辺りはもう暗くなっていた。大人が居なくなってから今日で約2週間。「ここに残された君達子供は、明日保護します。繰り返します。ここに残された君達子供は………」と、町内放送がうるさいくらいに毎晩流れてくる。それに、前までの放送は女の人の声だったのに、今は気味の悪い、ねっとりした独特な男の声だ。僕達はそれに恐怖感を覚え、まるで、抵抗しても無駄だと言い聞かされているみたいだった。
この街には僕一人しかいないと思い込み、海辺で泣いていたあの時、腕にタトゥーのはいった、タンクトップのイカついお兄さんが僕を家族に入れてくれた。この家族には、4人の可愛らしい女の子と、僕と歳の近そうな男の子、そしてあのイカついお兄さんがいた。どの子もあのイカついお兄さんに助けられたようで、皆お兄さんに懐いていた。猫のぬいぐるみを抱く子はメイ、丸眼鏡の子はチャミ、ヤンチャで元気な子はアイビィー、人見知りっぽい子はステラ。唯一僕と歳が近い男の子はヴィン、イカついお兄さんは、ビルジア。僕は、ルタと名乗った。家族に入れられてからは、皆を危険にさらさない為に、食料収集係のリルジアが戻ってくるまでヴィンと、メイ達の面倒をみることになった。ビルジアが今日コンビニから盗ってきた食料は、鯖缶が袋1杯分と2Lの水、ピーナッツ菓子だった。皆は僕よりも、情報が把握出来ているようで僕に沢山の事を教えてくれた。僕達を捕まえる外部監査が居る事や、そいつらが動く時間、捕まえられると捕虜車に乗せられ、連れて行かれる事。でも、誰も、連れていかれる場所や、外部監査が僕達を捕まえる理由を知らなかった。しばらく経って、僕とヴィンは、ビルジアの許可を得て、食料収集係になった。食料収集係は皆の生命を左右する大事な役割だからだ。2人は暗くて狭い道を通り、ビルジアがいつも行くコンビニに入った。コンビニは、見渡しが良く、誰かに見られる可能性が高かった。ヴィンは、ガサガサいわしながら、パンをポケットに突っ込んでいった。僕は、警戒しながらもメイ達が好きなチョコレート菓子に手を伸ばした。ヴィンが何か言っている。「逃げろ」確かにヴィンが向こうでこう言った。僕は裏口にすぐさま向かい、外に出たが、唖然とした。僕は男達に囲まれていた。上裸の男が僕の身体を大きな腕で締めつけた。必死に逃げようとするが、その太い腕は僕を逃がしてはくれない。男は、弱った僕の身体を抱き上げ、車に僕を乗せた。車の中で僕の意識は元に戻ったが、手と足には鎖が着けられていた。僕達が恐れていた捕虜車に僕は今乗せられている。どこに連れていかれ、何をされるのかが分からない恐怖に、僕は身体を小さくして、怯える事しか出来なかった。車が止まり、さっきの男が鎖を僕の手足から外して、逃げようとする僕を抱き上げた。「この子が新しいモルモットですか。」白衣の男が僕の顔を見て言った。白衣の男が持つ紙には、「9月14日 モルモット2匹」と書かれていた。モルモットが2匹、そのワードで、僕は全てを悟った。「僕達子供の身体で、実験をする、その為に僕達子供を捕まえるのだ」
モルモット2匹とは、僕とヴィンの事だろう。「他に仲間はいるのですか?」
白衣の男の、この質問には、僕もヴィンも答えなかったらしく、2人は同じ部屋に入れられた。ヴィンは、捕まえられた時に怪我をしたのか、まだ疲れていて眠ってしまっていた。部屋の中にはベッド、机、椅子、毛布の山しか無かったが、部屋はとても広く、床はフワフワだった。僕とヴィンは2人寄り添い眠りに落ちた。