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食堂 ― トントン
「……とんちのご飯、久しぶりやな」
「そりゃ作ってなかったしな」
トントンは湯気立つスープをよそいながら、静かに言った。
「大先生の記録、消されたあの日、俺も……どっちか分からんくなってた」
「それでも俺があんたにスプーンを渡せるのはな、今ここで、もう一度“味方”だと思ってるからや」
無言で受け取る。
温かいスープは、やけに沁みた。
⸻
そして――彼の目の前に立ったのは、ゾム。
「なあ、大先生」
「なんや?」
「…殴ってくれてええで」
「……え?」
「俺、ほんまは、ずっと心のどっかで“あいつ裏切ってたらどうしよ”ってビビってた。
だから、疑って、逃げて、信じるフリして……かっこ悪かった。殴れ」
「……」
「それに、こうでもせんと、俺自分許せん」
しばらく沈黙が続いたあと――
鬱先生はゆっくりと、拳を振り上げて――
ぐしゃ。
殴る代わりに、その拳をゾムの胸に押しつけた。
「一発な。……もうええわ」
ゾムはぎゅっと目をつむったまま、笑ってた。
……
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