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「パンケーキ5枚重ね、生クリームトリプルで。……あと、ガムシロップを10個いただけますか?」
「メガネ君は、……意地悪ですね」
桜野 唯花 さくらの ゆいか
烏野高校 1年生
学校↷
«高嶺の花»
放課後↷
«大の甘党»
月島 蛍 つきしま けい
烏野高校 1年生
原作通り~!
メガネ君の甘い放課後_ Start。
烏野高校の放課後。
2年の桜野唯花(さくらの ゆいか)は、今日も「高嶺の花」として廊下を静かに歩いていた。
昼休み、クラスメイトに「お昼これだけ?」と心配されるほど、彼女のお弁当は小さな果物とサラダのみ。
「少食で儚い、お豆腐メンタルの美少女」――それが周囲の評価だった。
(……ああ、早く補給しないと。脳内の糖分が枯渇してしまうわ)
校門を出た瞬間、彼女のおっとりした足取りが、獲物を狙う野獣のように速くなる。
向かった先は、駅前のパンケーキ専門店。
「パンケーキ5枚重ね、生クリームトリプルで。……あと、ガムシロップを10個いただけますか?」
「……えっ、10個ですか?」と店員が聞き返すが、唯花は至って真面目だ。
運ばれてきた真っ白なクリームの山に、彼女は躊躇なくシロップの海をぶっかけ、さらにスティックシュガーを雪のように降らせた。
「……ふふ。これこそが、私の生命維持装置ね」
幸せそうに一口目を運んだ、その時。
「……うわ。何その、糖尿病のサラブレッドみたいな食べ物」
隣のボックス席から、氷点下の声が降ってきた。
振り返ると、そこにはヘッドホンを首にかけ、メロンソーダを頼んでいる月島君が、死ぬほど嫌そうな顔でこちらを凝視していた。
「……あ。……月島、くん」
「……桜野さん。クラスでは『少食すぎて心配』なんて言われてるのに。……ここで致死量の砂糖を摂取してるとか、ホラーだね」
「……違うの、月島くん。これは、その……明日のテスト勉強のための、脳のガソリン、というか……」
「ガソリンにしてはハイオクすぎるでしょ。……それ、一口食べるだけで寿命縮みそう」
月島はメガネの奥の瞳を細め、唯花の皿に並ぶ「砂糖の山」を、まるで未確認生物を見るような目で見つめた。
「……月島くん。……言いふらさないで。……私、クラスでの『イメージ』が崩れたら、もう生きていけない」
唯花は生クリームがついたフォークを握りしめたまま、おっとりと、でも必死に月島を睨んだ。
「……言いふらさない代わりに、……僕が飽きるまで、その『偽りの少食』を観察させてもらうよ」
「…………っ。……メガネ君は、……意地悪ですね」
唯花は顔を真っ赤にして、逃げるようにパンケーキを口に詰め込んだ。
完璧な美少女の、甘すぎる秘密。
それを握った毒舌メガネ君との、甘くて苦い放課後が始まる。
放課後のカフェ。
月島(つきしま)くんは、目の前の光景に今日何度目かの溜息をついた。
「……ねえ。正気? それ、4〜5人前はあるよね」
「……あら。月島くん。脳が極限状態の時は、これくらいが『適量』なのよ」
唯花(ゆいか)の前に鎮座しているのは、純白の生クリームに覆われた5号サイズのホールケーキ。
周囲の客が「誕生日パーティーかな?」と微笑ましく見守る中、彼女は一人で、慣れた手つきでロウソクを抜き(※イベント用ではないのに勝手についてきた)、シロップをドバドバと回しかけた。
「……信じられない。クラスでは『イチゴ1個でお腹いっぱい』みたいなツラしてるくせに。……それ、胃袋じゃなくてブラックホールでしょ」
月島くんはヘッドホンを首にかけ、自分の注文した「カットされた」上品なショートケーキを端に寄せた。
「……ふふ。月島くん。……外では『少食』を演じないと、お嬢様としての品位が保てないの。……でも、あなたの前では、……もう隠す必要がないもの」
唯花はおっとりと微笑み、ホールケーキの真ん中にある一番大きな苺をフォークで刺した。
そして、それを月島くんの小ぶりな皿の上に、ポスン、と置いた。
「……はい。……月島くん、苺、好きでしょ? ……これ、共犯者の『口止め料』よ」
「っ、……別に好きじゃないし。……勝手に決めつけるなよ」
月島くんはツンと顔を背けたけれど、その視線は自分の皿の上に増えた「巨大な苺」をじっと見つめている。
彼は好きなものを最後に取っておくタイプ。……案の定、自分の小さな苺はまだ手付かずのままだ。
「……月島くん。……苺が二つになって、……なんだか嬉しそうね。……メガネが少し、ズレているわよ」
「……うるさい。……生クリームの食べ過ぎで幻覚見てるんじゃないの」
月島くんは顔をほんのり赤くして、メガネを指でクイッと押し上げた。
彼は毒を吐きながらも、唯花が差し出した苺を、最後に大切そうに口に運んだ。
「……ふーん。……まあ、酸味が効いてて悪くないかな。……君の脂ぎったケーキよりはマシだよ」
「……ふふ。……月島くん、……本当は甘いもの、大好きでしょ?」
「……君と一緒にしないで。……僕は、君の『観察』に来てるだけだから」
完璧な美少女の、ホールケーキ1気食いの秘密。
~15分後⁓
「……ふぅ。ごちそうさま。やっぱりホールの生クリームは、飲み物ね」
唯花(ゆいか)は、空になった5号サイズのケーキ皿を満足げに眺め、ナプキンで上品に口元を拭った。
向かい席の月島(つきしま)くんは、自分の小さなショートケーキ(苺2個完食済み)を片手に、もはや言葉を失って固まっている。
「……飲み物って。……君、その細い体のどこに、今、小麦粉と砂糖の塊を詰め込んだわけ?」
「……胃袋は宇宙、という言葉があるわ。……さて、月島くん。お口直し、しましょうか」
唯花はそう言うと、おっとりと右手を上げ、迷うことなく店員を呼び止めた。
「……すみません。『特製マウンテン・ベリーパフェ』を一つ。……あ、ガムシロップは別添えで5個お願いします」
「…………は?」
月島くんの口から、素っ頓狂な声が漏れた。
運ばれてきたのは、グラスの高さだけで30センチはある、ソフトクリームとフルーツが凶器のように盛り付けられた巨大パフェ。
「……間食。……ケーキだけじゃ、少し物足りなかったから」
「……間食の概念、知ってる? ……普通、ケーキ1ホール食べた後にパフェ追加するのは『暴食』って言うんだよ。……君、本当に明日から学校来れるの? 腹痛で欠席とか、僕、山口に説明したくないんだけど」
月島くんはメガネの奥の瞳を最大限に点にして、唯花がパフェの頂上にシロップをドバドバとかける様を見つめた。
「……大丈夫よ。月島くん。……だって、このパフェは『果物』だから。……サラダと同じ、ヘルシーな部類だわ」
「……その論理、……バカすぎて逆に感心する。……脳に糖分回りすぎて、思考回路ショートしてない?」
月島くんは呆れ果てて、自分のヘッドホンを耳に当てようとした。
けれど、唯花がパフェのスプーンを差し出し、「……月島くん。……これ、すごく甘くて美味しいわよ。……あーん、して」と無防備に微笑むと、彼の指がピタリと止まった。
「っ、……誰がするか!! ……バカじゃないの!!」
顔を真っ赤にして、勢いよくのけぞる月島くん。
周囲の客が「仲のいいカップルね」と微笑ましく見守る中、月島くんだけが、完璧な美少女の「底知れない胃袋」と「無自覚な攻撃力」に、初めて生命の危機を感じていた。
「……月島くん。……耳、赤いですよ? ……冷たいパフェ、一口食べれば治るかしら」
「……うるさい。……さっさと食べろ、この……砂糖の怪物」
毒を吐きながらも、月島くんは席を立たなかった。
完璧な美少女の、パフェまで飲み込む秘密。
それを握らされたメガネ君の放課後は、昨日よりもさらに甘く、そして胃もたれしそうなほど濃密になっていく。
コメント
1件
ゆいかちゃんのお腹が心配になってきたわたしも結構甘党なんだけど、笑
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