジンが用意された。悪魔達が出てくるのだろう。警備はこれまでに比べれば手薄だ。ビルの出入り口から駐車中のリムジンまで僅かに十メートル。だが、これこそが好機だ。
私はアクセルを目一杯踏み込んだ。
警備員達の制止を振り切り、パトカーなどの警備車両の隙間を縫うように走り抜け、今まさにリムジンへ乗り込もうとしている悪魔と目が合った。奴は驚愕している。
「悪魔よ!!!祓われろーーーっっっ!!!!!」
神よ、今あなたの元へ参ります。この上ない幸福感に包まれながら私は衝突する瞬間爆薬のスイッチを押した。
「リバース」
四枚の羽根を持つ悪魔の声が聞こえたような気がした。そして私の意識は闇に包まれたのだ。