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挨拶回りをしようと警察署の本署にやってきた、ミンドリー、さぶ郎、ぺいんの3人。
正面のパーキングスペースに車を停めて降りると、敷地内からは賑やかな声が聞こえ、その雰囲気から今は大きな事件は発生していないようだった。
3人は正面玄関からメインホールに入った。そこは外の喧騒とは裏腹に人影は見えないため、カウンターにある呼び鈴を鳴らし人が来るのを待った。
しばらく待つと奥から警官がやってきたが、それは昨日会ったばかりのまるんであった。
「こんにちは。警察署にどのようなご用事で?」
「………。私たち、昨日この街に引っ越してきまして。中華料理店を始めるのですが、その挨拶回りで伺いました」
「…。なるほどです。後ろのお二人も働かれるのですか?」
「えぇ。家族ですので」
「お店はいつオープンになります?」
「この後、何ヶ所か挨拶回りに行くので、その後の大体夕方くらいですかね。イベントはしませんがSNSに告知は出すので。あとはお店だけではなく出前もやっているので、よろしかったらメニューどうぞ」
「拝見しますね。あぁ、ジョイントもあるのは嬉しいですね。お時間よろしければ、もう少しこちらでお待ちいただけますか?手の空いている署員を呼びますので」
「時間は大丈夫ですので、お願いしますね」
そういうと、まるんは無線で呼びかけをしてくれた。
『手の空いている方いらっしゃったら、本署のメインホールにお願いします。新規住民で中華料理店を開ける方がいらっしゃっています』
───中華料理店?行きます!
───飲食店来たーーー!
「ちょっとお待ちいただければ何人か来るみたいなので」
ものの数秒でメインホールには数名の警官が集まってきた。
新しい飲食店が開くことに皆興味津々で、さぶ郎は女性警官とメニューやファッションの話、ぺいんも出前や街の話をし、早速電話番号の交換をしていた。
そんな様子を少し離れたとこから眺めていたミンドリーに話しかけるものがいた。
「………。ご家族で移住されたとのことですが、ライセンスはお持ちですか?」
「そのあたりは移住手続きの審査の中で対応してもらったから取得済みですよ。なんなら調べていただいても構いませんよ」
「…。あぁ。3人とも各種運転免許と白市民パスも取得済みなんですね。………中華料理店でヘリや大型、船舶まで必要とは思えませんが」
「そこは前の街で持っていたものをそのまま申請してしまったので。確かに必要なさそうに思えますが、出前をやる予定でして。遠方まで対応しようと思ったらヘリや船が必要になる可能性もありますから」
「まぁ。そう言われればそうですね。あと、白市民パスの関係で警察で管理しているプロファイルにあなたを含めてご家族全員の指紋と写真を登録する必要がありますので、ご協力いただけますか?」
「それは任意ですか?それとも強制?」
「………。白市民パス登録の際にお願いという形にしていますが、ご協力いただけない場合は何か後ろ暗いところや問題のある人物として記憶させていただきます」
「まぁ、指紋や写真の登録は問題ありませんよ。手順の確認のために聞いただけなので」
「………。それではお手数ですが、別室に同行願います」
「承知しました。ぺいん君!さぶ郎!プロファイルに指紋と写真を登録するそうだから、こっちきて」
「はーい。それじゃお店にもきてね。またお話ししようねぇ」
「オケー。じゃ、出前とかで呼んで、その時にでも街のこと教えてくださーい」
本署地下にある個室に案内され、プロファイルの登録をしていく。
「はい。ミンドリーさん完了です。次、さぶ郎さん、そちらの壁でこちらを向いてください。写真撮ります」
「あーい」
「マスクは取ってください」
「………どうしても?」
それまで和やかだった雰囲気が少し緊張感のある空気に変わった。
「どうしても、です」
「………理由を聞いてもいいですか?」
「警察で利用するプロファイルの写真は原則素顔での登録です。これは犯罪者が偽名を利用したり変装している場合でも、素顔を見ることで本人であると確認するためです」
「………」
困り果てるさぶ郎を見て、ミンドリーが口を挟んだ。
「白市民で本人に特別な事情がある場合はマスクをした状態を素顔として登録するという例外があると思いますが、そういった配慮はありますか?」
「まぁ、無いわけではないですが、こちらもあなた方の素性や事情を把握しているわけではありませんので」
さぶ郎が「揉めたくないなぁ。仕方ないからマスク取ろうかなぁ」と思い始めた時、さらに空気を凍らせる出来事が起きた。
「………勿体ぶって。どうせ大した顔じゃないんだろうから、さっさとしろよ。写真一つに手間取らせやがって」
それは輪から離れた部屋の隅にいた警官からとても小さい声で発せられたが、ぺいんには届いていた。
「………お前、今なんて言った」
「………」
「入口の緑のアフロの警官だよ。こっちには聞こえてんだよ」
「………」
「言いたくないのなら追求はしないけどな。この街にはお前のように市民に寄り添う対応ができない警官がいると認識させてもらう」
それまで愛想よく会話していたぺいんが態度を急変させたことで、登録を行っていた青髪の男性警官が間に入ってきた。
「…斎藤。お前なんて言った」
「『もったいぶって写真一つに手間取らせて』というようなことを言いました。聞こえているとは思わず………」
「………言い訳はいらない。発言に関しては上官に当たる私、小柳から謝罪させていただきます。警官から配慮にかける発言があったこと、お詫びします」
「………っ。申し訳ありませんでした」
「あとは手続きだけだから、斎藤も含め対応しない者は退室するように」
「わかりました」
上官の指示だからなのか、冷え切った空気に耐えかねたのか、数人の警官が退室し、部屋にはミンドリーたち3人と、小柳という警官、女性警官のみとなった。
「さぶ郎、大丈夫?」
「お母さん、さぶ郎は大丈夫だよ。自信がなかっただけ。だからちゃんとマスク取って写真撮るよ」
「偉いな。まぁ、なんか言われても僕とミンドリーはずっとさぶ郎の味方だからな。家族だしな。最強だぞ?」
「うん」
「お待たせしましたぁ」
「はい、登録はこれで完了です」
すると一人の女性警官が、さぶ郎のプロファイル登録が終わるのを待っていて話しかけ始めた。
「いやぁ。さぶ郎さん、めっちゃ美少女やん。斎藤のやろーは後でしめとくわぁ。紙袋被っているの勿体無いわぁ」
「あざます」
「ねぇねぇ。もう一人の登録終わるまで外でお話ししない?あたしね、椎名っていうの。さぶちゃんって呼んでいい?」
「いいですよお。お父さん、お母さん、さぶ郎、外でお話ししてるね?」
「いいよ。帰る時に声をかけるから行っておいで」
「お待たせしました。伊藤さんの登録しますね。マスク外していただけます?」
「いいですよ」
「…。はい登録終わりました。ちなみになんですけど、マスクを常用している理由はありますか?」
「みんなに笑顔でいて欲しいから」
「…それだけですか?」
「それ以上でも以下でもないよ。もしかしてさっきの事、気にしてる?」
「えぇ。まぁ」
「あはっ。あれはね、僕がさぶ郎の家族ってこともあるけど、相手の事情も聞かず一方的に決めつけていたからだよ。まぁ、だからといって警察がどうあるべきかみたいなところまで口を挟む気は無いから。こっちはただの白市民でそんな立場じゃないしね?」
「あと、お母さんと呼ばれてましたが………」
「あぁー。そこ聞いちゃう?」
初対面の警官によりによって「お母さん」のことを聞かれるとは思わず、しどろもどろになるぺいん。なるべく誤解を生まないよう説明を始めた。
「まぁ、僕がお母さんなのは、一緒にいたさぶ郎って子が呼び始めたからなのね。なんか電話している時の声とか普段の話し方がさぶ郎の考える『お母さん』なんだって。当然、僕は男だからやめるように言ったんだけど聞かなくてね、僕の方が折れた」
「なるほど。で、こちらのミンドリーさんがお父さん、と」
「あーね。そこもさぶ郎が言い出したことだね。詳しくは僕も知らないけど。まぁねそんな感じで血縁では無いけどね、家族としてやっている訳ですよ」
「では、伊藤さんとミンドリーさんはご夫婦であると」
「んー。待て待て待て。そこは待て。誤解を生む表現だよね?僕たちはそれぞれさぶ郎のお父さん、お母さんではあるけども。僕たちは友人というか、どう………」
「また浮気ですか?」
「ちょ、ミンドリー、お前、何言ってるん?」
「さぶ郎と私という家族がありながら、また浮気ですか」
「いや、お前、ほんとに何言い出すの?今の会話のどこが浮気なん?てか浮気って何?またって何?ほら、小柳さん?固まってるってぇ。初対面の人に盛大なチョケかますのやめてもらえません?」
「………いや、驚きましたが多様性の時代ですし」
「お願いだから小柳さんも納得しないで。ほんとそんなんじゃ無いから。設定だから」
「まぁ、そういうことであれば」
「ん?なんか変に思ってない?あと、ミンドリーは背後で無言で首傾げているのやめて?圧、怖いから。ほら、この後の予定もあるんでしょ?さぶ郎待たせちゃいけないし、行くよ?」
外に出るとミンドリーとぺいんを見つけたさぶ郎が駆け寄ってきた。
「お母さん、お父さん!さぶ郎、お友達できた!」
「良かったな、さぶ郎」
「教えてもらったんだけど、今日の夜、誰でも参加できるピーナッツレースあるんだって!みんなで行こ!」
「オッケー、みんなで行こうな」
予想より時間はかかったが、次の目的地に向け予定通り二手に分かれることになった。
「じゃあ予定通り、俺とさぶ郎はピザ屋とメカニック回ってくるね」
「僕は救急隊とレギオンとカフェ回ってくるわ。終わったら店に集合でいい?」
「それでいいよぉ。何かあったら電話して」
「了解した。それじゃ行きますか」
ミンドリーとさぶ郎はランポで本署の東のピザ屋へ。ぺいんは配達用バイクで救急隊へと向かった。
「ミンドリーさん」
「なに?」
「ぺいんさん、怒っていた」
「そうだね。俺は聞こえづらかったけど、ぺいん君には聞こえていたんだろうね」
「多分、その前の事もだと思うよ。さぶ郎、申し訳ないなぁって思ったんだけど、ちょっと嬉しかったんだぁ」
「自分以外の人のために怒る事ができるのが、ぺいん君のいいところだよね」
「ね!」
「俺はこの3人で移住してこれて良かったと思ってるよ」
「それ、お母さんに言ってあげないの?」
「言わないよ。言うと調子に乗るか、しどろもどろになるかのどっちかだから」
「あははは。それもそう!」
出向いた先で懐かしかったり、新しい出会いが待っているのだが、それはまた次のお話で。