「……うわ、傘、忘れた。」
滉斗が呆れたように笑う。
駐車場までのわずかな距離。
建物の軒先で立ち止まったまま、元貴は空を見上げていた。
雷を伴う豪雨。
滝のように降る雨は、まるで怒ったように世界を叩きつけていた。
「走るしかないね」
「だな。……行くよ、元貴」
滉斗の手が元貴の手を取る。
2人は濡れるのも構わず、声も出せないほどの豪雨の中を一気に駆け抜けた。
車に滑り込んだときには、すでに服の下までぐっしょりと濡れていた。
「っ……うわ、寒……」
元貴が髪を手でかき上げると、雫が滴り落ちる。
首筋をつたう水の動きに、滉斗の視線が奪われる。
「なに、変な目で見てんの……」
「だって、元貴……濡れてんの、エロすぎる」
「っ……は?」
笑って顔を背けた元貴の頬も、少し紅く染まっている。
元貴はすぐにエンジンをかけた。
まっすぐ、街灯も少ない郊外の方へ。
人気のない場所へ向かう途中、車内に流れるのは雨の音と2人の静かな鼓動だけだった。
やがて、滝のような雨に包まれた空き地に車を停めた。
外からは視界も効かず、まるで世界から2人きりになったような密室。
「……元貴」
呼ばれた瞬間、唇が重なる。
水分を含んだままの髪が、首筋を撫でる。
服の隙間から濡れた肌が触れ合うと、そこに走る電流のような刺激に、お互いの呼吸が早まっていく。
「後ろ、行こ……」
「……無理。待てない。ここで」
滉斗は助手席から身を乗り出し、元貴のいる運転席へ。
シートをMAXまで倒す。
濡れた服が肌に貼りつきながらも、もどかしさを感じさせることなく、次々と剥がされていく。
「元貴、跨がっていい?」
「……して。……全部、来て」
その言葉に、滉斗はほんの少し躊躇い、でもすぐに覆い被さるように元貴を抱いた。
「ん……っ、は……っ」
「動くよ……元貴、しがみついて」
シートが大きく軋み、
滉斗の腰が動き出した瞬間——
「っ……あ、滉……!」
車体が、ギシィッ、と音を立てて大きく揺れた。
雨音の中に混ざる車のきしみ、息遣い、唇が触れ合う音。
狭い密室で、すべての音が絡み合い、甘く濃く響き渡っていく。
「元貴、深いとこ……全部感じて……?」
「うん……来て……」
滉斗がリズムを速めるたび、元貴の身体はわずかに跳ね、シートが激しく揺れた。
「元貴、奥まで……ちゃんと感じてる?」
「っ……うん……感じすぎて……もう、やばい……っ」
唇を吸われ、舌を絡められ、喉の奥で小さな喘ぎが何度も漏れる。
体温の高まりに合わせるように、車体が激しく軋んで揺れる。
「滉斗……、あ……っ、そこ、だめっ……!」
「ここ、好きでしょ……?」
「っーーああっ……!」
次の瞬間――
パァンッ!!
突然、車内にクラクションの音が響いた。
2人は、ピクッと同時に動きを止める。
「……え、今、なったよね?」
「なった。……やば」
焦りと、恥ずかしさと、妙な興奮が一気にこみ上げる。
元貴は唇を噛んでうつむいたまま、肩を震わせた。
「……っ、滉斗のせいだし……!」
「いや、元貴があんな声出すから……!」
「っ、バカ……! 早く、続きを……」
息が乱れたまま、再び滉斗の肩を抱き寄せる元貴。
その手が、震えながら滉斗の背に爪を立てる。
「……もう一回なったら、ほんと恥ずかしいからね……?」
「じゃあ……なっても気にしないくらい、気持ちよくしてやるよ」
その言葉通り、滉斗はさらに深く腰を押し上げた。
シートが大きく跳ね、車体がまた揺れた瞬間――
パァンッ! パァンッ!!
また鳴った。
それでも、もう止まらなかった。
「っああ……っ、やば、これ……ほんとに……っ」
「元貴、イきそう?」
「はぁ……っ、あ……滉斗、やば……イきそう……っ」
「……一緒に、イこう」
押し寄せる波に溺れるように、2人の動きが最高潮へと達する。
クラクションが鳴っていることすら、もうどうでもよくなっていた。
「滉斗っ……っあああ……っ!」
「元貴……っ、すき、っ……!」
全身が痙攣し、呼吸が途切れ、名前を叫びながら絶頂を迎える。
揺れる車内、濡れた肌、絡み合う指先。
すべてが、甘く、激しく、熱く、一つになった瞬間だった。
しばらくのあいだ、2人とも何も言葉を発せず、ただ重なり合ったまま、肩で息をしていた。
「……今、何回クラクション鳴ったかな」
「……3回は確実に。ていうか、もう鳴るたびに感じてたでしょ」
「ちが……っ、言うな、バカ……っ」
それでも、笑いながら唇を重ねる2人の表情は、どこまでも幸せそうで。
外では、まだ雨が降り続いていた。
けれど車内の熱は、もう誰にも止められなかった。
END
コメント
2件
声大きすぎてクラクションなっちゃう元貴さんの声量さすがですね(( 雨で伝う水ってえっですよね、すごく良きです。良きすぎます!!