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「海、綺麗だったなー。やっぱ来てよかった。」
夕暮れの海沿いの駐車場。
オレンジ色の光が車の窓から差し込み、滉斗の頬をやわらかく照らしている。
ハンドルを握っていた滉斗は、ふうっと深く息を吐きながら助手席の元貴に目をやった。
「……帰り、運転代わるよ。疲れただろ?」
「ん、ありがと。」
元貴はいつものように無表情に近い顔で、それでもどこか楽しげに、ゆっくりとシートベルトを締め直した。
そして、滉斗はすぐに気づく。
元貴の運転は、無駄がなくてスムーズで、それでいてどこか“色気”がある。
信号のたびに、ブレーキのタイミング、ウィンカーの音、さりげなくハンドルに添える指先……
どれも静かで滑らかで、見惚れるほど美しかった。
「元貴って……運転、上手すぎない?」
「そう?ゲーム感覚で、リズムとってるだけ。」
「いやいや、普通それであの車庫入れはできないでしょ……」
そう。
家の近くにある駐車スペースは、狭くて、やや傾斜がある難所。
そこに、元貴は何の苦もなくスルリと車を滑り込ませていった。
そしてその瞬間だった。
ギアをバックに入れる音。
右腕を助手席のシートの背に回し、後ろを振り向く元貴。
その動きに合わせて、元貴の身体が滉斗のすぐそばに近づいてくる。
ほんの数十センチ。
首筋からふわりと漂う香水の香り。
肩が触れそうな距離。
窓から差し込む残照が、横顔を優しく照らしていた。
「……っ」
滉斗は息を飲んだ。
元貴の目線は真剣で、バックミラー越しに後方を確認しているだけなのに、なぜかそれがやたらと色っぽく感じた。
思わず自分の方が息を潜めてしまう。
(だめだ、こんなの……ドキッとするに決まってる)
慎重に車庫入れを終えると、元貴はブレーキを踏み、ギアをパーキングに戻した。
「……ふぅ」
小さく息をつくと、シートベルトに手を伸ばし、パチンと外す。
そして、ドアに手をかけた時——
「元貴」
掴んだのは、彼の腕。
「……?」
戸惑う元貴の視線を感じながら、そのままぐいっと強引に引き寄せた。
「わっ」
予想以上に近づいた身体。
そして、滉斗の唇が、元貴のそれを塞ぐ。
最初は、勢いだった。
けれど、触れ合った瞬間、その柔らかさに、舌先が自然と欲してしまう。
唇を何度も重ね、息継ぎを忘れるほどに深く、ゆっくりと吸い付くように、舌を差し入れた。
元貴は一瞬驚いたように息を呑んだが、やがて滉斗の首に腕を回し、応えるように舌を絡めてくる。
くちゅ、と静かな車内に微かな水音が響く。
お互いの呼吸が熱を帯びていき、服の擦れる音さえ煽るように感じる。
「……ん、っ……」
「……元貴、もっと……」
囁くように名前を呼びながら、滉斗は手を背中に滑らせる。
シャツ越しに伝わるぬくもり。
そして、離れがたい唇。
長く、深く、甘く、
2人は何度も何度もキスを重ねた。
「……さっきのバック、ずるいって……」
「なにが?」
「近すぎ。かっこよすぎ。……やばい、無理。」
「ははっ、そんな理由?」
「……もう一回、キスしていい?」
「……俺からする。」
言い終わるより早く、今度は元貴が唇を奪ってきた。
静かな夜の車内、ドアを開けることも忘れたまま、2人の時間はさらに深く溶けていった——。
END