~ワールドジャーナル号外より抜粋~
三日前にワシントンD.C.の異星人対策室本部ビル前で発生した爆破テロ事件は、様々な憶測を呼びながらも一応の終息を見た。
この事件は合衆国訪問中のティナさん達を標的としたテロと見られる。幸いティナさん達に怪我はなかったものの、周辺は爆発により一時騒然となった。
偶然にも近くで訓練中だったレスキュー隊がすぐに駆けつけ、更にティナさん達の協力もあり多数の負傷者を出しながらも死者は出なかった。
当局は、今朝開かれた記者会見で実行犯の情報を公表した。爆破テロを行った人物は、ワシントン郊外に住むニール=フラットマン。この男は重度の薬物常習者であり、これまで三回の逮捕歴がある人物である。
公開された当時の調書によると重度の幻覚症状の持ち主であり、今回の事件でもその影響が出たのは明らかだ。彼の自宅からは強い違法薬物が多数押収されている。フラットマン容疑者は自身の車に爆薬をセット、今回の犯行に及んだと見られる。
だが、この試みは失敗に終わる。詳細は不明だが、ティナさん達に向かうように調整されたと思われる爆風は真逆に飛び彼女達は無傷。逆に反対側に位置していた警備車両多数を巻き込む大惨事となってしまった。
当局は残骸の調査から、おそらく爆薬の位置がずれており爆風が分散されたのではないかと推測している。現在フラットマン容疑者の取り調べを継続しており、全容解明に尽力するとの声明を発表した。
さて、ここで現地の救助活動で陣頭指揮を執ったウィリアム=バーグ氏のインタビューを掲載しよう。彼は国際救助隊の隊長を務め、最近では東南アジアで発生した大規模森林火災の現場での活躍が知られている。
「当時我々は近くの訓練所で訓練に励んでいたんだが、大きな爆発音が立て続けに聞こえてね。明らかに何らかの事件だと判断して装備を整えて現場へ急行した。
現場は大混乱に陥っていたよ。幾つもの車が燃え盛り、あちこちに負傷者が倒れていたんだから。直ぐに負傷者の救護とこれ以上の誘爆を防ぐために消火活動に入ったんだが……いやはや、こんな偶然があるのかと自分でも驚いているよ。現場にはティナさん達が居たんだ。
彼女は相変わらず危険を省みずに現場を飛び回り怪我人を少しでも安全な場所へ移そうと頑張っていた。これで三度目だからね、私達も要領を把握するさ。直ぐに現場近くの安全な場所に救護所を設置すると、次々と彼女達は負傷者を連れてきたんだ。
魔法で治癒しないのかって?やるにしても火災現場のど真ん中でやるのは間違いだろう。流れ出たガソリンに引火する危険が付きまとうんだ。怪我人を安全な場所へ連れ出すのが先さ。
後はマンハッタンや東南アジアでの共同作業と一緒だが、唯一違いがあるとすれば……フェルさんだったかな。彼女が一人の男を抑え付けていた。いつも穏和な笑顔の彼女からすれば珍しいくらい鋭い視線だった。
何か訳アリなんだろうと触れないことにしたが、後で聞けばそいつが爆破テロの犯人だったそうじゃないか。友達を殺されかけたんだ。そりゃ怒るよな。むしろ殴らないだけ優しさがある。俺ならボコボコにするね」
私はまだ生きている。悪魔を道連れに自爆したはずが、真っ白な空間に一人立たされている。いや、違う。私は何度目だ?分からない。ただ分かっているのは、私はこれまで見たこともない数多の化け物に食われ、貪られ、潰され、千切られ、腸を喰らわれる。これを何十回と繰り返された。死んでは蘇り、また喰われる。この世の地獄ですら生温い体験を延々と繰り返していた。痛みもあるし、死ぬその瞬間の恐怖を数えるのも嫌になるほど経験した。
これは幻覚なのだろうか。奴らが使う魔法と言うものなのかもしれない。このまま私は狂うまでこの地獄を延々と繰り返すのだろう。これが私に与えられた罰か。信仰心は揺らぎかけている。また化け物が私を見た。おぞましい、全身に無数の目を持つウニとヒトデを足したような化け物だ。今度は押し潰されて食われた。最早声も出ない。疲弊しきった私はただなされるがままだ。もう十分だろう。殺してくれ。そう考えた時。
「私は貴方に対して怒っています。とても、とても怒っています」
それは何処からともなく響く声であった。聞き覚えがある。確か、宇宙人の一人の声だ。
「貴方はティナを傷付けようとした。殺そうとした。絶対に許さない。絶対に許したくない」
当然の報いか。
「でも、ティナは何があっても地球人を傷付けてはいけないと言うんです。彼女のこれまでの努力を、想いを踏みにじるような真似をしたくない。だから、私は我慢します。たくさんの幻覚を見せて貴方を罰しました。でも、現実の貴方は無傷です。私が助けたから。ティナを助けつつ貴方を助けなければいけなかったから」
私のような愚か者に慈悲を与えてくださると!何と慈悲深いのだろうか!
「私は我慢します。ティナのために。私は我慢します、私を受け入れてくれた皆のために。ティナは貴方のような地球人すら救えと言いました。だから貴方も助けます。地球の法で裁かれて、ティナの慈悲に感謝しながら生きてください」
私は本当の信仰を得ることが出来た。私は信じるべき神を、信仰すべき神を、終生仕えるべき神を得たのだ。
「で、どうなのかな?」
「ありゃダメだな、完全にラリってやがる。あんなのを野放しにしたらとんでもないことになっちまう。かといって、このままムショにぶちこんでも妙な宗教を開きそうでなぁ」
「それは困るな、何とかならないか?」
「なるにはなるが、ちょっとした裏の手を使う必要がある」
「政府は事の重大性を正しく認識しているよ。余程の無茶じゃなければ叶えられると思うが」
「それだけじゃダメだ。奴の経歴を絶対にバレないやり方で書き換える必要がある」
「絶対にか。そんなことが出来るのはアリアだけだな。まさか」
「ああ、手を貸して欲しい。野郎を妙な狂信者じゃなくてイカれた薬中として処理する。隔離病棟で一生を終えて貰うしかねぇ。間違っても殉教者なんて事にはさせられねぇからな」
「分かった、アリアには私から依頼してみるよ。彼女もカンカンだ。手を貸してくれるさ」
~警察所長ビルフォード=クーパーと異星人対策室長ジョン=ケラーの会話より~
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!