テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
魚住 煌莉にとって恋愛は画面の向こう側にあるものだった。
「また新しいゲーム買ったの?」
親友の八上 成実にそう聞かれた煌莉は嬉しそうにスマートフォンの画面を見せた。
「うん。ほら見て! 好みのタイプが三人もいたんだもん!」
「……相変わらずね」
「ふふ」
呆れたように笑う成実に煌莉は悪びれることなく笑い返す。
煌莉にとって、恋愛ゲームをすることが生き甲斐であり日常だった。
仕事が終われば家に帰り恋愛ゲームをし、休日も予定の無い日は一日恋愛ゲームをする。
タイプの攻略キャラがいる新作ゲームが出れば内容問わずに迷わず購入する。
煌莉の人生において恋愛ゲームは決して欠かすことの出来ないもので、もはや空気と同じレベルだった。
そんな煌莉は当然、現実の恋愛にまるで興味がない。
小学生になれば周囲の友人たちは、「𓏸𓏸くんが格好良い」「𓏸𓏸くんのことが好きだ」と騒ぎ始めた。
中学生、高校生になれば、恋人が出来る友人も増えていった。
大学に入れば恋愛は更に身近なものになり、
「昨日、彼氏と喧嘩したんだよね……」
「もう別れようかな」
「でも、やっぱり好きなの」
「また浮気された……」
そんな話を煌莉は何度聞いたことだろう。
そのたびに煌莉は思った。
(大変そう)
恋をすれば楽しいこともあるのだろうけれど、それ以上に面倒なことも多い。
好きになればその人のことを四六時中考え、付き合えば喧嘩もするし別れるかもしれない。
浮気とか、信じていた相手に裏切られることだってある。
そんな現実を目の当たりにするたび煌莉は自分の選択が間違っていないことを確信していった。
(恋愛なんて、ゲームで充分! 面倒なんてごめんだわ)
ただ、そんな煌莉でも幼い頃に一度だけ、「好き」という感情を抱いたことがある。
それは幼稚園の頃、いつも隣の席に座っていた男の子。
優しくて少し恥ずかしがり屋で、それでも困っている煌莉を必ず助けてくれた。
幼い煌莉にとってそれが初めて感じた、「特別」だった。
けれど卒園と同時に彼は遠くへ引っ越してしまい、それっきり。
今思えばそれが煌莉唯一の恋だったのかもしれないけれど、本人にその自覚は一切無かった。
そんな煌莉の人生にある日突然、転機が訪れる。
「煌莉お願い! 一緒に行って!」
「……どこに?」
「舞台!」
休日の昼下がり、カフェでお茶をしていた成実から半ば強引に誘われたのは人気漫画を原作とした舞台だった。
「私、こういうの興味ないんだけど……」
「それは分かってるけど、他に誘える人居なくて……大丈夫! 絶対楽しいから! ね?」
「でも……」
「チケット二枚あるの。一緒に行く予定だった子が風邪ひいて来れなくて……無駄になるのももったいないし、お願い!」
押しに弱い煌莉は親友の頼みともあって結局断りきれなかった。
どうせ一度きり、そう思って劇場へ向かった。
席は最前列で、せっかく来たのなら楽しもうと気持ちを切り替えた煌莉。
幕が上がった瞬間、煌莉の世界が一瞬にして変わった。
暗かった舞台上に光が差し込むと、音楽が鳴り響いて観客の視線が一人の青年へと集まった。
長身で整った顔立ちに優しげな笑顔。
そして何より、彼の表情、声、仕草は煌莉が何度も何度もゲームの中で見てきた、「理想の彼」そのものだった。
「……え」
思わず息をすることすら忘れてしまった煌莉に舞台上の彼が微笑んだ瞬間、胸が大きく跳ねた。
その感じを煌莉は知っていた。
恋愛ゲームをしているときに最推しキャラクターが登場した瞬間に感じる高揚感と心を奪われてしまう感覚だと。
しかも、目の前にいるのは二次元のキャラクターではなくて、三次元、生身の人間だ。
「……嘘」
隣に座っている成実が興奮したように小声で囁く。
「ね? すごいでしょ?」
けれど煌莉には返事をする余裕がなかった。
とにかく舞台の上から目を離せない。
彼が台詞を言うたび、笑うたび、動くたび、胸の奥がどんどん熱くなっていく。
#初めて
#イケメン
蒼乃 月
2,280
#ハッピーエンド
瑠璃マリコ
18,170
ひより
1,414
そして、舞台が終演を迎えて大きな拍手が劇場を包んだことで煌莉は我に返る。
観客たちが口々に感想を語りながら席を立つ中、煌莉だけは席を立てなかった。
「……どうしよう成実」
「え?」
「私……」
自分でも信じられないほど頬が熱く、胸が苦しいくらいに高鳴っている煌莉は舞台上で見た彼の笑顔が頭から離れない。
「……リアルの推しが、出来ちゃった」
「え!? マジで? あ、もしかして由多くん?」
「由多くん?」
「壱馬役の人だよ。そういえば今回の由多くん、煌莉の最推しのレオに似てるよね」
煌莉が心を奪われたのは今回の舞台のヒーロー、倉橋 壱馬役の清水 由多。
壱馬役の由多が煌莉の最推しキャラクター白馬 レオにそっくりなことで煌莉は 一目で恋に落ちてしまったのだ。
コメント
1件
読み終えたよ…! 煌莉がゲームの推しにしか興味なかったのに、舞台で由多くんを見た瞬間の高鳴り、すごく伝わってきた。最前列で息忘れるあの感じ、まさに"推しが三次元に降りてきた"瞬間だよね…🥀 これからどうなるのか気になる〜!