テラーノベル
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歌詞なんて書いたことはない。
書けるわけがない。
それでも俺が依頼を受けたのは、
これも、律さんが穂高さんに向けた手紙だと感じたからだ。
律さんの母親から許可をもらい、借りてきたノートパソコンでデータを再生する。
『Reply.mp3』は曲のみで、カラオケ音源のような演奏のみの音源。
『Replyデモ.mp3』は、律さんの鼻歌のようなメロディ入りだった。
とはいえ、音楽知識のない俺によくわからない。
要は、このデモの鼻歌に歌詞をあてはめればいいのだろうか。
「…降り注いだ不協和音 世界から色が消える…。」
…うん、なんとか当てはまる。
とはいえ、普段の手紙と違い、音・リズムに合わせないといけないとなると言葉が限られる。
パソコンの中に入っていた、律さんのオリジナル曲や律さんが好きだったという歌手の曲をかけながら、
俺は穂高さんに教えてもらった律さんのSNSを見ていった。
フライヤーなどでは顔を隠してはいなかったが、SNSでは顔出しをしていないようだった。
ライブを撮影した動画でも、ギターが中心となっていて、顔は映っていない。
そして、SNSにも病気の事は一切書かれていなかった。
友達と遊んだ。
学校のテスト結果が良かった。
遡っても、そんな普通の高校生のSNSしか見当たらない。
大学に入ってからは音楽活動を活発にしていたからか、音楽関係の投稿ばかり。
歌詞のヒントになりそうなものが、ほとんどなかった。
何曲か聞いていて、気になったことがある。
律さんのオリジナル曲だ。
世間一般で聞くような、明るい歌が全くなかった。
悲しみにあふれた別れの歌や、夢に破れた人の歌。
片思いに悩む歌や、静かに溶けていくような雪のバラード。
SNSで見える律さんの印象とは、まったく違う。
けれど、こっちが本質だと感じた。
穂高さんの言っていた通りだ。
透き通るような繊細な律さんの歌声は、どこか訴えかけるような熱を感じる。
カラオケで上手く歌おうとしているような歌声とは違う。
どこか逼迫しているような、聞いていて苦しみに釣られそうになる。
そんな中、未完成の『Reply』の歌詞は、どこか希望がある。
その希望はきっと、穂高さんなのだろう。
メモ帳の後半に箇条書きにされた言葉。
・見つけてくれた
・私の光
・希望
・メッセージ
・心から贈りたい
・いつかくるその時まで
どれも、穂高さんにあてた言葉だと、そう思った。
そして、最後の『いつかくるその時まで』。
ひょっとして、死を覚悟した言葉なのではないだろうか。
だから最後に、
“穂高さんの耳に残る歌を送りたかった。あの時、彼女が私を見つけてくれたように…。”
俺は自分のスマホで作詞の仕方をネットで調べながら、ノートに言葉を綴っていった。
作業に集中していて、気づけば部屋は夕日に赤く照らされていた。
ふと、律さんの歌声が流れる部屋で、無機質な着信音が響く。
ディスプレイには坂城龍と表示されていて、俺は首をひねりながら通話ボタンを押した。
「はい、河目です。」
『あっ、桜太郎さん!俺です!坂城です!』
「こんばんは。…何かあった?」
『そ、れが……。』
電話の向こうから、言いづらそうな雰囲気が伝わる。
何かあったにしても、俺に連絡が来るだろうか?
手紙の事?
まさか依頼の紹介…なんてことは…、ない、よな…。
頭の中でぐるぐると予想しながら、坂城くんの言葉を待つ・
『実はさっき…。和織の父ちゃんと偶然会って、聞かれちゃったんです…。』
「…え、…な、何を…?」
『…和織が、…学校にも行かないで、誰かと何かしてるらしいけど、知ってるか?って…。』
その言葉に、背筋が凍ったような感覚がした。
坂城くんは、どこまで知っているのだろう。
いや、それより…。
「このこと、和織には…?」
『ま、まだです!先に桜太郎さんに連絡しちゃいました…。』
「…そうか。ありがとう。」
『「知りません」って言ったんすけど、ちょっと…、…不自然だったかも。
和織、家でなんかあったんですか…?』
どこまで知っていて、どこまで説明していいのか、憚られる。
けど、坂城くんは多分、和織の理解者になってくれるだろう。
「…ごめん、今はまだ言えない。
けど、近いうち説明するから、……協力してほしい。」
ここに本人はいないのに、頭を下げる。
そもそも、 ”俺が遺書を頼まれてる関係です”だなんて言えるわけがない。
けど、それも説明しなければ協力は得られないだろう。
頭の中でリストが追加される。
『遺書(?)の作成→和織の過去→和織の母親の事故死調査→和織の母親について→坂城くんからも話を聞く』
本来なら、遺書なのだから本人に直接聞いて作るのが筋だろう。
ただ、なんとなく。
本人の話だけでは駄目な気がした。
『…わかりました。よくわかんないけど、手伝えることは手伝いますよ!』
「…ありがとう。」
『和織には言います?父ちゃんのこと…。』
わざわざ息子の友達に探りを入れてくるくらいだ。
本人との会話はあまりないのだろう。
和織に伝えてしまうと、”自分のやっていることを父親が止めようとしている”と思うかもしれない。
実際そうだとは思うが、それによって、あいつの精神状態は悪くなってしまわないだろうか?
「いや…、俺は言わない方がいいと思う…。坂城くんはどう思う?」
『そっすね…。言うと和織、家出とかするんじゃ…。』
容易に想像できる。
ファミレスだのネカフェだの、あいつなら気にせず寝泊まりするだろう。
…補導されかねないが。
『ま、そうなったら桜太郎さん家に泊めてもらうとか!』
「勘弁してくれ…。」
俺はスマホを耳にあてながらげんなりとする。
そりゃ補導されたり事件に巻き込まれるよりはマシだが。
よくよく考えてみれば、まだ和織とは知り合って短い。
坂城くんとの電話を切って、スリープしたノートパソコンを見つめる。
そこに映ったのは、毎日飽き飽きと見てる冴えない自分の姿。
自分の息子がこんな髭のおっさんといれば、普通不審がるよな…。
ボサボサの髪に指を通して、洗面台に向かった。
「…え!?ど、っど…、どうしたの…!??」
翌日、昼の12時。
お弁当片手に訪問した和織は目をまん丸に見開いて、口をぽかんと開けた。
予想以上に驚かれて、俺は思わず肌触りが良くなった顎を撫でる。
それもそのはず、今日は髭剃りをして、髪も久しぶりにワックスでセットをした。
整った顔ではないが、だいぶマシになっただろう。
「おじさんが…、おじさんじゃない…っ!」
「そもそも俺はまだ32歳なんだが…。っていうかとっとと入れ。」
玄関前で固まった和織に部屋へ入るよう促し、お弁当を受け取る。
今日は途中まで書いた歌詞の確認をしてもらおうと、連絡をしておいた。
机の上にお弁当をセットして、冷蔵庫から飲み物を用意する。
「…いつまで見てんだお前は。」
「だってー!」
「ちょっと身なり整えただけだろ。」
「まさか、彼女でも出来たの…!?」
「んなわけあるか。…今度出版社に持ち込み行くから準備してただけだよ。」
さらりと本当っぽい嘘をつく。
実際、出版社への持ち込みは考えていたから嘘ではない。
けど、こうやって容易く嘘をつける自分に、大人になったなとどこか寂しさを感じた。
急に俯いた和織の方を見れば、何やら考え込んでいる様子でぶつぶつと呟いていた。
「和織…?」
「…あ、ううん。…どこの出版社いくの?」
「とりあえずクローバー社…あたり。」
「……ふぅん。」
なんだ?
自分の家の出版社じゃないからか…?
勿論、スカイデザート出版社は魅力的だが大手過ぎるし、持ち込みも募集していない。
あるのは年2回のコンテストだけで、この前落選したところだ。
「いただきます。」と声を合わせてご飯を食べる。
同じテーブルでご飯を食べたのは何度目だろう。
まだそんなに多くはない。
それなのに、やけに落ち着く空気だった。
「作詞、難しい?」
「そりゃ、やったことないからな…。」
「バンドやってる知り合いでもいたら良かったね。」
「……あ。」
ある話を思い出して、牛丼を食べていた手が止まる。
いや、でも…。
脳内でシミュレーションをする。
…うん、うまくできる気がしない。
「なに?なんかあった?」
「いや、…バイト先の人がバンドマンだったな、と…。」
「え!いいじゃん!!話聞こうよ!!」
ズイっと乗り気になった和織とは対照的に、俺の気持ちは落ちる。
そりゃ友人とかなら気軽に聞けるが、年下の先輩だぞ?
しかも挨拶と仕事の話しかしたことはない。
バンドやってるというのも一番最初の自己紹介で言ってたのを覚えていただけだ。
それ以降、俺が興味ないのを察してか、音楽の話すらしていない。
「…挨拶くらいしかしてない関係の奴が、いきなり話せると思うか?」
「え?別に話せるでしょ?『作詞とかってしてますー?』って。」
俺とこいつを一緒に考えちゃ駄目だ。
そうだよ、こいつは初対面でもグイグイ話せる、パーソナルスペースクラッシャーだった。
俺が目を細めて肯定とは思えない表情を浮かべていれば、目の前の少年は「ふむ。」と顎に手を添えて、
「大人って大変だよね。」と抜かした。
違う、そうじゃない。
言ってもわからないだろうから、俺は返事代わりにため息をついて食事を再開した。
お前は多分、大人になっても誰とでも話せるだろう。
人のパーソナルスペースなんて見もしないで、ズカズカと入り込んで…。
…俺みたいな、コミュニケーションが下手な奴とでもうまくやっていくんだろう。
自分とは全く違う人間。
そんな和織の未来を思い浮かべたが、遺書を頼んでくるような子には到底言えなかった。
「…聞けたら聞くよ。」 ほぼ無理であろうことを示唆する言い回しで伝えた。
それが伝わったのか伝わらなかったのか、何かを思いついたように、和織は明るく言い放った。
「僕が聞きに行けばいいじゃん。」
「………は?」
どうやって…?
辻褄あわせるのが面倒だろう。
いきなり作詞の事なんて聞けるわけがない。
関係性、バンドの話、作詞の話。
そう簡単に繋げられないだろう。
俺の言わんとしてることがわかったのか、和織は人差し指を立てる。
「まず僕がおじさんの弟としよう。」
「その前提に無理があるんだよなぁ…!」
「いいから!そんで、兄からバンドしてるって話を聞いて、
実は僕も音楽に興味があって、オリジナル曲を作りたいと考えているから話を聞きたいって訳。」
「…でもその人、コピーバンドかもしれないぞ。」
「1回くらいは曲つくろうと考えたことあるんじゃない?」
そんなもんだろうか。
俺にはよくわからないが、そもそも和織も音楽は詳しくないのでは…?
「音楽の話、出来るのか?」
「最近の曲ぐらいは、動画で見たり聞いたりしてるけど。」
「……そんなんで大丈夫か…?」
「なんとかなるって!」
一体その自信はどこから来るんだろうか。
毎度のことながら突拍子もない提案。
俺は麦茶を口に含んで、文句ごと飲み込むこんだ。
#極道
鷹槻れん

7,349
#普通
野々さくら
552
世羅 鈴🎨🎤
436,358
芙月みひろ
743
コメント
1件
みぅです🤍🥀 今回もじっくり読ませてもらいました…。 律さんの歌声の描写がすごく繊細で、特に「苦しみに釣られそうになる」っていう表現が胸に刺さりました。桜太郎さんが真剣に向き合ってるのが伝わってきて、じんわりします。 あと和織くんの「おじさんがおじさんじゃない!」には思わず笑顔に。パーソナルスペースクラッシャーって表現、確かに!って納得しちゃいました笑 電話のシーンからの父親の話、背筋が冷える感じがすごく伝わってきて続きが気になります…大人が嘘をつくことに慣れてしまう寂しさの描写も、グッと来ました。 次話も楽しみにしてます📖♡