テラーノベル
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仕事終わりの打ち上げ。居酒屋の個室は、メンバーたちの笑い声と酒の匂いで満ちていた。
その中心で、目黒は完全に「出来上がって」いた。
「しょっぴー、これ美味しいよぉ…食べて?」
「わかったから、近いよ目黒! 重いって!」
渡辺の肩に頭を預け、とろんとした瞳で笑いかける目黒。普段のクールな佇まいはどこへやら、酔うと距離感がバグるのが彼の癖だ。次は隣に座っていた向井の腕にすり寄り、耳元で何かを囁いて笑わせている。
その様子を、数席離れた場所から阿部は眺めていた。
手元のグラスを回す指先はいつも通り穏やかだが、その瞳の奥には、静かで冷たい火が灯っている。
「……阿部ちゃん、顔怖いよ。グラス割りそう」
隣に座る深澤が苦笑いしながら囁くが、阿部は「え、そう? 楽しいよ」と、完璧なアイドルスマイルで返した。その笑顔こそが、一番の危険信号であることをメンバーたちは知っている。
結局、一次会で解散となり、阿部は「目黒、相当酔ってるから俺が送っていくよ」と、自然な動作で目黒を回収した。タクシーに押し込まれた目黒は、まだ事の重大さに気づかず、阿部の肩に頬を寄せて「阿部ちゃぁん…」と甘えた声を漏らしている。
ホテルの部屋に入り、カードキーを差し込んだ瞬間。
ガチャン、という電子音と共に、部屋の空気が一変した。
「……あ、阿部ちゃん?」
ベッドに放り出されるように座らされ、目黒の酔いが一気に引いていく。
阿部はジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを緩めながら目黒の前に立った。逆光で顔が見えない。
「目黒。楽しそうだったね」
低く、温度のない声。
「康二とあんなに密着して、何話してたの? 翔太にも、随分可愛くおねだりしてたじゃない」
「いや、あれは…みんなでお酒飲んでて、楽しくなっちゃって…」
「ふーん。俺以外の誰にでも、あんな顔見せるんだ」
阿部が一歩踏み出し、目黒の両脇に手をついて顔を近づける。
逃げ場を塞がれた目黒は、阿部の瞳に宿る、剥き出しの独占欲に射すくめられた。
「……嫉妬、してるの?」
目黒が恐る恐る尋ねると、阿部は自嘲気味に口角を上げた。
「してるよ。狂いそうなほど。……他の男に触られた場所に、上書きしなきゃ気が済まないくらいにはね」
阿部の長い指が、先ほど向井が触れた目黒の腕を、少し痛いくらいの強さで掴む。
「っ…あべ、ちゃん…」
「今日、俺がどんな気持ちで見てたか、分からせてあげる」
熱いキスが、拒絶を許さない速度で降ってきた。
お酒の甘い香りと、阿部の清潔な香水の匂いが混ざり合う。
目黒のシャツのボタンが、震える手ではなく、確信犯的な動きで一つずつ外されていく。
「明日、他のメンバーと目が合わせられなくなっても……自業自得だから」
耳元で囁かれた低音に、目黒の背筋に甘い震えが走る。
先ほどまでの賑やかな宴会が遠い過去のことのように思えるほど、この部屋の空気は阿部の熱に支配されていた。
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