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口々に言われることが、さらさら理解できない。
何言ってるの、ドラゴンを倒したとか。あたしが? あの巨大なドラゴンを? 馬鹿言っちゃいけない。
「ちょっと待って、なんの冗談?」
「冗談なんかじゃなくってよ。わたくしだって目を疑いましたけれど、残念ながら事実です」
「いやいや、待って。あんなえげつないサイズのドラゴン倒せそうなの、リカルド様以外にいるわけない……」
「俺でもあれは無理だ。ユーリンの桁外れの魔力量あっての快挙だろう。あの魔法を狙って展開できるようになれば敵無しだな」
「そうですわねぇ。制御できないならただの災害ですものね」
ちょっと待って、なんでみんなして真面目な顔で……まさか……まさか。
「え……本当、に?」
「もちろん」
ジェードさんが笑顔で頷けば、他の二人も真顔で首を縦に振る。
マジで??? ホントに、ホント?
オロオロと三人の顔を見るあたしに、ジェードさんはおどけたように笑いかける。
「でもさぁ、残念だったね。あのドラゴンの首を持って帰れば、伝説級の名を残せたのに」
「そうだな。ザブレット教授にも一泡吹かせてやれただろうな」
「ザブレット教授?」
誰だ、それ。と思ったら、アリシア様に睨まれてしまった。
「まあ、学年主任の教授の名前すら覚えていないなんて、ちょっと気を抜きすぎではなくて?」
なるほど、あのイヤミな学年主任、ザブレット教授っていうのか。名前なんかどうでも良かったから、つい。でも確かに、あのでっかいドラゴンをあたしが倒したんだって知ったら、泡吹いただろうなぁ。そう考えると、ちょっと残念だ。
「まあ、今あるだけでも充分だろう」
「そうですね。Aランクも狩ってあるし、Bランクもそれこそ大量に仕留めましたよね、リカルド様」
「ああ、早速帰還しよう」
リカルド様に促されて、あたしはチラリとジェードさんとアリシア様を見る。二人は、どうするつもりだろうか。
「どうする? オレたちも帰る?」
ジェードさんの問いかけに、アリシア様はわずかに迷う素振りを見せたけれど、ひとつだけ大きく息をつくと、まっすぐに顔を上げた。
「帰りましょう。もう魔物寄せの薬もないし……残念だけれど、わたくしたちの実力では、Bランクの魔物を倒すだけで精一杯でしたもの」
アリシア様の決断に、ジェードさんも柔らかな微笑を浮かべる。
「英断だと思うよ。そうと決まれば早いところ戻ろう。時間も大きな採点基準だ」
「ええ、ここから学園へ戻るだけでも、数日はかかりますものね」
頷きあった二人は、ひと呼吸おいてあたしとリカルド様に深々と頭を下げる。
「ありがとう。二人がいなかったら、今頃オレもアリシア嬢も生きてはいなかったと思う」
「悔しいですけれど、完敗ですわ。お二人には感謝してもし足りません。本当に、ありがとうございました」
驚くほど丁寧にお礼を言って、二人は樹海の奥へと消えていった。
大丈夫なのかな、さっきみたいに強大な魔物に遭遇したりしないのかな。そんな不安が頭をもたげるけれど、その心配は一蹴された。
「問題ない、先ほど広範囲で浄化の魔法をかけた。さすがにもう、魔物寄せの薬の効果はないだろう」
「あ、もしかしてさっきあんなに巨大なドラゴンが出現したのって」
「ああ、アリシア嬢が結界を解いたせいで、彼女に付着していた薬の残滓が魔物を呼び寄せたんだろう。君という天然の撒き餌も一緒だった故にあんな大物を引き寄せたのかも知れない」
「……!」
リカルド様の言葉にぞっとする。
魔法薬はもうないかもしれないけど、あたしの撒き餌度は別に変わらないわけで……それって、全然安心できないんじゃ?
不安に思うあたしに、リカルド様は穏やかな目を向けた。
「さあ、帰ろう。学園の敷地内は強力な結界が施されている。あそこより安全なところなど、この世のどこにもないからな」
「はい……やっぱり、危険なんですね」
「ああ、ユーリンは戻り次第、魔力の制御を再度習得した方がいいだろう」
「……リカルド様、教えてくれます?」
おずおずと切り出すあたしに、リカルド様は嬉しそうに微笑む。
「もちろんだ、任せてくれ」
それは、リカルド様に会ってから一番の、はっきりとした笑顔だった。
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「本当にA、ランクを、狩ってきただと……!?」
ふははははっ! 驚愕するがいい!!!
ああ、気持ちいい。目の前には驚いて腰を抜かさんばかりの学年主任の顔がある。
さすがにAランク+Bランク十二体の頭を目の前にすれば、そんな反応にもなるだろう。言っとくけど頭を持ち帰れなかったものも含めれば、もっとあるんだからね! 全部リカルド様が狩ったものだけどね!
「くっ……ハンデが足りなかったか」
ギロリとあたしを見る目は、いかにも忌々しげだ。ほんとヤなヤツだなぁ。
そう思ったのはリカルド様も同じだったみたいで、あたしの代わりにスゴイ厳しい目で学年主任をにらみ返している。
「彼女はハンデではありません。Aランクの飛龍を倒せたのは彼女のおかげです」
「はん、そんな筈があるまい。この落ちこぼれが何をできるというのかね」