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不破湊は、薄暗い部屋の中で小さく膝を抱えていた。
昨夜、天界から追われるように戻ってきた。
もう居場所はどこにもないのだと悟った時、胸の奥に残ったのは底知れない虚無と、涙でぐちゃぐちゃになった顔だった。
けれど、甲斐田晴は真っ先に駆け寄って、子供みたいに泣きながら不破湊の羽に触れて「大丈夫、大丈夫だよ」って繰り返してくれた。
三枝明那は、不破湊を割れ物を扱うように、優しく抱きしめた。
剣持刀也は、何も言わずにただ視線を落とし、震える肩を押さえるように背中に手を添えた。
加賀美ハヤトは、冷静に見える顔で「不破さんの場所は、もうここにある」と言ってくれた。
その全てが温かくて、優しい。
なのに、どこか違う。どこかおかしい。
不破湊は胸の奥で小さなざわめきを覚えていた。
不破湊「……ありがとう。みんながいてくれて、本当に……」
声を震わせながらそう告げると、甲斐田晴が
甲斐田晴「不破さん、もう一人になんてしない。絶対に」と低く呟いた。
その声には、以前のような柔らかさだけじゃなく、何か強すぎる熱が宿っていた。
剣持刀也も言葉を続ける。
剣持刀也「僕らはもう、ふわっちを離さない。何があっても、絶対に」
三枝明那は両手で不破湊の手を掴んで離さず、
三枝明那「ねえ、ふわっち……俺と、ずっと一緒にいてくれるよね?」
と縋るように聞いてきた。
その目は泣き腫らして赤くなっていて、ただの友達のものじゃない。
加賀美ハヤトは微笑みながらも、瞳の奥に冷たい光を宿していた。
加賀美ハヤト「天使だろうが、天使じゃなかろうが関係ない。不破さんは私たちのものでしょう?」
その言葉に、不破湊の心臓が大きく跳ねた。
───僕達、私達のもの。
胸の奥で、ぞわりと不安が広がる。けれど、それを打ち消すように彼らの手が自分を撫で、温もりで包み込む。
不破湊「……うん。ここに、いる……」
気づけば、そう答えていた。
拒む理由なんてどこにもなかった。だって天界はもう、自分を追い出した。
不破湊に残されたのは、この4人だけ。
その夜。
不破湊は布団に横になっていたが、目を閉じても眠れなかった。
隣には甲斐田晴が座り込んで、じっと見守っている。
甲斐田晴「眠れない?」
低く囁かれて、不破湊は小さく頷く。
甲斐田晴「大丈夫。僕がいるから。……不破さんの全部、守るから」
その言葉は優しい。けれど、耳元に落ちてくる声は、優しさだけではなくて――縄で縛られているみたいに重い。
気づけば、三枝明那が隣に潜り込んで手を繋いでくる。
三枝明那「ねえ、寝よ?俺がついてるから」
無邪気な笑顔なのに、握る手は強くて離してくれない。
剣持刀也は少し離れたところでスマホを見ていたが、視線は常にこちらを見ていた。
加賀美ハヤトは窓辺に立ち、静かに夜空を見ていた。けれど、誰よりも不破湊から目を離していないことを、不破湊は敏感に感じ取っていた。
───みんな、優しい。
もう僕は天使なんかじゃないのに、優しすぎる。
その優しさが、胸を締め付けて苦しい。
不破湊「……僕、幸せだよ」
そう言うと、4人は揃って笑った。安堵したように。
けれど、その笑顔はどこか───壊れそうなほど必死だった。
不破湊は分かってしまった。
自分はもう、逃げられない。
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