気づかれないように、宇治と間隔を空けて美術室の前まで移動した。
中からは物を漁るような音が聞こえる。
別に隠れる必要ないけど。
「うわっ」
「わっ」
突然ドアから宇治が出てきて体が跳ねた。
「何してんの」
「、、絵描くのかなと思って。あ、さっきなんか話してたの聞こえたから」
「別にそんな隠れて来ることないでしょ」
宇治は廊下に置いてある道具をいくつか持ってまた教室に入った。
「入んないの?」
「え、あ、お邪魔します」
私は下に置いていた荷物を持って中に入った。
「これ、夏祭りのポスター?」
「うん、もうすぐテストだし早めに1枚は完成させときたいから」
下書きは終わっているようで、今から色を塗るところだろうか。
「さっきの人なんかあったの?」
「好きな子デートに誘いたいけど緊張するから一緒に来てって」
それであんなに頼んでたんだ。
「別の人連れて誘いに来たら引かない?」
「、、どう、だろ」
宇治は絵の具を準備して筆を動かし始めた。
1,2分の沈黙が続いた。
「佐倉と、もともと仲良いの?」
宇治が急に口を開いた。
「え、ああ、知り合いではあったよ。佐倉くん男バドだし、中学一緒だったし」
そうなんだ、と言って宇治は筆を動かし続けた。
「佐倉くんと仲良いの?」
「去年同じクラスだったから」
たしかに、宇治も佐倉くんもどっちも元1組だった。
「いい奴でしょ、佐倉。傘入れてくれるしね」
「、、なんであんなタイミングで宇治が居んの」
「なんでって、ただ帰ってただけだよ」
宇治は筆を動かす手を止めなかった。
「好きな色何?」
「え?、紫」
私がそう答えると、宇治は紫の色をつくって花火に色を付けた。
「ああ、名前に入ってるから?紫って」
「いや、ただ好きなだけ」
「そうなんだ」
「結構広めに紫塗るんだ」
「色重ねていくから」
宇治はパレットにまた新しい色を作った。
絵が出来ていくところを見るのは好きだ。
紫の上に赤、その上に青、最後に黄色を入れるらしい。
「黄色入れすぎたか」
「もっと入れてもいいと思う」
余計な口挟んだかな。
「どの辺?」
「あ、この」
━━━━━━━ “”
宇治が私の腕を掴んだ。
「危ない、絵の具」
私の制服の袖がパレットの上ギリギリだった。
「あ、ごめん」
宇治は私の腕をぱっと放した。
「ごめん」
「いや」
「この辺?」
「うん」
黄色が少し足されていく花火をじっと見つめた。
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