赤いカーペットの上を歩くたび、
ぎし……ぎし……と床が不気味に鳴った。
「なんやねんこの通路……絶対まともちゃうやろ。」
両側には、古い鏡がずらっと並んでる。
けど、そのどれも――
俺の姿が映ってない。
「怖っ……え、鏡って本来映るもんやんな!?
俺透明になったとかちゃうよな!?」
鏡の前で必死に手を振ってみても、
反応ゼロ。
鏡はただの暗い板みたいに沈んでいた。
そのとき。
カランッ……。
奥のほうで金属が落ちたような音がした。
「……ちょ、待て。
絶対なんかおるやろ。」
緊張で心臓バクバクさせながら進む。
すると急に、
通路の奥がぱっと明るくなった。
「お、おい……勝手に電気つくなや……!ビビるやん!!」
光の先には、小さな舞台があった。
そこだけサーカスみたいに丸く照らされてる。
そして、舞台の上に――
白い仮面の道化師が立っていた。
ピエロみたいな衣装。
けれど、顔の仮面には“笑顔”が描かれてるのに、
ぜんっぜん笑ってない。
なんなら、
こっちをじっと睨んでるようにも見える。
「な、なんやねんお前……!
え、見世物ちゃうやんな!?
人形!? 本物どっち!?」
至近距離で見るのは怖すぎる。
その道化師が、ゆっくりと指を動かした。
指先が、俺の握っている紙――
“最初の謎”のメモを指している。
「……これのことか?」
震える声で聞くと、静かに頷いた。
無言で首が上下に動いた瞬間、
めちゃくちゃ怖かった。
「しゃ、喋れへんのやな……
いや喋っても怖いけど!!」
道化師は胸元からカードを取り出し、
俺に向けて放り投げる。
ひらひらと回りながら落ちてきたカードを拾うと、
そこには黒い文字が。
《嘘①:道化師は“鏡に映る”》
「……嘘って、そういうこと?
え、ここ鏡だらけやけど……
――あ。」
たっつんは気づいた。
道化師は、
四方を囲む鏡に一度も映ってない。
「やっぱり映らんやん!
いやいやいや!!
俺怖いの苦手やって!!!」
叫んだ瞬間――
道化師の仮面の口元が、
ぐにゃり、と笑った。
いや、“笑った”というか、
笑っている絵が勝手に歪んだ。
「やめて怖いって!!」
道化師は続けて二枚目のカードを取り出す。
また投げてきた。
《嘘②:道化師は“人間だ”》
「……お前人間ちゃうんかい!!
てかそれ分かってたけど!!
言い切られると余計怖いわ!!」
たっつんが後ずさると、
道化師は足を一切動かしてないのに、
“距離だけが勝手に縮んでくる”。
「おい!!近づくな!!
歩いてへんのに距離縮むのおかしいやろ!!」
仮面が至近距離に迫る。
冷たい空気が肌に触れた。
そして三枚目のカードが投げられる。
《嘘③:道化師は“君を傷つけない”》
「ちょっと待てやぁぁぁぁぁぁ!!
それ一番言うたらアカンやつやろ!!
絶対ヤバいやつやん!!!」
たっつんは全力で後ろを向き――走り出す!
しかし通路がいつの間にか歪んでいて、
さっき来た道と違う方向へ曲がっている。
「嘘やろ!?出口どこいったん!?
こっちから来たやんな!?
なんで壁になってんねん!!!」
背後では、
道化師の足音がゆっくり響く。
コツ……コツ……。
「歩けるんかい!!!!」
振り返ると、
道化師は仮面を傾けてこちらを見ていた。
まるで――
“追いかけっこを楽しんでいる”
みたいに。
「うわ無理無理無理無理無理!!
絶対捕まりたくない!!!」
走り抜けた先には、
突然、青い幕が現れた。
「もう知らん!!突っ込む!!」
たっつんは勢いで幕をかき分け――
次の瞬間。
――世界ががらりと変わった。
そこはサーカスのテントではなかった。
黄金色の砂と、無数の綱。
空中ブランコがゆっくり揺れている。
「……え、ここ……
空中ブランコの劇場?」
まるで誰かが、
次の“舞台”へたっつんを案内したみたいだった。
でも。
背後から、
コツ……コツ……
同じ足音が近づいてくる。
「……マジかいな。
あいつ、まだ追ってきてんの?」
たっつんは息を呑んだ。
サーカスの迷宮は、まだ始まったばかたや。






