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時は遡る事、肆年前。

出雲國から尾張を目指して旅をする一人の女が居ました。彼女は出雲國の戦国大名である『塩氏只久』から命を受け、尾張の将軍である『徳川孝育』の元に太古から伝わる名刀 『太刀 鑢』を献上する仕事を与えられました。

『太刀 鑢』。先程述べた通り、太古から伝わる名刀であり、その刀で切れない物は無いとも言われている刀でございます。

何故、彼女は『太刀 鑢』を献上する仕事を与えられたのでしょうか。その理由は、彼女の持つ異能───── 能力にありました。


彼女はある裕福な家庭で生まれ、大きな都の中心部に建つ城で育ち、何一つ不自由の無い、安定した生活をしていました。

しかしある日を境に、それらは全て崩れ落ち、地位も名誉も全てを失う事になりました。

『太刀 鑢』を持ち、家族や家来を全て殺し回る男『空木 銘』が現れたのです。

城内に不審な輩が侵入したと報告があり、彼女の父や家来たちが刀を手に取り、彼と戦おうとしました。

勿論、『太刀 鑢』を装備した『空木 銘』に適う訳が無く。父は心臓を一突きされ、家来達は急所のみを確実に、効率的に狙われ、殺されていました。

その後『空木 銘』は彼女と彼女の母、姉、弟、妹の居る場所へ辿り着きました。

驚くべき事に、『空木 銘』の体に傷は一つも無く、返り血すら浴びていませんでした。

彼女はすぐに物陰に隠れ、逃げ遅れた家族全員殺されるのを目の前で見ていたのです。

母は首を刎ねられ、姉は妹と弟を庇おうとして胴を真っ二つに、その斬撃で妹も弟も死にました。

そして『空木 銘』は全員の死を確認した後、颯爽とどこかへ逃げていきました。

それから数秒後、彼女は物陰から出てきて戸を開けました。外を確認した彼女の目に入り込んだのは────── そこら中で物凄い勢いで燃える家、都全体が火に包まれていると言う状況でした。


都が火の海になったあの日から、彼女は『空木 銘』と『太刀 鑢』を探すべく、全国を歩き回りました。

その理由は、仇討ちをする為─────── ではありませんでした。

なんと彼女は、『空木 銘』を恨んでいる訳では無く、その逆、『空木 銘』に惚れていたのです。

彼女は何一つ不自由の無い生活をしていた為、暇を持て余していました。刺激的な何かが起きて欲しいといつも想像していた程に。

そして『空木 銘』が襲来した日。目の前で殺される家族を見て普通なら悲しむ筈が、彼女は───── 『空木 銘』と『太刀 鑢』に見蕩れていたのです。


退屈な日々を終わらせてくれた男、『空木 銘』を探す為に旅に出ていた彼女は、周防から出雲國へと向かっている途中、ある力を手に入れたのです。

『全知』の異能。全てを理解し、全てを凌駕する力。この力を手に入れた彼女は一瞬にして理解しました。

『空木 銘』の居場所、そして『太刀 鑢』の在処を。

出雲國へと到着した時、彼女に素晴らしい情報が届いたのです。なんと、尾張の将軍『徳川孝育』が『太刀 鑢』の献上する為の人間(異能持ち)を探していると、出雲國の戦国大名『塩氏只久』が言っていたのです。

彼女は届いたその日に『塩氏只久』の元へ行き、改めて命を受けました。

そして出発する3日前、彼女は二度目の理解をしました。『空木 銘』が死に、その息子『空木 明花』が『太刀 鑢』を所持しているという事を。

彼女の目的は『空木 銘』との再会でしたが、『空木 銘』は死んでいる。

彼女は酷く落ち込み─────── ませんでした。

それどころか、逆にやる気になっていました。

『空木 銘』が居ないなら、その息子『空木 明花』を『空木 銘』を超える最強の男に育て上げ、退屈の日々を終わらせようと考えていました。



そして、出雲國を出発し彼女は『空木 明花』に会い、彼を育てると同時に『太刀 鑢』を献上する為、再び旅に出たのです。



「鑢」やすり

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初めましての方は初めまして、天ヶ瀬です。

「贋造物語(にせものがたり)」を読んで頂き、誠にありがとうございます。

実は最初の頃、『読み切り』と言う形で投稿する 予定だったのですが、物語を考えている内にどんどん大きくなって行き、1話程度で終わらないと思ったので『連載』にして投稿しました。

深夜テンションって本当に凄いですよね。次から次へとアイデアが浮かんできます。



追記 : タイトルと内容がどこかの小説に似てると言われますが────── インスパイアと言うやつです。

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