テラーノベル
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確かに人は居るのに、音はしない。
母さんは風呂に行ったし、類は部屋で勉強をしている。リビングに居るのは、ソファに座って、スマホを見ている父さんだけだ。
そんな静かな空間に、足音を立てて父さんに近付いたのは、まふゆ。
まふゆ「ねぇ」
声をかけても、父さんは返事をしない。普段から話すことが無いから、自分に話しかけられていると認識していないのか。よほどスマホに夢中になっているのか。意識的に無視を決め込んだのか。
まふゆ「ねぇ、あなたに話しかけてるんだよ。もうこれ以上、見て見ぬふりはできないから。」
直ぐに返事は無かった。だが、返事の代わりに、スマホを消した。
幾らかが経過した。
朝比奈父「…なんだ」
初めて、返事があった。
まふゆ「いつまで、無関係でいるつもり?」
朝比奈父「…なんの話だ」
分かっているだろうに。そうやってしらを切り続けるから、悪化して、沈んで、取り返しが付かなくなる。でもね、まだ司さんが、奏が、私が、諦めない。認められれば、まだ取り戻せるの。
それから、逃げないで。
まふゆ「類は、一度与えられた希望を手放した。誰のせいか、もう分かってるでしょ?自分は加害者ではないと、断言できる?」
父さんは、再びスマホに手をかけた。
まふゆ「逃げないで。」
朝比奈父「…今更、なんだ。これからと何も、変わらないだろう。」
ロック画面を眺めていた父さんは、ふと顔を上げた。ロック画面には、幼少期の類とまふゆが映っていた。…画面の向こうの私たちは、笑顔だった。
ああ、あなたも、認めたいんじゃない?
まふゆ「変わる変わらないじゃない。終わってしまう。」
スマホの明かりが消え、父さんがピクリと反応した。
朝比奈父「終わる…?」
まふゆ「今までこの家が均衡を保てていたのは、一重に類のおかげ。でも、光を知って、それからさらに深い闇を知った。」
父さんは、まふゆの話を聞いていた。逃げてはいなかった。
まふゆ「このままだと、類は壊れてしまう。」
目を伏せた。
まふゆ「父さんも、動かないと。」
沈黙が落ちた。さっきとは違う、沈黙だった。
朝比奈父「自覚はしていたつもりだ。私が、ずっと逃げてきたことは。」
自傷的に笑った。付いたスマホのロック画面を、撫でた。いつかは、本人たちにと思っていたと思う。それも、いつの間にか消えていたが。
朝比奈父「娘が、他の誰かが、ここまで動いているのに。私は、何をしていたのだろうな。」
まふゆ「まだ、やり直せる。」
まふゆは、ゆっくりと手を伸ばした。父さんも、それを見てそっと手を置いた。
まふゆ「私達と一緒に、類を救いにいこう?」
朝比奈父「…私が今更、救うなどと綺麗なことを言って、許されるのか…?」
まふゆ「それは、私に聞くことじゃない」
もうどちらも、何も言わなかった。
ただ、吹っ切れたようにロック画面を眺めていた。
その翌日、司と奏はまふゆに指定された住所に足を運んでいた。
司「住所はこの辺りだよな…?」
奏「ここは…アパート?」
2階建ての少し古びた、何の変哲もないアパート。その玄関に、まふゆは立っていた。
奏「まふゆ、ここに何があるの…?」
まふゆ「私も、よく分かってないの。」
まふゆの発言に、司と奏は驚愕の声をあげる。
司「は?!」
奏「どういうこと…?」
まふゆ「父さんに、その友達を連れてきてほしいって言われただけで…。」
そんな話をしていたタイミングで、2階の部屋の扉から父さんが顔を出した。手招きをされたので、そのまま登っていくと部屋に招き入れられた。
部屋と言っても生活感は無く、殆ど家具も無い。司達3人が部屋を見渡して居ると、父さんは頭を下げた。
朝比奈父「すまなかった。君達が動いてくれている中、私はずっと逃げ続けていた。」
司と奏は、困惑と共に確信を得た。昨日の夜、まふゆから「父さんの説得に成功した」旨のメッセージを貰った時は正直、まだ疑いもあった。その疑惑も、これを見てしまえばもうありはしなかった。
朝比奈父「それから、ありがとう。私が逃げ続けていたことに、向き合ってくれて。」
最初に前に出たのは、司だった。
司「貴方もこれから向き合うんだから、同じですよ。」
コメント
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まふゆがお父さんに正面から向き合ったシーン、すごく胸に響きました。ロック画面の幼い二人の笑顔を撫でながら「やり直せる」と言うまふゆに、ようやくお父さんが応えた瞬間、「ああ、変わろうとしてるんだ」って感じられて、読んでるこっちも安心しました。それにしても、アパートに連れてこられたまふゆ自身が「よく分かってない」って言うのが気になりますね…この先、何が待ってるんだろう。続きが気になります。
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