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継母がレドモンド家へやってきてから数々の仕打ちをうけたこと、あまりに浪費癖が酷いことを打ち明けると、ローゼマリア様は私の手を強く握って「辛かったですね」と微笑んでくださった。
「初めてのお茶会で、不躾なお願いとは存じます。……ですが、私にはもう他に頼れるところもなく」
握られた手のぬくもりに、胸が苦しくなっていく。
もしも、この一件がなければご迷惑をかけずに、ただ婚姻を結べたのかもしれない。私なんかよりも、もっと気が楽な令嬢だっているだろう。
「レドモンド家はいろいろと問題を抱えています。それでご迷惑をおかけすることもあると思いますが……」
「大した問題ではありませんよ、ヴェルヘルミーナ。よく打ち明けてくれました」
すっかり委縮していた私は、ローゼマリア様の明るい声に驚いて顔を上げた。そこには穏やかに微笑まれる顔があり「言いましたでしょ。貴女の力になりたいと」と、優しく語りかけてくださった。
「こんなに可愛いヴェルヘルミーナを苛めるなんて、許せませんわね。どう懲らしめましょうか」
「亡きレドモンド卿も、さぞ心残りだろう。心配せずとも、ロックハートが力になろう」
ヴィンセント様も、当然のように頷いてくださった。
お二人の温かさに救われたような気がして、堪えていた涙がほろほろと落ちていった。
指先で涙を拭っていると、ヴィンセント様がそっとハンカチを差し出してくださる。その紳士然とした動きにまた涙が込み上げてきた。
そうして感極まっていると、ローゼマリア様は唐突な提案をされた。
「せっかくですし、二人で婚前旅行に行ってらっしゃい」
「……え、婚前、旅行?」
「婚礼は一か月後に行いましょう。その前に、アーリックへ報告に行ってらっしゃい」
「で、ですが……こうしている間にも、継母はレドモンド家の財産を」
「心配ありませんよ。それに、協力者が一人でも多いに越したことはないですからね」
困惑する私をよそに、ローゼマリア様は「そうと決まったら旅支度をしなければなりませんね」と言いながら立ち上がった。
上機嫌な様子でベッドを離れると、若いメイドたちを呼び集め始める。
何やら指示を出しているローゼマリア様の姿を呆然と見る私は、断ることもできずにおろおろするしかなかった。
旅行だなんて、そんな気分にはなれないのに。
脳裏に浮かぶのは、勝ち誇ったように高笑いをする継母の姿と、困り果てるレドモンドの屋敷で働く使用人の姿だ。
「心配することはない」
「……ヴィンセント様。そうはいいましても」
「アーリックはレドモンドの魔法繊維を気に入っている」
ベッドの端の腰を下ろしたヴィンセント様は、突然そう言ってきた。
アーリック族が、うちの魔法繊維を気に入っているなんて、初めて聞いたわ。
「そのレドモンドの令嬢と私が婚礼を上げると知れば、大歓迎するだろう。きっと、力になってくれる。それに、ウィンズロー商会に代わる取引先の一つにはどうだ?」
ウィンズローの名が出て、どきっとした。
本当に、ロックハート家はレドモンド家の内情をどこまで把握しているのだろうか。
「……つまり、それは……アーリックとの商談が出来る、ということですか?」
「あくまで、結婚の報告をしに行くだけだが、そこから商談になっても、誰も咎めはしないだろう。ヴェルヘルミーナ、君が思っているより、レドモンドの魔法繊維を求めている商会は多いぞ」
今すぐウィンズロー商会と手を切るのは得策ではない。でも、継母が散財する分を補う手段と考えたら、申し分ないわ。
「まあ、魔法繊維がなくても、アーリックは君を歓迎すると思うが。なにより、私の妻になる女性だ。……母上から聞いただろう。私の実母の話を」
考え込む私に優しく話しかけれくれるヴィンセント様に、ハッとした。
アーリック族は彼の実母であるクレア夫人の故郷だから、ご報告に行かなければならないということね。
「……分かりました」
「うん。ヴェルヘルミーナは、物分かりがいい子だ」
そう言ったヴィンセント様は朗らかな笑みを浮かべ、私の頭をそっと撫でた。
何だか、これって子どもを褒める大人みたいだわ。
ヴィンセント様は、私を子ども扱いされているのかしら。もしかしたら彼の中で私は、幼かった頃のままなのかもしれない。
こうしてヴィンセント様と婚前旅行に向かうことになったのだけど、私は少しだけ、胸の奥にもやもやとしたものを抱いていた。
コメント
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「辛かったですね」ってたった一言で、ヴェルヘルミーナの涙がほろほろ零れる場面、すごく胸にきました。ローゼマリア様の明るい感じとヴィンセント様の落ち着いた支え方の対比も好きです。婚前旅行に話が飛んだときの戸惑いも共感できるし、でもそこにアーリック族との繋がりや商談の可能性が伏線として仕込まれていて、さすがの構成だなと。ただ、あの「物分かりがいい子」って言われたときの、彼女のもやもやも気になりますね。次が楽しみです。