テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
手術室の前。 赤いランプが、ずっと点いている。
時間の感覚は、とっくに壊れていた。
神楽は一度も座らない。 新八は何度も立っては歩き、歩いては止まる。
土方はただ無言で煙草を吸っている、沖田は壁にもたれたまま目を閉じている。
誰も、軽口を叩かない。
――そのとき。
中から、慌ただしい声が漏れた。
機械音が、不規則に乱れる。
ピッ、ピッ、ピ――――……
長い、嫌な音。
神楽の背中が、びくりと震える。
「……今の、何アル」
答えられる者はいない。
ドアがわずかに開き、看護師が走り出てくる。
青ざめた顔。
「心停止です。今は処置を行っていますが、覚悟はしておいた方がよろしいかと…」
世界が、止まる。
新八の耳鳴りがひどい。
何も聞こえない。
神楽の瞳から、光が消える。
「……うそ、アル」
足が、崩れる。
心停止。
その言葉が、何度も反響する。
守ると言った。
三人で守ると。
次は隣に立つと。
なのに。
間に合わなかった?
「……」
声にならない。
新八は壁を殴る。
「ふざけるな……!」
涙が勝手に落ちる。
「やっと……やっと守れたと思ったのに……!」
土方が目を伏せる。喧嘩ばかりだったけどそれなりに思ってはいたのだ。
沖田は明日の方向を見て泣いている。姉の代わりのような、兄のような存在だったからだろうか。
手術室の中で、怒号が飛ぶ。医者はまだ諦めてなかった。
「除細動用意!」「もう一度!」
静電気のような音。
ドン。
しばらくの無音。
ピ……
全員が顔をあげる。
ピッ。
ピッ、ピッ。
波形が、戻る。
かすかに。
だが、確かに。
看護師が、もう一度飛び出してくる。
「心拍、再開しました!」
神楽の体から、力が抜ける。
その場に崩れ落ちる。
新八は声も出ないまま、涙だけが溢れる。
まだ終わっていない。
でも。
繋がった。
それからどれだけ経ったのか。
赤いランプが、ようやく消える。
医者が出てくる。
「手術は成功しました」
その一言で、廊下の空気が崩れる。
「ただ――」
全員が固まる。
「一時的な低酸素状態が長く続きました。後遺症が残る可能性があります」
神楽が、唇を噛む。
「……生きてるアルか」
「ええ。命は助かりました」
数日後。
病室。
銀時が、ゆっくり目を開ける。
「……」
視線が、少し遅れて動く。
「ぎんさ……」
新八の声が震える。
銀時の口が、ゆっくり開く。
「……うる、せ……え…」
少し、ぎこちない。
言葉が、途切れ途切れだ。
腕を動かそうとして、わずかに震える。
神楽の目に、涙が溜まる。
「銀ちゃん……!」
ベッドにしがみつく。
「…な…泣く、な……」
かすれた声。
「俺、い……生きて、んだ…だろ……」
ぎこちない笑み。
それだけで、十分だった。
新八は泣きながら笑う。
「はい……!生きてます!生きてますよ!!」
神楽は顔をぐしゃぐしゃにして叫ぶ。
「もう無理するなアル!!」
銀時は、ゆっくり瞬きをする。
「…お…覚え、えてる……」
途切れ途切れでも。
「三人、で…だ…だろ……」
その言葉に、二人は声をあげて泣いた。
完璧じゃない。
以前みたいに軽やかでもない。
言葉はどこか話ずらそうで。
動きも、まだ不安定。
それでも。
帰ってきた。
坂田銀時が。
万事屋の大将が。
廊下の外で、土方が小さく息を吐く。
「しぶてぇな、あいつも」
沖田が笑う。
「簡単にくたばるタマじゃねェでしょう」
病室の中。
三人の手が、重なる。
今度こそ。
失わなかった。
完全じゃなくていい。
強くなくてもいい。
生きている。
それだけで、奇跡だった。