テラーノベル
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◇◆◇
声が聞こえる。誰かしら。
何か、大切なことを言っている気がするわ……
「目を覚まして。あなたの──を思い出して」
ああ、肝心な部分が聞こえない。
霧がかかっているようで、風が轟々と吹くように言葉を消してしまう。
私は何を忘れているというの。何を思い出さなくてはならないのかしら。それは、ヴィンセント様のことなのか。それとも、もっと別の何か──
重たい目蓋をあげると、見慣れないベッドの天蓋が視界に映った。それからすぐには状況が理解できず、豪勢なベッドの上に横たわったまま、ぼんやり夢と現を漂っていた。
ベッドはとてもふかふかで、頭がたくさんのクッションに埋もれている。シーツも真っ白でさらさら。仄かに香るのはラベンダーの精油を薄めたものかしら。
とても心地が良いわ。こんなに気持ちのいい寝具で眠るのは、いつぶりかしら。お母様がお元気だったころ以来──心地よさに再び目を閉ざしそうになった私は、ハッとして体を起こした。
「お目覚めですか、ヴェルヘルミーナ様」
「……ダリア。ここは、リリアードのお屋敷……?」
「はい。気を失われましたので、お借りしたお部屋にお連れしました。ご気分はいかがでしょうか」
水を注いだグラスを差し出したダリアは、少し心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫よ。それよりも、気を失うなんて……ヴィンセント様に失礼なことをしてしまったわ」
「馬車の旅での疲れが出たのでしょう。では、お嬢様がお目覚めになったことを、伝えて参ります」
「私も一緒に行くわ。非礼をお詫びしなくては」
「いいえ、お嬢様はお休みください!」
「で、でも……」
ぴしゃりと言うダリアは、私の背とベッドの背もたれの間にクッションを挟むように立て、ベッドから下りないようにと釘を刺した。
「ほら、もう元気だから」
「駄目です!」
「そんな……」
空になったグラスをダリアに渡しながら、どうしても駄目かと目で訴えるも、彼女は頑なに「お休みください」と言った。
そんな押し問答をしていると、部屋のドアが静かにノックされた。
さっさと扉に歩み寄ったダリアが開けると、ヴィンセント様の声が聞こえてきた。
「そろそろ目を覚ます頃かと……あぁ、やはり起きていたか。入って良いかな?」
顔を出したヴィンセント様は、少し申し訳なさそうに微笑んで吐息をついた。
「そのままでいい。今、少し話を──」
「ヴェルヘルミーナ! 気分はいかが?」
入り口で穏やかに話していたヴィンセント様の言葉を遮り、割って入ってきたのはローゼマリア様だった。今にも泣き出しそうな顔で、私の横になるベッドまで小走りで近づいてくる。その後ろで、やれやれと言いたそうな顔のヴィンセント様が「申し訳ない」といいながら、ダリアに促されるようにして入室した。
「ローゼマリア様!?」
「長旅で疲れていたのに、休ませもせず振り回してしまって、ごめんなさい。熱はない? どこか痛いところがあったら遠慮なく言うのですよ」
ローゼマリア様は、少しシワの刻まれた指で、私の頬に触れ、額を撫でるとほっと安堵の息を吐いた。熱がないことを確認したかったのだろう。その柔らかな指が心地よくて、私は微笑みながら頷いた。
「母上……ヴェルヘルミーナと話をしたいのですが」
「何を言っているのですか。今は、ゆっくり休ませなければならないでしょう。そもそも、貴方に頼むと私は言いましたよ。大切な嫁の体調に気づけないなんて、情けない!」
「それは……」
矢継ぎ早に出てくるローゼマリア様の小言に、ヴィンセント様は困ったように口籠った。
大きな体をされていても、母の言葉には逆らえないようだ。その姿はちょっと滑稽というか、大人しい大型犬が尻尾を垂れるような感じで可愛らしい。
よく考えたら、ヴィンセント様にとってローゼマリア様は継母になるのよね。私とあの人との関係と同じようなものなのに……お二人の距離感は私たちとなにかが違う。
ほんの少し、羨ましさが込み上げた。
「ローゼマリア様、私はもう大丈夫です。ヴィンセント様を責めないでください」
「まあ、ヴェルヘルミーナは本当に優しいわ」
「そうではなく……」
倒れる前のことを思い出す。
確かに、私はショックで倒れたのだ。
ヴィンセント様と幼い頃に会っていた。それも幼いながらに好意を寄せていた相手だと知ったのが、よほど衝撃だったのだろう。だって……幼い頃の恋心を打ち明ける前に、貴方を利用したいと、伝えてしまったのだから。
「少し疲れが出ただけです。ヴィンセント様に非はありません。……それよりも、ご相談があります」
「ヴェルヘルミーナ……レドモンド家のことですか?」
ベッド横の椅子に腰を下ろしたローゼマリア様は、私の手をそっと握りしめた。その顔は、私を案じているからか、まだ少し不安そうな表情を浮かべている。
ヴィンセント様には交換条件があると伝えてはいるが、きちんとお話をして、継母を追い出す手立てを一緒に考えてもらわなければ。
「どうか、お力をお貸しください」
ローゼマリア様の手に、片手を重ねた私は、継母がこれまで行ってきたことを全てお話した。
コメント
1件
ううっ…まず冒頭の「肝心な部分が聞こえない」「言葉を消してしまう」っていう霧の中みたいな表現がもうエモすぎる😭💕 それで見覚えのない天蓋…!ってなる展開、ドキドキしっぱなしだったよ! ローゼマリア様の「熱はない?」って触れてくれる優しさと、ヴィンセント様がお母様に叱られて大型犬みたいになってるギャップに「かわいい…!」ってなった(笑) 幼い頃の恋心ひた隠しにしてるヴェルヘルミーナの心情が切なすぎて胸がぎゅーってなったよ…!💦 続きめっちゃ気になるから頑張ってください!!待ってるよ⋆♡
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