子供がお腹の中にいることを知らせた時、彼はとても驚いたような表情を向けた。
けれどそれと同時に苦虫を噛み潰したような表情に変わっていったとき、私はやっと彼の感情が理解できた気がした。
助産師さんも驚くほどの色を持った子供が生まれてきた時、私は何を口にすればよかったのだろうか。
人間から生まれるはずのない色素である「青色」を持った子供を腕に抱えた時、私は素直に喜べばよかっただろうか。
正直分からなかった。
何をしても、どんな行動をしても周りの人間から発せられる言葉が私の胸を強く痛めてしまう。
チクチクと棘のあるそれは私に人間本来の姿を見せてくれた。
彼も同じように。
腕の中で小さく丸まる子を、優しく抱きしめた。
暖かくも優しい匂いのする我が子に愛情を抱かない母親など、そんなもの母親失格だ。
私は彼を育てる際に決して破らない掟を作った。
「きゃははっ」
おもちゃを持ちながらきゃっきゃと笑う我が子を見ていると、自分が片手に握ったパンを口に運べなくなる。
もっと見ていたいけれど、彼とはお別れの時が来てしまった。
床で遊ぶ小さな彼を、優しく、優しく抱いてやる。
「ん〜?」
一番大きな頭を捻らせると、それについていくように動く彼の体。
こんな小さな生き物を放っておくなど、私は…
『ごめんなさい』
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「ここで合ってる…よな?」
片手に握った紙には地図が記載されていた。
雑なのに加え大雑把なそれは酷く、読み取られるものではなかった。
確かに事務所とは聞いていたけど…
廃ビルのような場所を頼る人間はいるのだろうか。
中へと足を踏み入れると酷い有り様だった。
今にも壊れそうな階段や壁、明かりを灯さなくなった蛍光灯。
そこら中を走るゴキブリなどもいるここに本当に彼らがいるとは思えない。
「すいませ〜ん…、誰かいませんか〜…?w」
異様な雰囲気に怖さよりも笑いが込み上げてくるほどだ。
それを察知したかのように上から物音がする。
場所、マジで合ってた…?w
誰かが居てくれたことへの安心感よりも、その人物たちがここに住んでいることへの不信感や恐怖の念が募るのは決して自分だけではないはずだろう。
一番上の階、端にある扉の向こう…
紙に書いてある文字を心のかなで復唱する。
ガチャ__
「お邪魔しま〜…」
ドンッ!!
コメント
2件
なんか、場面がぴょーんなってるのにスムーズに読める! 物語って展開が淡々とした方が 個人的に読みやすいと思うんです よね☺️
マッマ!?マッマ?!ちゃんと愛してあげてる!!!!偉い!!!!() ドンッて何やドンッて???不安なるなぁ....