テラーノベル
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#自探索者
ゆむ。
98
#腐向け注意!
テリー・オスト
130
207
(後編)
第5話最後です
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「変身。」
ピアスに手をかざせば青い光が身をつつみいつもの…いや、少し仕様の違う衣装に変わる
フルフェイスでも魔法少女でもなく、顔を隠すように伸ばした前髪はスッキリと前が見える長さになりずっと隠していた火傷跡が他者に視認できるようになったことを自覚した
自身の直線上にいる兄と睨み合い刀を向ける
一番最初に動いたのは、梶原綱正だった
苑良達4人に向かって切り裂くような風が巻き起こる
苑良、トール、脊古は避けることができたが泉見は間に合わず直撃してしまう
以前対峙した時よりも格段に強く、冷や汗が背中を伝った
綱正は脊古を執拗に狙い続ける
そちらへ横槍を入れに行こうとするが槐による攻撃でそれは叶わない
記憶にあるよりも速く強い斬撃が襲いかかる
「がはッ……、?!!」
「これだけでへばってくれるなよ苑良!!!」
剣を振り下ろし叫ぶ兄
─受けてやろうじゃねぇか
「……っ、!!」
腹を、肩を、兄の持つ剣が切りつける
意識が途切れた
目の前が真っ暗で浮遊感に手足を動かす
─死んだか
そう理解するも、納得はしなかった
愛する兄を止めるために、愛する妹を救うために
初めて”生命を燃やす”感覚を味わった
ダンッ!!と足を踏み出し、崩れ落ちかけた体をふらりと起こす
血は出ているしボロボロの体は痛くて仕方がない
一気に開ける視界
降り注ぐ光と暖かい草原
トールが険しい顔でこちらの様子を伺っていた
恐らく脊古も泉見も、倒れたのだろう。
耐久戦は望めない。
そんなことを悠長にできるような相手ではなかった
後ろでトールが銃を掲げる
挟み込むように位置していたラルヴァの亜種を狙っているようだ
トールがちらりとこちらを見て頷く
“兄弟喧嘩”
さっき苑良が宣言した言葉を理解してなのか、槐1人に集中しろ、と言われた気がした
─あんたが強くなったみたいに、俺も強くなったんだよ
成長を披露するような、子供が見て見て!と家族へ言うような感覚に愛剣を強く握りしめ今出せるだけの霊紋と霊力を込める
“コンセントレイト”
“スパークザッパー”
“エレメントウェイレイ”
“呪物使用”
喉がひりついて何も声は出ない
ただ頭の中で、いつもよりも強く祈るように唱える
それでも目の前の兄からは目を離さず、兄を止めるために、伊沙奈を救う為だけに切りつけた
「ぐ”ッ……、?!!」
槐は目を見開き突き刺さるフランベルジュを睨む
苑良はさらにその剣を抉るように突き立てた
「ぁ”あ”ッ、!!」
生身の人間を切りつける感覚はもう慣れた
堕ちたカミガカリと戦うことは稀だがなかった訳では無いから
でも、それが兄となるとやはり違うようで
霊紋と精神力が大きく削られる
歯を食いしばって、薄ら滲む視界を無視してフランベルジュを引き抜いた
槐はまだ立っている
今までで1番霊紋を効率的に使い能力をフル活用した攻撃を受けてなお、兄は釈然と立っている
けれど分かっていた
兄はカミガカリであって神ではない。
これまでの経験を通して今の攻撃が決して笑って済ませられるダメージではないと
それでも立ち続けているのは、それだけもう1つの目的をなんとしてでも達するという強い意志なのだろう
─お互い頑固で意地っ張りなのも、変わってねぇんだなぁ
一度倒れた体はもう霊紋など使う余裕もなくて
それでも苑良は槐と同じように、”兄を止め妹を救う”という強い意志の元まだ立っていた
脊古が苦々しい顔をしながらずっと大事に使っているらしいモップを強く握っている
負担をかけている、というのはずっと思っていた
防御が役割だとしても何度も何度も倒れさせていたから
泉見が宝玉に手をかざし全体回復をかけてくれる
そういえば前に回復量が云々と成長を語っていたが、俺にはよく分からない話だったなぁなんてぼんやりと思う
こんな余所事を考えられるくらいには、苑良はこの状況に適応してきていた
再び綱正の猛攻と槐による剣技が降り注ぐ
回復された体であっても精神力の消耗が激しかったせいか足が上手く動かない
綱正が自身目掛け斧を振りかざしているのには気づいていた
それでも苑良は兄の姿から決して目を逸らさなかった
再び訪れる暗闇
ぼんやりとしていると後ろから声が聞こえた
『苑良、剣を振り下ろす時は背を伸ばせ。肘は余計な力は抜いて……そうだ、出来てるじゃないか』
『えへへ…いつも兄ちゃんがけーこしてくれたらいいのに。せんせーたちはむずかしいことしか言わねぇからわかんねぇもん…』
まだ兄が家にいて、稽古をつけてもらっていた時の記憶だった
『苑良は理論を説明されるよりも見たりやってみたり、こうやって手ずから指導する方が理解力がいいことに気づいていないんだろう。お前はよくやっているよ。』
優しく笑って、まだ短かった髪を梳くように撫で付ける
あの大きくて暖かい手が大好きだった
─……兄ちゃん、俺、あの頃に戻りたいよ、
その言葉が音として形をなしていたかは分からなかった
意識がふわりと上昇する
今度こそ倒れていたらしい体を剣を軸に無理やり起こした
脊古が焦った様子でアムリタを握りしめていて、泉見と自分が倒れたことに気がつく
早く終わらせなければ、そう思っても足が動かせない
衣装は既に腕や足、腹も背中もあちこちが切り裂かれボロボロだったのだから当然であったかもしれない
後方からガガガッ!!と銃声が聞こえる
流星のように降り注ぐ弾丸は槐に直撃し、やはり先程のもので限界だったのであろう槐は刀を付いて崩れ落ちた
変身を解き、剣を収めて槐の方へ歩を進める
槐もふらつく体を無理やり起こして、苑良の元へ足を動かした
じっと、お互いを見つめる
こんなにしっかりと顔を見れたのは、あの日以来だろうか
好青年だった兄は、冷徹と言えそうな精悍な顔立ちで大きな刀傷が痛々しかった
─顔に傷があるのはお揃いか
そんな馬鹿なことを考えていたら、槐が小さく口を開いた
「…強く、なったな…やはり、お前は俺を超えたか、」
優しく笑った
ずっと忘れられなかった、大好きだった微笑み
技を覚える度、兄が成長を認めてくれる時の笑顔だった
あれだけ泣いたのに、また視界が滲む
「この神剣は、当主である苑良、お前にこそふさわしい。……これで俺にトドメを刺すんだ」
心臓を握りつぶされたように痛みが胸に広がる
分かった
分かってしまった
槐の、兄の本当の目的は
─協会から俺たちを守るために、俺にケジメをつけさせるつもりなんだ
あぁ、どこまで兄は優しいのだろう
自分の命をすり減らして
地位も何もかもを捨てて
それでも尚俺たちの幸せを願ってくれる
─でも、でもさ?
幸せを願ってるのは、兄ちゃんだけじゃないんだよ。
苑良は他の仲間がいることも、野槌神がいることも全部無視して大好きなその大きな体へ抱きついた
最近ようやく顔が見れて、でも触れることは叶わなかった大好きな体温
5年ぶりに感じるずっと探していた兄の匂いをめいいっぱい吸い込む
抱きしめてわかったのは兄の命がもう長くは無いこと
鼓動は弱まり、抱きつかれた体は支えきれずに後ろへと倒れ込んでいく
─こんなになるまで無理して、こんな無茶をして…
不器用な愛が嬉しくて、でも頼られない不甲斐なさがあって、頼って貰えなかった事実が悲しくてその肩に顔を埋めるようにして鼻をすする
「…俺には、にいちゃん殺すなんて出来ないよ、俺、甘ったれだからさぁ…兄ちゃんいないと寂しいんだ、空いちゃった5年、一緒に…少しだけでもいいから一緒にいたいんだ、!
伊沙奈、ご飯美味しく作れるようになったんだよ?
最近は好きなやつが出来たとか言って幸せそうに笑っててさ、俺も…今いる仲間ができたし、まだ兄ちゃんに教えて欲しいことだって沢山あってさ、
……ッあの時はさぁ、嫌いって言っちゃったけどさぁ、!
ずっと大好きだったんだよ、!
この5年、ずっと忘れれなくて嫌いになれなかったんだよ、!…俺、難しいことなんもわかんないし苦手だけどさ……、兄ちゃんと伊沙奈の為なら、なんだって頑張るから、協会の事も何でも全部全部俺が何とかするから、!
俺が2人を守るからさ…
だからさ…、最期くらいそばにいさせて、?
ねぇ、…一緒に帰ろっ、?」
情けないほどぐしゃぐしゃに濡らした顔で、縋り付くように兄の顔を見上げる
こちらを見つめる兄は、困ったような、でも嬉しそうな顔でつり上がっていた眉を少し下げ優しく笑った
「…そうか、」
そのまま頭を優しく撫でられ、昔のような「仕方ないな、苑良」というように大好きな暖かい手に安心してしまってつられて笑った
─あぁ、やっぱり、大好きだ
やっとあの頃のように抱きしめて笑えて、また兄の胸に顔を埋めて心が軽くなるような涙を流した
─第5話『神を断つ刀』閉幕
コメント
1件
兄弟喧嘩って言い張った苑良が、最後は「♡♡♡ない」って泣きながら抱きつくところ、めちゃくちゃ刺さった…。槐の「強くなったな」の笑顔も、自分たちを守るための覚悟も全部分かった上での選択なのがいい。戦闘も熱かったけど、5年ぶりの体温に縋るシーンでボロボロ泣いた。続き気になる…!