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るな
185
(株)姫神V
237
霰❄️
85
ゑぬ。
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これは、ある男の懺悔――と思われる――を書き記したものである。以下は、その書き記したものの内容である。
* * *
ある日、私は鬼になった。
君と初めて会ったのは、まだ私たち夫婦に子供が出来なかった時だったね。
初めて挨拶した時は、君は怯えてたのか、緊張していたのか、眠たかったのか、それはわからないが、黙って大人しくしていたことは確かだった。 でも、我が家の一員となってからは、すぐに打ち解けて、一緒に散歩して、公園で遊んで、旅行したりもした。
私たち夫婦に子供が生まれてからも、もちろん家から追い出すなんてことはなく、ずっと一緒だった。
このままお互い天寿を全うするまで一緒にいるつもりだった。
しかし、ある日君は大罪を犯した。
一度や二度の過ちは許せたし、一家の主である私が何とかしてきた。
だが、さすがに今回は大事になりすぎた。
反省がなさすぎる。
会議の結果、君は死罪に値すると決定した。
私にも立場というものがある。
情状酌量の余地はない。
* * *
一日目
声を出せないように口を塞いだ。
息はできるが、食べることも飲むことも出来ないだろう。
もちろん、そのつもりでやっている。
自由に動けないように、要は簡単には逃走出来ないように鎖で拘束した。
到底人力でどうこう出来ないし、周りに鎖を壊すことが出来るものも置いていない。
入口も塞いで、入念に鍵の確認もする。
寝返りぐらいはうてるだろう。
いくら命乞いしても、決意は変わらない。
二日目
後々の掃除のことを考えて、一時的に箱から出して排泄させる。
水を飲ませてないが、小便はよく出るようだ。
命乞いのうめき声がうるさい。
夜になってもやめないので、脇腹に蹴りを喰らわせてやった。
観念したのか、苦しいからか黙り込んだ。
三日目
まだ生きている。
これくらいはもちそうだ。
想定内。
一時的に箱に出して排泄させる。
風呂に入ってないこともあるが、漏らしたのだろうか?
箱の中が臭う。
四日目
まだ生きている。
水は一滴も与えていない。
死なないものだな。
それにしても、何やら臭う。
五日目
サバイバルにおける「3の法則」というものを思い出した。
三日間水を飲まなければ死ぬという。
もう死んだかと思いきや、まだ生きている。
色々なサバイバル術を披露する番組があるが、実際は遭難箇所で動かず、ジッとしているのが一番だというのは本当らしい。
しかし、さすがに声がしゃがれてきているのは、お前の命乞いの時にわかった。
もう5日間何も食べさせてないし、口にしてないはずだが、宿便が漏れていたようで、排泄物の臭いがキツい。
六日目
まだ生きている。
案外しぶといな。
排泄させようた、一時的に箱の外に出すと、逃げ出そうとした。
動きは鈍い。
重い鎖を引きずって、逃げられる訳がない。
すぐに捕まえて、蹴りを入れてやった。
尿はまだ出るようだったが、さすがに昨日、一昨日より量は少ない。
七日目
まだ生きている。
本当に、動かずに体力温存させれば、意外とすぐには死なないようだ。
さすがに箱にこびり付いた臭いがしつこいので、排泄物の臭いを我慢して掃除する。
閉じ込めている箱を水で洗ったが、君はその水滴を必死で吸い取っていたな。
八日目
まだ生きている。
相変わらず命乞いのうめき声がうるさい。
九日目
朝から音がしない。
さすがに死んだかと思ったが、まだ生きている。
様子を見に行くと、まだ動いている。
箱の隙間から命乞いをする目が見えた。
でも、今さら止める気はない。
十日目
今日も死んでいない。しぶといな。
「3の法則」というのも、目安でしかないようだ。
ダメ元で命乞いしているが、当然無視。
十一日目
まだ死んでないようだ。
それだけ確認して放置。
逃走出来ないように鍵は厳重に確認する。
十二日目
もう意識朦朧としているだろうか?
反応は鈍いが、まだ死んでいない。
十三日目
箱を開けてみる。
排泄物とは違う悪臭がする。
どれくらい体力が残っているのか、試しに箱から少し離れたところに、水の入ったボウルを置く。
もう脚が言うことを聞かないのか?
はたまた、腐っているというか、壊死しているのか?
震えながら手だけで這って、水を舐める。
しばし水を舐めると、動きが止まる。
もはや水を飲む力もろくに無いようだ。
君と目が合った。
その目は、恐怖か?悲しみか?そもそも見えているのか?
私からすれば悲しそうな目をしているように見えた。
でも、止める訳にはいかない。
箱に戻した後、命乞いのうめき声が聞こえた。
君の声を聞いたのは、これが最後だった。
十四日目
とうとう、君は動かなくなっていた。
もう二度と動き出すことはないようだ。
口からわずかに血を吐いている。
腐敗臭が鼻にツンと来る。
生ゴミの臭いというには似てるようで違うし、
ドリアンのような臭いでもない。
酢と生ゴミと……何だろうか?
思い出せないが、それらを混ぜたような臭いだ。
とにかく鼻にツンと来る臭さ。
死の臭いとは、こういうものなのか……。
十五日目
死体を片付ける。
腐敗臭がすごい。
これが夏場だともっと強烈になるのかと思うとゾッとする。
死体は移送用の箱に入れ替て、処理するための場所に向かう。
窓を開けて、タバコを吸いながら車を運転するが、臭いが鼻にツンと来て、何も食べていないのに吐きそうだ。
予め用意した場所で死体を処理した。
元の場所に戻ると、箱や、その周囲の掃除をする。
十六日目
壁に……いや、部屋全体に染み付いた、あの臭いが取れない。
仕方なく芳香剤で誤魔化す。
掃除をする。抜け毛を見つける。
当たり前になっていたけど、綺麗な髪をしていた君は、なぜか抜け毛が多かったな。
まだ君が生きていた証が残っていた。
夜になると、君の声が聞こえた気がした。
きっと別の誰かだろう。
そう思いたい。
未だに時々、君の声が聞こえる。
君を殺してしまった罪の意識。
そして、
もう一度、
やってみたいと思ってしまう破壊衝動を……
コメント
1件
うわ……これ、めちゃくちゃ重いやつだ……。 最初は「家族」の話かと思ってたら、まさかこんな形で読ませるとは思わなかったよ。 「君」が何者か明確に書かれてないからこそ、読んでる側の想像がグサグサ刺さる。 「三日間水を飲まなければ死ぬ」って知識が残酷に響くし、最期の水を這って舐めに行く姿とか、目が合ったときの「悲しそう」って一文がもう……。 それでいて「もう一度やってみたい」で終わるのが、ただの懺悔じゃなくて狂気の反芻みたいになってて、背筋冷たくなった。 文体は淡々としてるのに、読み終わった後の余韻がえぐいな……。